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「世界でいちばん透きとおった物語」ラーメン屋で寿司が出てくる本

結論から言うと、まだ読んでいない人は以下全く目を通さずに読んでほしい。これはそういう類いの本。一応ネタバレは控えて書き進めることにするが、最も楽しいのはノー情報摂取な本だと思うので、興味がある方は是非そうしてほしい。


このツイートに釣られてホイホイ買ってしまった。

「紙の本でしかできない仕掛けでビビりますよ」なんていわれているのだから、そりゃ紙の本でしかできない仕掛けがあるのだろう、と思いながら読んでいた。当然読み進めているときも、気づいていないけどきっと何かあるのだろう、これだけ読むのだから、そりゃびっくりさせてくれるのだろう、という期待感があった。

ただ、まぁぶっちゃけてしまうと、内容は正直そんなに面白い気がしなかった。別にありきたりというわけでも無いけれど、途中の展開は創作だとしてもちょっと唐突すぎるし、無茶もあるし、読ませるような刺激的なものでもない。文章の個性もそんなに感じられない。途中で読むの辞めそうになったが、この本は220ページ程度と文庫にしては薄いこともあり、まぁ最後まで読めばちゃんとこの苦悩が報われるのだろう、と思い頑張って読み進めた。


まさかこれが全部仕掛けだったとは。まさかそこまで狙ってやっていたのか。最後の20ページを読んで本当に驚いた。


紙ならでは、というのも予想はしていた。紙なんだから、紙特有のものが仕込まれているとか、あるいは敢えて乱丁やら落丁やらしていて、それが凄いことになっているとか、そんなもんだろうと思っていた。が、それを越えてきた。

もう、気味が悪い本なのだ。この本は。凄まじく精巧なものを見たときに狂気を感じることがあるが、その感情に近いものをこの本は与えてくれる。こういう気持ちになる読書というのは生まれてはじめてで、なんというか、ラーメン屋で超高級寿司がでてくるような気分だった。変なたとえだが、それぐらい変わったことをされるのだから仕方が無い。

そんな本なので、おそらく嫌な人もいるのだろう。Amazonレビューは星4.0で、絶賛って言うよりは賛成多めの賛否両論という感じだった。だがそれも分かる。だってこれ、本だけど普通の本がやってくることと違う攻め方で楽しませようとしてるんだもの。同じ土俵で比べてはいけない。

そういう、不思議な、新しい体験を与えてくれた本だった。今年一番面白い、というのは言い過ぎだが、今年一番のラーメン屋で出た寿司、ではあるので、自分の中のラーメン屋で出た寿司ランキング一位を当分の間獲得し続けることだろう。

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