2010年代の友部正人

『クレーン』(2010年リリース)

01. 生きていることを見ているよ
02. 雨の向こう
03. かわりにおれは目を閉じてるよ
04. 仲のいい二人
05. いじわるそうな女の子
06. 手袋と外国コイン
07. ダンスホール
08. 廃品回収業者
09. 追伸
10. 退屈
11. ロックン・ロール
12. つばめ

ふちがみとふなとと友部正人のユニットLDK名義で『二つの午後』というミニアルバムを2009年にリリース、三宅伸治と友部正人の2人で吉祥寺スターパインズカフェにて2009年8月に公開ライブレコーディングを実施(ぼくも行ってきた!)したライブ盤『ロックンロール、やってます』を2010年にリリースするなど、兼ねてから交流のあったミュージシャンとユニットでの音源化が続々と続いた2009〜2010年、満を持して2010年秋に最新作が届く。東京ローカル・ホンクが全面的にレコーディングに参加している。

『カンテ・グランデ』収録「ロックン・ロール」を東京ローカル・ホンクと新録していたり、オムニバスアルバム『春一番1972』にライブ音源が収録されていてオリジナルアルバムでは未収録「追伸」が収録されていたり、どんととの共作曲「かわりにおれは目を閉じてるよ」がここにきて収録されていたりなど、バラエティに富んだ内容となっている。

ぼくが大学二年生だった2009年の夏、葉山の海小屋でのコンサートで東京ローカル・ホンクとの共演をはじめて目にした。海をバックに浜辺で演奏していた光景が忘れられない。まだ音源化する前の「雨の向こう」「手袋と外国コイン」「かわりにおれは目を閉じてるよ」などを聴くことができた。

ぼくが大学生だったということと、いちばん友部正人のライブに足を運んでいた時期でもあるので、このアルバム全体を通してかなり思い入れの深い作品だ。やはり、若い頃に聴いた音楽且つリアムタイムの強さ、というものを身をもって感じる。

このシリーズでも何度か書いている、はじめて友部正人のライブを観に行った2008年11月24日の吉祥寺スターパインズカフェでのリクエスト大会、本編を終えた友部正人がアンコールで再登場し、「今日はずっとみなさんのリクエスト曲を歌ってきましたが、1曲だけぼくのリクエスト曲を歌います」と言って、数多ある自身の曲の中から何を選んで歌うのか、と客席全体が固唾をのんで見守るなかはじまったのが、当時新曲であり未発表曲の「廃品回収業者」だった。いまにして思えばこれこそ友部正人だと思う。いつでも新曲を歌いたいのだ。
曲が終わったあと颯爽と舞台袖へはけていった。隣に座っていた夫婦が、「廃品回収の歌でライブが終わるのなんかやだな〜笑」と冗談まじりに話していたことをいまでも覚えている。客席みんながそう思ったのか笑、再びアンコールを求める拍手に応えて再登場。ボックスからくじをひいて「地獄のレストラン」を歌ってこの日のライブが終わった。凄いものをみた、という感動が忘れられない。「廃品回収業者」は10年以上経ったいまでもぼくのフェイバリットソングのひとつだ。

それと、2010年11月18日に友部正人と双葉双一の2人にお声がけして、西八王子アルカディアの当時のマスター高木さんとスタッフの方々の了解とバックアップを受けてライブを企画させてもらったことがある。『クレーン』のリリースから二ヶ月後くらい。そのあたりの記憶もあいまって、ぼくにとっていまでも特別なアルバムとなっている。

近年のライブでも「つばめ」「いじわるそうな女の子」なんかがたまにライブのレパートリーに加わることがある。「廃品回収業者」はアルバムリリース以降暫くしてからの普段のライブで聴いたことはないのだが、数年前仙台にて初のリクエスト大会があったときにこの曲をリクエストをして、それが通って聴いたことがあるくらいだ。「廃品回収業者」を溺愛しているのは全国でぼくだけなのかもしれない…笑。


『ぼくの田舎』(2013年リリース)

01. ぼくの田舎
02. 歌は歌えば詩になって行く
03. SKY
04. 日本に地震があったのに
05. タブロイド・ウォーター・ブルース
06. ランブリン・ジャック
07. 昨日までの明日
08. 日暮れの子どもたちの手を引いて
09. マリーナとウーライ
10. お話
11. 弟の墓

前作『クレーン』に引き続き、東京ローカル・ホンクが数曲参加している他、Dr.kyon、向島ゆり子もこのアルバムに参加している。

2011年の震災以降に作られた曲が収録曲の多くを占めている。震災があったとき、友部正人は当時住んでいたニューヨークのアパートにいた。翌4月のライブを観に行ったのだが、このとき既に「日本に地震があったのに」を歌っていた。

2012年2月号の現代詩手帖に5篇の詩が掲載された。「1302」という詩が「昨日までの明日」と改題してアルバムに音源として収録されている。この現代詩手帖にアルバムの収録曲で掲載があったのは「タブロイド・ウォーター・ブルース」「日本に地震があったのに」の計3篇。他は「フジロック」「朝はエレベーターに乗ってやってくる」の2篇となる。「フジロック」はこの時期にライブでも頻繁に歌っていたのだが、収録は見送られていまだに音源としては未発表のままである。
「弟の墓」は上記の西八王子アルカディアでのライブのリハーサルで歌っていたことを覚えている。本番では歌っていなかったが。


『ブルックリンからの帰り道』(2016年リリース)

01. マオリの女
02. From Brooklyn
03. ニューヨークシティマラソンに捧ぐ
04. 彼女はストーリーを育てる暖かい木
05. 見えないゴール
06. クジャクのジャック
07. 隣の学校の野球部
08. さわがしい季節
09. 風邪ひき男のララバイ

前作『ぼくの田舎』から3年振りのアルバム。『6月の雨の夜、チルチルミチルは』から長く活動を共にしている水谷紹や、『読みかけの本』以来の参加となる山川ノリオ、そして元RC サクセションの新井田耕造などが参加している。

ゴーギャンがタヒチに滞在していたときのことを歌った「マオリの女」は圧倒せざるを得ない。2010年以降の、というかキャリアを通しても友部正人の代表作といっても過言ではないと思う。どんどんと傑作を生み出してしまう。
かと思えば、というはじまりは大変失礼にあたるのだが、住んでいるアパートの隣にある学校から聞こえる野球部員たちの声がうるさい、ということだけを歌った「隣の学校の野球部」という歌もある。『クレーン』収録「廃品回収業者」と並ぶ(ぼくが勝手に並べているだけで誰も並べていないが)二大騒音ソングである。この素直で正直な側面が友部正人の好きなところでもある。
「From Brooklyn」は現在でも頻繁にライブのレパートリーに取り上げられる曲だ。ライブの終盤に歌っている印象が強い。このアルバムのリリース前後にニューヨークから仙台へと生活の第二拠点を変えている。約20年以上横浜とニューヨークを行き来する生活をしていた友部正人。ニューヨークでの生活のなかで生まれた歌は数えきれないと思うが、この「From Brooklyn」はニューヨークでの生活を歌った最後の歌かもしれない。
「クジャクのジャック」「彼女はストーリーを育てる暖かい木」など、現在でもライブのレパートリーに加えられることが多い。


以上が【2010年代の友部正人】です。
個人的に10年代は、はじめから終わりまでがっつりライブを観てきて、がっつりリアムタイムでアルバムを聴いてきた初の時代なので思い入れが強い。友部正人本人が語るエピソードや、HP上の過去の日記や、その他ネット上にあるテキストなどではなく、丸々ぼくが見てきた時代なので、アルバムの枚数に比べて文字数が多くなってしまった。昔から友部正人を聴いている人が羨ましい。
次回は【2020年代の友部正人】です。

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