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対話がスタートでありゴールでもある

発達障がい診療って何するの(4)

私は数年前にオープンダイアローグを知ってから、診療のスタイルは大きく変わりました。そして診療が楽に楽しくなりました。しかし、特に自閉スペクトラム症の方、愛着障害の方にはオープンでフラットな対話に至るまでに手立てが必要なことがあります。

対話がスタートでありゴールである


 オープンダイアローグはフィンランドの僻地での精神医療の実践から生まれ発展した方法論です。急性精神病などのクライシス状態の方にタイムリーに支援者が訪問し、当事者と医療者、支援者、家族などの関係者も加わり、対話の場を設定して対話を継続していくというシンプルなものですが目覚ましい効果を上げて世界的に注目されています。
 
 対話とはそれぞれの主観や体験を言語化して共有することをひたすら続ける営みです。相手を責めたり、あらかじめ落とし所をさだめたり、相手を変えようとはしない。それでも対話を通じて相手の見えていなかった部分が見えることで、自分にも無意識の認知や行動の変化がおきます。そしてそれは必ず双方に変化と成長をもたらします。

だから私は親子でも、教師と生徒でも、医師と患者でも対話が基本であり、その総量を増やし、対話を継続するということを目標としています。

診療においては対話が成り立たない要素を取り除き、対話が成り立つようにサポートをします。対話が成り立つためにはヒエラルキーを排して、オープンでフラットな場を作る必要があります。
文化も言葉も違うところから来た人たちが、同じ場所で過ごす状況などを考えていただければイメージできるかもしれません。

それでは対話が成り立たないとはどういう場合でしょうか?

コミュニケーションの方法がわからない場合

 
まずコミュニケーションの方法がわからないために対話が成り立たないという場合があるでしょう。

 そういった場合でも相手と対話をしたいという意欲さえ双方にあれば、いろいろ工夫して対話は継続できるかと思います。 違う言語しか知らない人同士が対話する場合は通訳や辞書を考えるでしょうし、耳が聞こえない人がいた場合は手話や筆談などの情報保障を考えるでしょう。

ではASDの方、知的障害の方とやり取りの場合はどのような配慮が必要でしょうか?

 ASDは社会的コミュニケーションの障害といわれますが、その背景には情報の受け取り方が異なるというのが根本にあります。例えば、見ているところ感じているところ、興味のあるところが多数派の人と全く違うところにあったりします。特に耳から入った言葉を頭の中でイメージして操作するのが苦手だったりもします。疲れや身体の変化などの内部感覚や身体感覚に対しても鈍かったり、あるいは過敏すぎて上手くとらえられない人もいます。

こういうASDの方に「体調はどうですか?」「気分はどうですか?」と聞いても、「分からない」、「普通」というような答えが返ってきたりします。

 また、「何か困っていることはありますか?」と聞くと、「大丈夫です」という答えで返ってくることが多いです。

 これは本当に困っていない場合もありますが、答え方がわからない場合、我慢している場合、何に困っているか自分でも気づいていないという場合もあるかとおもいます。こうした気づかず型、がまん型の潜在ニーズを自分でとらえて、表出できるようにサポート行くことが必要となります。

ASDの方とのコミュニケーションのために必要なこと


少数派であるASDの方と対話するためには、彼らの世界に関心をもつとともに、コツを知っておく必要があります。異文化を知るために、語学を学ぶようなものです。

先程の例では、気持ちや疲れに関して、できたらスケールを見せたり、書いたりしてしめしながら、何点くらい?何%くらい?と聞いたり、いくつかの選択肢をこちら側で示して聞くといったようなことがコツです。選択肢を示して聞くためにはASDの方の体験や困り感に関する知識が必要になります。質問紙などを使うという方法もあります。

視覚的にやりとりすることがおそらくは一番重要なポイントであり、音声言語では、ほとんどエコラリア(オウム返し)になって、やり取りができないような青年期の自閉症の方と、インプットとアウトプットのチャンネルを探りつつ、コミュメモ®などをもちいた筆談やLINEなどの視覚的ツール、絵画や音楽などを用いて丁寧にコミュニケーションをとると、感覚として音声言語に比べて10倍くらいやり取りできることもあります。未だに親や教員や支援者であっても、このようにやりとりする場面をみせるとこんなにやり取りできるのかと驚かれることがあります。

よく医療でも教育でも福祉でもアセスメントをということがいわれますが、まず必要なのはコミュニケーションの方法やパターンのアセスメントなのだと思います。それさえできればその方法を使って対話をつづけていくことができます。コミュニケーションの成功体験を積んでいけることができます。
そうすれば周囲の人は彼らの体験世界を知って学んでいくことが出来ますし、彼らにこの社会で生きていくために最低限必要なことを伝えることができます。
(つぎ→感覚への配慮と視覚的な情報保証が必須




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