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善性

息が上がる前に息を止めたら良かった、駐停車、忘れる前に全部忘れる。
6月の線香の香りと細い線、見たことがないのに思い浮かぶ憂鬱な古民家と踏みしめた畳の軋む音。

精神の世界に興味の皺を寄せて陶酔するのは、いつだって現実世界を直視するのが恐ろしかったから。
人間の心理なんてだいたい同じで、気持ちがいいぐらい都合の良さを拗らせて、弱さのソレに当てはまる自分に息を吐く。

ずっとも、永遠も口約束だよ。
穏やかな微笑み 日に焼けた痛み
好きな人には本を読んで欲しいし、本を読んで欲しくない。
言葉を覚えることへの苦しみは成長痛に似ている。
いつだってくるしい、いつだってくるしい。

若い塊を見た。校庭で舞う砂埃に身を翻す若い命を見た。
煌めく魂は眩しく、それだけで無限の力で私を刺し、穿いた。
私たちの面影など、最早どこにも無かった。
無く、安心した。
立ち去る後ろ姿は、もう過去に過ぎず、ようやくそれを理解した。
まぶしい笑顔はあなた方のものだけで、誰にも汚したり、触れる権利はないと思った。
大人はそうあるべきだと感じた。
まだ何も知らないまっさらな横顔と、これから知る世界への期待を膨らませた無謀な笑顔に、涙が出そうであった。
教室の薄汚れたメダカの水槽や、午後の光、廊下の影とその香り、春の訪れを覚える柔らかさは既に美しく虚飾された過去という名の虚像で、痛みを帯びた栄光で、私達は前を向いて歩いていた。

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二人だけの秘密だよ

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