【リサーチ開始】『サイツノAIR_失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』
『サイノツノ・アーティスト・イン・レジデンス 2024(略称:サイツノAIR) 犀の角×柏屋別荘倶楽部 失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』では、今から約100年前に作られた長唄「風流七久里の里」(以下、別所長唄)について、リサーチを実施。長野県にゆかりある3組のアーティストを招き、別所温泉を拠点に、長唄が作られた背景や現在の状況を調べました。
▽【イントロダクション】
https://note.com/hagoromo_project/n/ne1b767dd976c
1日目:7月2日(火)
北向観音から北西へ少し登った先にある柏屋別荘倶楽部(元・柏屋別荘)。現在は、創造の場を提供する施設として開かれていますが、その歴史は古く、江戸時代には上田藩の出屋敷、造り酒屋を経て、明治45年(1912)年に専業旅館として創業しました。
惜しまれつつも平成29(2017)年に閉業されましたが、現在もワーケーションや地域のサークル活動、イベントの場として活用されています。
当プロジェクトは、柏屋別荘倶楽部を拠点に、別所長唄や別所小唄に関する調査を実施。初日の7月2日は、アーティストやスタッフの顔合わせからはじまりました。それぞれの活動についてや、考えていることをはじめ、事前に各自が集めた関連資料の共有などを行いました。
午後は、旅館時代の最後の当主・斉藤善哉さんに、柏屋別荘と別所長唄の作詞を行ったタカクラ・テルとの関係性についてお聞きしました。その後、別所温泉を散策。安楽寺の前にあるタカクラ・テルの石碑や、大湯の近くにある「大湯薬師歌碑公園」を巡りました。大湯薬師歌碑公園の石碑には、別所長唄の歌詞が刻まれていました。
2日目:7月3日(水)
2日目の7月3日は、主に自由時間として、アーティストそれぞれのアプローチで別所長唄のリサーチを実施。夕方は、柏屋別荘倶楽部の現在のオーナーである信田直昭さんに、施設内を案内していただきました。
夜は、Earthworks Guesthouse(アースワークスゲストハウス)にて、信田さんを交えてのご飯会を開催。別所近くの野倉で「森のくすり塾」を主宰するチベット医・小川康さんや、別所地域で盆踊りを教え、自身も日本舞踊・西川流で西川小扇都(にしかわこせんみや)として活躍されている寺田都志子さんらをお招きし、別所地域の方々との交流を深めました。
3日目:7月4日(木)
3日目の7月4日は別所温泉を離れ、中野市にある中山晋平記念館へ。童謡「シャボン玉」など数多くの童謡や新民謡、流行歌を作曲したことで知られる作曲家・中山晋平。新民謡運動の流れから中山晋平については外せない、調べねばならないということで中野市へ向かいました。
また中野市は、中山晋平と同時代を生きた作詞家・高野辰之の出身地ということで、高野辰之記念館も訪れました。高野は、童謡「故郷(ふるさと)」や「朧月夜」など数多くの歌を作詞したことで知られ、中山が作曲した「飯山小唄」の作詞も手がけています。
柏屋別荘倶楽部に戻ってきた一同。大広間にて模造紙を広げ、ここまでのリサーチで気になったキーワードや考え、アイディアなどを付箋に書き出しました。時折、3日満月の佐藤さんが弾く三味線の音色に耳を傾けつつ、言葉を交わす時間となりました。
4日目:7月5日(金)
リサーチ最終日の7月5日も、別所温泉を離れ、今度は佐久市の多津衛民藝館へ。佐久市の望月小唄について、望月小唄保存会会長の柴平忠春さん、会員の大森睦男さん、同じく会員で多津衛民藝館の元館長の吉川徹さん、3名にお話を聞きました。
望月小唄は、中山晋平が作曲、甘利英男が作詞し、1928(昭和3)年に発表された新民謡。望月小唄の歴史をはじめ、どのように保存に努めてきたか、また会員の高齢化と減少に対策を打ち、現在では若い人も保存会に参加しているといったお話に前のめりで聞き入る一同でした。
リサーチを振り返って
4日間のリサーチを終え、アーティストと犀の角代表・荒井洋文さんに感想を聞きました。
藤原佳奈さん:時代も地域も全然像が掴めないまま始まったリサーチでしたが、別所温泉に滞在し、空気感に触れながら、新民謡運動や長唄・小唄が生まれた経緯を手繰り寄せていく感じがしました。歌は、地域や人びとの間でどのように受容され、残ってきたのか、残りうるのか。経済、政治、人との関係。このリサーチはプロジェクトメンバーそれぞれの見つめる視点が違って面白いと思います。戦前戦後に、自分たちの歌を作ろうとした欲求って、今の時代にも近いものがあるのではないでしょうか。
佐藤公哉さん:別所長唄や小唄を作詞したタカクラ・テルさんは、東京から地方に入って、学びの場を作り、そして歌を作った。そのことが興味深かったです。あと今、リサーチとは別に自分たちでやろうとしてる企画があります。新野の盆踊りを取り上げて、いろんな人が気軽に参加できる場を開こうと考えている企画です。今まで東京からミュージシャンを呼んでいましたが、今年は松本のメンバーたちでやってみようかと。あと、松本にも「ぼんぼん」という古い歌があって、そのぼんぼんをフックアップして曲を作ってみようとも考えています。伝承されてる望月小唄と、伝承されてない別所小唄やぼんぼん。今回のリサーチは、自分の企画との相乗効果がありました。
権頭真由さん:わたしは、1日目と最終日に参加しましたが、出たり入ったりだったので、逃した感、出遅れた感があって……。これから帰って公哉さんにいろいろと共有してもらおうと思います。4日間ですごく広がってて驚いたのと、音楽的な視点を深めていきたいと思っています。これが今後、深度をましていくと思うとすごい。しっかり追いかけていきたいです。
月影瞳さん:普段、なかなかお会いできないであろう様々なバックグラウンドを持つ方たちと交流ができ、この企画を立ち上げてくださった荒井さんに感謝です。別所という地名は、全国の至るところにあり、独自のコミュニティと歴史があると思いました。その土地の歌を作り、守り残していこうという気概をとても感じました。また当時は緩やかな時間を過ごす中でも人間の生きるパワーがあったのではないでしょうか。今に残ってるということは、その土地への願いを込め全身全霊をかけて作ったのだと思います。また各地から、様々な方たちが集まり、生活する中で文化交流ができ、知識も豊かになり人生を謳歌していたようにも思える。自分の故郷の歴史を学べるこの時間は貴重だと思いました。
荒井洋文さん:100年前の別所のジャーナル誌「別所時報」の記事をきっかけに別所長唄・小唄の存在を知った。明治維新以降に西洋化が急速に進むなかで、みんなで唄える唄を歌いたいという欲求が地域に芽生えて、そこから唄を作り、結果盛大なお披露目会になったということを今回学んだ。唄を求めてたということは、西洋化するなかで地域の唄を失ったからだろう。現代人は唄を失ったことにすら気づいてないのかもしれない。我々は民謡の授業を受けていないし、演劇に関して言えば、西洋式の演劇を主に学んできた。西洋の演劇が正統になって、日本やアジアの演劇を学ぶ機会は少なかった。私の場合は出会ったのがアングラだったので、前近代の演劇性が少しは身体に入っているとは思う。今の時代に「みんなで歌おう」となった時、「みんな」って誰だろうと考える。今回のリサーチの成果を演劇的に表現することで、この先にわかってくることがたくさんあるのではないかと思いました。
文責:やぎとまちの記録室 やぎかなこ
協力:柏屋別荘倶楽部
支援:信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)
令和6年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業
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