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【イントロダクション】『サイツノAIR_失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』

「別所長唄」をご存知ですか?

長野県上田市には、古くから続く温泉街・別所温泉があります。記録によると平安時代からあり、1400年の歴史があるといわれています。川端康成や北原白秋、池波正太郎などさまざまな文化人が訪れてきた別所温泉。今から約100年前に「別所小唄」と長唄「風流七久里の里」という唄が作られました。長唄「風流七久里の里」(以下、別所長唄)は、劇作家で政治家でもあるタカクラ・テル(1891-1986)が作詞を行い、「別所小唄」は住民から募集した詞をタカクラが選んで作った唄です。

約100年前に作られ、当時北向観音横の劇場で盛大なお披露会が開かれたという別所長唄と別所小唄ですが、今はもう唄や踊りを継承している人がおらず、披露される機会もほぼありません。タカクラ・テルは、なぜ別所長唄を書いたのか。唄に込められた意味や、当時の日本における長唄や小唄の盛り上がりを、令和の時代に改めて見つめ直そう。そうして生まれたのが『サイノツノ・アーティスト・イン・レジデンス 2024(略称:サイツノAIR) 犀の角×柏屋別荘 失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』です。

『サイノツノ・アーティスト・イン・レジデンス 2024(略称:サイツノAIR) 犀の角×柏屋別荘 失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』は、上田市にある劇場兼ゲストハウス「犀の角」が手がける企画です。県内外で活躍する長野県ゆかりのアーティストを集め、地域住民と共に別所長唄の調査を実施。「別所長唄」や「別所小唄」の復刻に取り組むと同時に、過去の新民謡運動などへのリサーチを通して、現代における唄や踊りの在り方について再考を試みます。活動は2年間程度と長期間を想定しており、2024年度は冬期に中間発表を予定しています。

別所長唄について

昭和3(1928)年にタカクラ・テルが作詞を、杵屋佐吉(きねや さきち)が作曲した唄です。タカクラは、高知県出身の劇作家で小説家、政治家として衆議院議員も務めた人物。上田自由大学では、文学論の講師を務めていました。上田自由大学をきっかけに別所温泉へと移り住んだタカクラは、別所地域の人たちへの恩返しとして、別所長唄の歌詞を書きました。

また作曲を務めた四代目杵屋佐吉は、江戸時代から続く長唄三味線方の名跡。別所長唄だけでなく子ども向けの長唄や全国の温泉街から依頼を受け、さまざまな長唄の作曲を行なっています。

別所長唄が作られた当時は、別所温泉にある旅館のお座敷で芸妓が唄や踊りを宿泊客に披露していたといわれています。しかし、現在は、別所温泉には芸妓はおらず、また別所長唄を唄える人はいません。薬師堂という地域の片隅に石碑があり、長唄の存在を静かに伝えているのみです。

別所長唄を辿るアーティストたち

『失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』では、長野県にゆかりあるアーティストと共に、別所長唄を辿っていきます。俳優の月影瞳さん、演出家の藤原佳奈さん、音楽デュオ・3日満月の権頭真由さんと佐藤公哉さん。この4名がそれぞれの視点から別所長唄に迫ります。

月影瞳

⻑野県上田市出身。上田市観光大使、上田映劇理事。 元宝塚歌劇団・娘役トップスター。1990 年「ベルサイユのばら」で初舞台。入団 2 年目で新人公演、初ヒロインを
演じる。1997 年「誠の群像」で星組トップ娘役となる。その後雪組に組替えし引き続きトップ娘役としてミュージカルやショーなどで活躍する。2002 年に「愛燃える/Rose Garden」で退団。その後は、舞台を中心にコンサート、映画など多方面にて活躍中。2024年ブロードウェイミュージカル「DEATH TAKES A HOLIDAY」出演。

藤原佳奈

戯曲作家・演出家。兵庫県姫路市出身、現在、松本市在住。
わたしたちの〈はたらき〉を聴き、編み直し、上演の場をひらく。
能楽堂や取り壊し予定のアパート、居ぬきスナックなど、様々な場所で劇場の機能を検証し、人が集い言葉を交わす場をひらきながら、現代における上演を問い直す。とよはし芸術劇場主催 ⾼校⽣と創る演劇『Yに浮かぶ』脚本・演出。神奈川県主催 分⾝ロボットOriHime プロジェクト『星の王⼦さま』脚⾊・演出。2024年秋より、“半透明な劇場”をひらくプロジェクト「松のにわ」を始動。

3日満月

権頭真由(アコーディオン/ピアノ/歌)、佐藤公哉(ヴァイオリン/パーカッション/歌)によるデュオ。2011年にチェコ共和国プラハの満月を長引かせて結成。世界各地のフォークミュージックやクラシック音楽の影響を受けながら作曲・演奏活動を行う。
2017年より長野県松本市を拠点とし、映画、CM、ダンス、サーカス、人形劇公演など国内外の様々なアートシーンで音楽を担当している。
子どもたちと創る音楽サーカス「音のてらこや」を主宰。音楽の箱舟「表現(Hyogen)」のメンバー。
また佐藤公哉が中心となった「MIKUSA PROJECT」では、日本各地で取材した郷土芸能をもとにしたオリジナル曲をバンド編成で演奏している。


リサーチ、はじめました。

2024年7月。暑い暑い、上田の夏。市街地よりすこしだけ涼やかな別所温泉で、俳優の月影瞳さん、演出家の藤原佳奈さん、3日満月の権頭真由さん、佐藤公哉さんと共に「別所長唄」のリサーチを始めました。次回のnoteでは、夏のリサーチの様子をご紹介します。

文責:やぎとまちの記録室 やぎかなこ

協力:柏屋別荘の倶楽部
支援:信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)
令和6年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業


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