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女の戦闘力

ヘアトリートメントで髪をツヤツヤにする。ボディバターを塗って肌をもちもちにする。髪をコテでふわふわに巻く。パックで肌をうるうるにする。ビューラーでまつげをくるんと上げる。アイシャドウで涙腺をキラキラさせる。グロスで唇をぷるぷるにする。最後にハイヒールを履いて、私は一息つく。「ああ、強くなった」と。

2日に1回はジムに通って体を絞っている。運動は好きじゃないが、義務として続けている。鏡の前に立つと、以前よりいくらかほっそりとした、しなやかな体が出来上がっていた。ほう、とため息をついて「うん、強くなった」とつぶやく。私は強くなることに余念がないのだ。

今より10キロ重かったころ、体の周りに透明なトリモチがくっついているようで、とても居心地が悪かった。トリモチで包まれた私は不格好だったろうし、モタモタしていたと思う。歩くたびトリモチに余計なものがくっついて醜くなり、私の自信を日々削いでいった。だんだん私自身よりもトリモチの方が大きくなって、私は小さく縮こまった。

化粧行動には変身願望を満たす働きがあるという。そういえば、女の子のバイブル『セーラームーン』を筆頭とした魔法少女ものは大体そうだ。コンパクトを開いて、メイクをすると強くなる。強くてかわいい女の子に生まれ変わる。

何者かになりたい、変わりたい、進化したい、強くなりたい。化粧すれば私は変われる。綺麗になったら私は進化する。美しさを手に入れて、私は強くなる。そのためなら、努力もするしお金も使う。強くなったら、自分をもっと肯定できる気がする。そうして私は火がついたようにダイエットをはじめた。

青天井の美意識にくらくらしながら、それでも手を伸ばす。
霞がかったその先にあるのは、果てない欲か理想の私か、まだ知らない。

#エッセイ #女 #美意識

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