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ひとり、ひとり。ふたり、ふたり、ひとり。

明石市にある魚の棚の路地に、創業29年の喫茶店がある。
開店直後に店に入り、5席のカウンターに座る。

ブレンドコーヒーをオーダーする。
比較的大きめの音量で、アップテンポなジャズが流れている。コーヒー豆を目分量で量る。ミルで豆が挽かれ、ペーパーの7分目まで入った。25gはあるだろうか?手際よく、やかんからコーヒーポットにお湯が移される。やかんに付着している白い結晶の厚さ(カルシウム)が、歴史の長さを物語る。

店主がやかんを置く。「ガシャン」
店の扉が開き、スーツ姿の男性客が入ってくる。隣で一言。「コーヒー」
店の扉が開き、2人組の女性客が店に入ってくる。「2階上がります」
店の扉が開き、カップルが入ってくる。「2階行ってもいいですか?」
店の扉が開き、スーツ姿の男性客が左に座る。「ガナッシュとコーヒー」

ハイピッチなジャズのビート。
そして、ひとり、ひとり。ふたり、ふたり、ひとり。
店主のリズムも同調し始める。
飴色のグラス越しに、ずっと眺めていられそうだ。

気が付くと、店主に話しかけている。「ひとりでよくさばけますね」。すると、焦りのない落ち着いた声で「慣れたら体が勝手に動くんです」と店主が答える。支払いの際、代金と交換で記名された領収書が手渡された。

見えない小さな技。それがリズムのように合わさったり連なって、「普通(慣れ)」として表れる。たった15分の世界だったけど、人間らしい温度感のある体験できた瞬間だ。

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