大きな樹の話2
初めての巨樹探訪だった埼玉県では、全部で5本の樹に会いに行った。どれもその後に2回3回と会いに行くようになった素敵な樹ばかりだったけれど、上谷の大クスという樹だけは多分一生忘れない。 このクスの下に立った時の感覚が今の制作の軸になっている。
とにかく大きい、ひたすらに大きかった。 根元の存在感もすごいけれど、これでもかというほど広げられた枝が特徴だと思う。 天を覆うようにと言うが、本当に、少なくとも視界いっぱいは覆われた。 しかもその枝がどこまでいっても太い。首が痛くなるほど見上げる位置でも、まだ電柱くらいの太さがあった。 近くにあった解説板によると、樹齢は1000年以上だとか。その辺の雑草くらいの大きさから1000年経つとこれほどまでになってしまうらしい。 他の生き物に食べられることも踏まれることもなく、落雷や台風にも負けず、途方も無い時間を過ごしてきたのだ。 想像がつかないなりにも想像した。一体どんな確率なんだ。 この樹の前では時間の流れがゆっくりに思えた。 私はパワースポットで何か感じる体質ではないし、霊感とかも全くない。でもこの樹の前にいると、そこから離れたくないというか、不思議な感覚になったのは分かった。
昔の人々が樹を神さまとしていたのはある程度は理解できる。今よりずっと宗教が暮らしと密接な関係にあったから。 樹が無かったら生活の一部は成り立たなかっただろうし、神さまとして扱うかどうかは別としても、少なくとも感謝はしていたはず。 でも現代人の私が樹を神さまとしてみるのは「それが御神木だ」という知識が先に頭に入っているからだ。 普段から樹と接することはないし、何かしらの恩恵に毎日感謝する環境でもない。 そんな私でも、エネルギーじゃないけれど、樹から「何か」を受けとることができた。 この感覚だけは昔の人とも共通するかもしれないと思った。そこに樹に対する畏敬の念、その根源があるような気がしてならない。 その0地点を知るにはたくさんの樹に会って、あの感覚がどこかに由来するものなのかどうかを知らなければと思った。 そうして2年前から今日まで、この先も出来るだけ多くの巨樹に会いに行くことを決めた。
(次回へ) 次回といってもきちんと繋がる話をするつもりはあまりないです、、 色んな話を書き留めていく感じで、どうぞよろしくお願いします。
上谷の大クス(埼玉県 入間郡 越生町) 埼玉県指定天然記念物
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