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メタバースは「リッチなサードプレイス」でしかない

「だが、それがいい。最高の居場所だと思わんかね?」

仮想現実(≒メタバース)は、「生き方」という切り口で考えると「リッチなサードプレイス(家庭でも職場でもない第三の場所)」でしかない。
しかし、この「リッチな」という一言に、仮想現実の無限の魅力が込められている。

結論と主張

仮想現実(≒メタバース)の本質は、
① 新しい世界に理想の自己を出力し、
② 属したいコミュニティに所属することが可能な、
③ 自己を再定義できるフロンティアである。

アバター|理想の自己を出力する

仮想現実は、誰でもわかるような表現をすると「テレビゲーム」である。
なかでも、3DCGで描かれたリッチなゲームを想像してほしい。

多くのテレビゲームには「自分が操作するキャラクター」が居る。
この、テレビゲームにおける「自分が操作するキャラクター」が、仮想現実における「アバター」である。

アバターは、仮想現実上での自分の分身だ。

アバターとは自己そのものである

調べれば調べるほど、アバターとは自己そのものであると思えてくる。
例えば、「VR感覚(ファントムセンス)」という現象がある。

「VR感覚(ファントムセンス)」とは、VRゴーグルを被っている状態で、自分のアバターを誰かに触られると、あたかも「本当に自分を触られたような」感覚を覚えることだ。

上記のnoteによると、決して少なくない数のVRユーザーがVR感覚(ファントムセンス)を報告しているとのこと。

実際に「VR感覚(ファントムセンス)を体感した」と語る人と、私も会ったことがある。私自身は未体験の現象だが、どうやら本当に「ある」らしい。
この例からも、仮想現実内でのアバターはかなり深い部分で「自己」と結びついているように思う。

外見(≒アバター)を選択する自由

そして、仮想現実上ではそんな「自己そのもの」を、自由に選択することが可能である。
その自由度の実例を示すため、2023年にバーチャル美少女ねむ氏が公開した「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」を引用する。

引用:ソーシャルVRライフスタイル調査2023

上記は「自分が最もよく使うアバターをどのように入手したか」という問いに対してのユーザーの回答だ。
上記スライドに記載のある「80%が自分専用のアバターを利用している」(≒自身のアバターに何らかのオリジナリティを求めている)という結果も非常に興味深い。

だが、私は「無料配布アバター(改変なし)」の使用率が、1割にも満たない点に着目する。
つまり、9割以上のユーザーは「何らかの意思をもって自身のアバターを決定している」ことを意味している。
アバターは、誰かの作品を「買う」こともできるし、自分自身で「作る」こともできる。自分の外見を、自分で選択できるのだ。

一方、物理現実で「自分の外見を自分の意志で決定した」人が、どれくらい居るだろうか。筆者の体感だが、9割を超えることはないと感じる。

アバターの存在がベースにある仮想現実は、物理現実で例えると「整形」のような外見の変更が、非常にローコストで実施できる世界線だ。

「二重まぶたにしたいな…」と思ったら、二重まぶたのアバターを買えばいいのだ。

美少女になりたかったら美少女アバターを纏えばいい。

バニーガールになりたきゃなればいいし、メイドさんになりたかったらなればいいのだ。

物理現実よりも遥かに「外見を選択する」コストが低い世界、新しい自己、なりたい姿、在りたい姿で存在できる世界が仮想現実なのだ。

そこには、普段のあなたを知る物理現実の知り合いはいない。居たとしても、自分から開示しない限りはあなただと分からない。

自分の心の赴くままに、外見選択の自由を謳歌すればいいのだ。

マイノリティとアバター

また補足だが、外見選択の自由度の高さは、物理現実において「心と身体の性別の不一致」に直面している人にとってもポジティブな効果を与えると予想する。

前掲の「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」では、下記のような調査結果がある。

引用:ソーシャルライフスタイル調査2023

上記調査によると、物理現実と逆のアバターを使用している理由として「心と身体の性別の不一致」と回答しているユーザーが一定数存在する。

その心の内は当事者以外は探ることはできない。
だが、この結果を見ると、外見を自由に選択できる仮想現実は、心と身体の性別の不一致を抱える人にとってもポジティブに働くと推測している。

コミュニティ|所属の更なる自由化

人間は社会的な生き物である。
家族、学校、地域など、産まれたときから物理現実のコミュニティに所属し、影響を受けながら育ってきた。

所属可能なコミュニティの拡大

そして成長し、大人になるにつれて、所属可能なコミュニティの幅が大きく拡がる。

インターネットとスマートフォンがあれば、物理的に離れた場所に友人を作ることができる。また、実家を出たり、転居や転職で所属するコミュニティを変えることもできる。

同じコンテンツが好きな人がSNSでつながり、そのコンテンツのリアルイベントで初めて会う、といった人間関係の組成の方法も増えてきた。

人間の物理的な成長やテクノロジーの発展で、所属可能なコミュニティの幅は拡がってきた。

仮想現実上のコミュニティ

一方で、仮想現実におけるコミュニティはどうか。まず、仮想現実の特徴として、非常にグローバルだ。
今回引用している「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」に回答している2007人のユーザーの国籍だけ見ても、アジア・ヨーロッパ・アメリカなど非常に多様である。

引用:ソーシャルVRライフスタイル調査2023

それを望むかどうかはユーザーによるが、海外のユーザーと一緒にコミュニティを形成することも十分可能であろう。

また、コミュニケーションおよびコミュニティを形成する目的も、非常に多様である。

引用:ソーシャルVRライフスタイル調査2023
引用:ソーシャルVRライフスタイル調査2023
引用:ソーシャルVRライフスタイル調査2023

単なる雑談目的から、VR上での趣味活(実際にVRビリヤードやVRバイク乗りの同好会がある)、運動やロールプレイなど、多岐にわたる。

そして、ユーザーは自分のニーズに応じて、選択的にコミュニティに所属することが可能だ。

そのようなコミュニティのイベントは、基本的には仮想現実での開催なので、物理現実でありがちな「興味あるイベントだけど、開催地が遠いからいつの間にかいかなくなってしまった」といった事もない。

ブロックとミュート

最後に、もっとも大事なことだが、仮想現実上の人間関係は「ミュート」できるし「ブロック」もできる。
これは、物理現実のコミュニティにはない画期的な機能だ。
「なんか嫌だ」と感じれば、いくつかの操作で自己防衛できる。

もちろん相手も人間なので、ブロックしたりミュートしたりすると後腐れがあるパターンもある。
だが、即座に設定することができ、物理現実に及ぼす影響も少ないという点で、物理現実と比較して自己防衛はしやすいように思える。

「自己の再定義」は代替不可能な価値

以上、仮想現実の魅力を、アバター(理想の自己を出力する手段)と、コミュニティ(所属の更なる自由化)の2軸で語ってきた。

筆者は仮想現実には「自己の再定義」という代替不可能な価値があると信じている。そのため、いわゆる「幻滅期」であると言われる昨今でも、全く幻滅していない。社会実装は時間の問題であると確信している。

だが一方で、すべての人類が仮想現実に適応するべきかというと、決してそうは思っていない。

物理現実は不自由で、配られたカードで戦うしかなくて、何かを変えようとするとコストも労力もかかる。
仮想現実で生きることで、物理現実で生きるよりも幸福になるであろうユーザーは、一定数存在する。

しかし、物理現実で生きることに満足しているのであれば、わざわざ仮想現実に来る必要もないと思う。
物理現実で生きることは不自由ではあるが、イコールで不幸という訳ではない。

物理現実であろうが仮想現実であろうが、そこで過ごす人、そこで生きる人が幸せであれば良いのだ。

テクノロジーは単なる手段であり、仮想現実も手段だ。インターネットもブロックチェーンもAIも、すべて手段でしかない。

大事なのは「そのテクノロジーをどう活かすか」であり、「誰をどう幸せにするのか」を明確にしてサービスを作ることだと思う。

最後に

最後に、本稿をお読みいただいた方に向けて、重要な事実をお伝えし、締めとさせていただきます。

私はVRゴーグルを持っていない。(後輩に譲った)

以上、「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」を読んで感じた、伝聞ベースの意見でした。

ご興味を持たれた方は、下記よりレポート全文(81ページ)が日本語・英語で公開されています。
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