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短編小説

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#小説

わたしの世界

わたしの世界

 有紗にとっては小説が一番大事だもんね。私よりも、ずっとさ。

 それは、瑞希の家で二周年のお祝いをした日の翌朝。朝日に照らされて普段より白く見える駅までの道を、重いたい身体を引きずりながら並んで歩いている時のことだった。

 咄嗟にでた「え?」という乾いた声はうまく喉を通らず、ただの吐息になる。瑞希は遠くの空を飛んでいる鳥を見ていた。

「どっちも大事だよ。瑞希のことも、小説も。比べられない」

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嫌い

嫌い

 愛は矛盾を生み出す。チョコレートが大好きで自分一人で全部食べてしまいたいけれど、妹が食べたいと言うから半分譲ってあげるとか。LINEで業務連絡以外の他愛もない会話をするなんて馬鹿みたいだと思っていたのに、恋人相手だったら毎日欠かさずに「おはよう」と送ってしまうとか。読書に微塵も興味がない私が、それでも紙の上に並んだ文字を目で追っていることだって、全部ぜんぶ愛ゆえだ。

 視界の端で、ぐわんと大き

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