見出し画像

ファイナルファンタジーⅡ二次創作小説 『野ばらの旗』 第二章 乾坤の風

   一


 湖上には、煙が揺らめいている。
 フリオニールは、アルテアの北、ビリセント湖の岸辺に立っていた。昨夜は、ここで野営をした。
 荷物をまとめ、舟着場の方へむかった。商人たちの姿も見えるが、早朝ということもあり、まだ人は少ない。
 ミンウに促され、用意された舟に乗りこんだ。舟には叛乱軍の兵が二名待機していて、彼らが舟を漕いで進んだ。
 湖の中ほどまで進んだところで、ミンウが地図を拡げた。
「サラマンドへは、パルムとポフトを経由して行きます。現在、サラマンドは帝国の支配下にありますが、逐次入ってくる報告によって、作戦を変更していきます」
「サラマンドは帝国の支配下にあるということですが、そのような状況で、ヨーゼフという男と合流できるのでしょうか?」
 フリオニールは訊いた。湖面に反射する光が眩しくて、ミンウの方を見るには、眼を細めなければならない。もう陽は昇っていた。
 「間者からの報告によると、敵の兵力は、ミスリルの採掘所付近に築いた山塞さんさいに集中していて、人夫を徴用したサラマンドには、それほど兵はいないそうです。さらに現在、ジェイムズ殿の軍が、ポフトの北で帝国軍と交戦しているそうです。帝国軍の兵站を断てば、山塞は孤立します。その後、兵を西にむけサラマンドを奪回し、鉱山を睨むかたちにします」
「賭けですね」
「いまは、ジェイムズ殿の勝利を信じましょう」
 黙って頷くしかなかった。情報力に優れていても、兵力に差がありすぎる。ジェイムズは、どれだけの兵を集められたのだろうか。これは、領主たちの供出にかかっていた。
 アルテアより北の地域は、国としての体裁が整っておらず、地方領主たちの裁量で治められている。これらの勢力を糾合できれば彼我の兵力差は縮まるが、こうしている間にも帝国の軍備は増強されている。ヒルダの話では、大戦艦と呼ばれる、巨大な飛空船を開発しているとのことだったが、そもそも飛空船というものがよくわからない。あの時はスティーヴに一喝され、それ以上のことを訊ける雰囲気ではなかった。
「ところで、飛空船とはどういうものなのですか?」
 訊いたのは、マリアだった。今日は髪を三つ編みにしている。ちょうど飛空船について考えていたところだったので、ありがたい質問だった。
「飛空船とは、空を飛ぶ船のことです。動力に蒸気機関を使いますが、大きな特徴は、触媒に魔石を用いることです」
「魔石とは、なんですか?」
「魔石とは、自然界に存在する、魔力を秘めた石です。たまに天から降ってくるものもあり、人工的に造った例もあります。飛空船の触媒に用いる魔石は、熱することにより、浮力を生み出します。ただこれは制御が難しく、実用化させたのはいまのところ、ポフトに住むシドという男だけで、彼は小型の飛空船を自力で開発しました。ポフトでは、彼のもとにも立ち寄ります」
 はじめて聞く言葉が多く、ミンウの話は難しかった。ガイの方を見る。眼が合って、ガイが首を傾げた。ガイにとっても、難しい話のようだ。
「そんなものがあったとは、知りませんでした。ところで、魔力といえばミンウ殿は魔導師とのことですが、魔法とは、いったいどんなものなのでしょうか?」
 フリオニールは、次の質問をした。飛空船についてもまだわからないことが多いが、魔法というものも気になる。ミンウは、頭に布を巻いた、異国ふうの不思議ないで立ちだった。頭の布も、来ている服も真っ白で、それが少し眩しかった。
「簡単に言えば、精神を高めることにより自然を操ったり、負傷を治したりするものです」
「ならば、国王陛下の病は治せないのでしょうか?」
 マリアが訊いた。フリオニールにとっても、そこは疑問である。
「魔法は万能ではありません。陛下の病は気から来るもので、矢傷を癒やすことはできても、生命力そのものを回復させることはできないのです。快癒は、陛下の御心しだいです」
「そうなのですか。ところで魔法を扱うには、なにか特別な修練が必要なのでしょうか?」
 フリオニールにとって、ミンウの話すことすべてが新鮮だった。ミンウは、丁寧に説明してくれる。
「かつて、魔法は人々にとってもっと身近なものでしたが、いまは一部の者だけに伝わっています。しかし、若いうちから修行すれば、習得できるものでもあります。特にマリア、あなたには素質があります」
「わたしが?」
 マリアが、自分を指さして驚いた表情をした。三つ編みにしているせいか、どこか幼いような印象を受ける。実際は、芯の強い女だ。
「いずれ、手ほどきをしましょう。あなたならきっと、魔法を遣えます」
 言って、ミンウは地図を畳んだ。
 結局のところ、魔法がどういうものかはよくわからなかったが、そのうち見ることもあるだろう。フリオニールは、額に手を翳して対岸の方を見た。対岸に着くには、まだ時間がかかりそうだ。
 兵のひとりが、隅の方を指し示した。木箱がある。中には、釣りの仕掛けが二つ入っていた。
「このビリセント湖には、いい型の鱒がたくさんいるんだ。焼いても、煮てもうまいぞ」
 次第に陽射しが強くなってきているが、確かにさきほどから、魚影がちらほらと見えている。
 釣りは、ステリオンド湖で小さなころからよくやっていた。仕掛けのひとつをガイに手渡し、馴れた手つきで餌を付け、仕掛けを投げ入れた。
「今晩の食事が、愉しみですね」
 ミンウが、笑いながら言った。兵たちも、舟を漕ぎながらもくつろいで笑っている。遠くの方には、何艘かの舟の往来も見える。
 フリオニールの手に、引っ張られるような感覚があった。さっそく魚がかかったようだ。ミンウの方を見ながら、仕掛けを手繰り寄せた。

 対岸に渡ったところで野営をし、二人の兵ともそこで別れた。
 翌日、パルムに到着した。アルテアを出立して、三日後だった。
 パルムは、海上の輸送や漁業によって栄えている港町だ。パラメキア帝国の侵略は及んでおらず、平和だった。豊かな町で、人々も陽気だ。繁華街には、酒場や妓館が建ち並んでいる。
 はじめて、間近で海を見た。
 潮の匂いや、海鳥の鳴き声というものも、はじめて肌で感じることができた。
 町から少し離れたところには砂浜があり、夏場には泳ぎを愉しむ人々で賑わう。海に住む亀が、産卵のためにあがってくることもあるらしい。
 塩田による、塩の生産も行われていた。塩は、フィン領のアルテアでも生産している。海から取れる塩は高値で取引され、海から遠いカシュオーンとの塩の売買が、両国の友好のはじまりらしい。ただ、すでにカシュオーン王国は帝国に攻め滅ぼされている。
 宿では、豊富な海の幸を用いた料理が出てきた。湖や川の魚とは違う風味があり、フリオニールは、海老を蒸したものと、白身魚を油で揚げたものを特にうまいと思った。ほかにもたくさんの料理が出たが、マリアは貝類が苦手なようだった。
 翌朝、港に行き、繋留されている船に乗りこんだ。数人が起居できる船室もある。これほど大きな船に乗るのも、はじめてだった。
 舫を解き、抜錨する。帆いっぱいに風を受け、船が出港した。
 湾外に出たところで、海豚いるかの群れに遭遇した。飛び跳ね、海上に姿を見せるたびに、マリアがはしゃぐ。そういったところは十六歳の娘らしい、と思った。動物好きのガイもにこやかだ。海豚は愛嬌があって、人懐っこい。ミンウが、海豚は賢い生き物なのだと教えてくれた。
 船は、洋上を北進していく。
「ゴードン様が、変わられました」
 欄干にもたれかかって海面を見ていると、ミンウが声をかけてきた。
「実を言うと、アルテアを出立する前の晩、ゴードン殿下を殴りました。いつまでもうじうじしている彼に、腹が立ったのです」
 ミンウの前では、不思議と素直になれる。同時に、すべてを見透かされているような気もする。それでもいい。隠したり、気後れしたりすることなどないのだ。
「ゴードン様は、あなたを恨んではいないのでしょう?」
「私たちは、友になりました」
「それでよかった、と私は思います。そして、ひとりの男として生まれ変わったゴードン様を、もう殿下と呼ぶべきではないとも思います。あなたも、自分らしくあるべきでしょう」
「はい。いまのゴードンはただひとりの男で、俺の友です」
 ミンウの眼を見ながら、はっきりと答えた。素直になれるのは、潮風が心地よいからなのかもしれない。海も、空も、青い。ミンウが微笑を浮かべ、頷いた。
「ヒルダ様も、ゴードン様の変化に気づいていました。ヒルダ様も、王女という身分を捨て、叛乱軍の総帥として、身命を賭して闘う覚悟です」
 叛乱軍の総帥。若干十八歳の王女が、決断した人生だ。彼女を見守ることのできる男は、ゴードンしかいない。そしていま、ゴードンの友は自分ひとりなのだ。ゴードンの友情に応えるためにも、闘う。
 離れたところで、笑い声が聞こえた。ガイとマリアだった。ガイが、魚を釣りあげたようだ。
 きっと二人も、ゴードンの友になれる、と思った。     

   二


 時化しけにも遭わず、天候に恵まれた航海だった。
 パルムを出港して四日目の夕方に、ポフトに入港した。海運で栄える都市で、パルムとは交易関係にあるが、規模はこちらの方がずっと大きい。
 下船して宿にむかう途中、ひとりの男とすれ違った。男が通り過ぎたあと、ミンウの手には紙切れが握られていた。
「ジェイムズ殿の軍が、ポフトの北で帝国軍を撃ち破りました。四百で二千とぶつかり、指揮官を討ち取ったそうです。いまは北の山麓に駐屯し、兵力も一千に達しようというところです」
 宿に着いたところで、ミンウが言った。
「それでは、サラマンドも」
「はい。サラマンドは帝国から解放され、現在は兵五百が駐屯しているそうです。ただ、採掘されたミスリルは船で運び出されるので、海上を封鎖しないことには、糧道を完全に断ち切ることはできません。それでも、山塞に駐屯する帝国軍の動きを封じたのは確かです」
 一歩、進展した。あとは帝国が対応してくる前に、なるべく早く攻勢をかけたいところだ。
「ところで、山塞の兵力はどれほどなのでしょうか?」
「山塞の正確な位置はセミテの滝付近で、千五百ほどの兵が駐屯しているそうです。おそらくわれわれは、本隊が攻撃を仕掛けている隙に山塞に潜入し、人夫を開放することになると思います」
「かなり、際どいですね」
 セミテの滝。名前だけは聞いたことがある。世界最大の瀑布だ。それにしても、防備をかためた山塞に、寡兵で挑むのは厳しすぎる。
「ジェイムズ殿は現在、新兵の調練やバフスクへの備えもあり、西へ兵力を割くのは難しいそうです。詳しいことは、サラマンドでヨーゼフ殿と話し合いましょう。いまから、シド殿に会いに行きます。ついてきてください」
 宿を出て、むかった先は一軒の酒場だった。
 店内は、煙草の煙で靄がかかっていた。フリオニールの苦手な匂いだ。ミンウのあとをついて行く。客の視線が、フリオニールたちに突き刺さる。客のほとんどは中年の男か、化粧の濃い女ばかりだ。
 いちばん奥の席に、頬杖をついて紫煙を燻らせている男がいた。灰色の髪を後ろに撫でつけ、手入れの行き届いた口髭を生やしている。四十歳前後というところか。
「お久しぶりです、シド殿」
「ようミンウ、久しぶりだな。この小僧どもは、なんだ?」
 低く、落ち着いた声だった。顔は少し赤いが、それほど酔っているようには見えない。双眸は鋭く、どこか猛禽類を思わせるような顔立ちの男だ。
「この者たちは、叛乱軍の戦士です。彼らとともに、サラマンドにむかいます」
「冗談はよしてくれ、ミンウ。俺がなぜ騎士の身分と領地を返上して、フィンから出て行ったか、おまえはわかっているだろう」
「あなたは、騎士だったのですか?」
 思わず、訊いていた。ミンウからはそこまで説明されていなかった。確かに、なにかしらの心得はありそうだ。
「おい、小僧。大人の話に割りこむんじゃねえ、と言いたいところだが、まあいいか。どうせ用件は飛空船のことだろう。そのへんのことも含めて、話してやる。とりあえず座れよ」
「お察しの通りです。わざわざ、すみません」
「おまえが謝ることじゃないさ、ミンウ。おい小僧、足りない椅子は隣りの卓から持ってこい」
「フリオニールです」
「小僧。早くしろ」
 足りない分の椅子を隣りの卓から拝借して、全員が腰を降ろした。シドが、杯に琥珀色の酒を注ぎ足す。強い酒なのだろう、香りがフリオニールの鼻を衝いた。それを一気に呷り、煙草を揉み消すと、シドは話しはじめた。
「さて、俺はもともとフィン王国の騎士団長として、領民と騎士団をまとめていた。いまポフトの北に駐屯しているジェイムズとは、かつての同僚だ。ただ、俺は戦がいやになっちまった。十五年前のパラメキアとの小競り合いでも、多くの難民や孤児が生まれた。彼らに対して、俺はなにもできなかった。貧困に喘ぐ民の前では、剣は無力だと感じたよ」
 もしかしたら、自分はその時の孤児かもしれない、とフリオニールは思った。しかし、そんなことはいまさらどうでもいいことだった。自分にとっての家族は、レオンハルトとマリア、そして殺された養父母だ。剣は無力と言われても、闘うしかない。帝国を打ち倒す。そう思い定めている。
「私が、フィンに出仕してすぐの話ですね。あなたは、騎士の身分と領地を返上して、フィンから出て行った。幕僚からは、批判の声も多かったと聞きます」
「その通りだ、ミンウ。だが俺は、夢までも捨てたわけじゃない」
「その夢が、飛空船なのですね」
「ああ。しかし、帝国がいま建造を進めている巨大な飛空戦艦、一度だけ、上空を通過しながら見たことがあるが、あれは夢がないな」
「いま、あなたの飛空船は使えるのですか?」
「整備は万全だ。しかし、帝国に睨まれていて、おちおち飛ばすことはできん。いまは、東の山に隠してある。一度、帝国の連中が来て、大戦艦とやらの開発に協力するよう威されたが、突っ撥ねた。次は軍を差しむけてくると言っていたが、ジェイムズのおかげで助かった」
「大戦艦の完成を阻止するのが、ジェイムズ殿の任務です。そして、あなたにも協力していただきたいのです、シド殿」
「戦はいやだが、仕方ないな。俺は、あんなものを飛空船と認めたくはない。飛空船だけじゃない。科学は、もっと夢のあることに使うべきだ」
 言って、シドが再び酒を注いだ。今度はゆっくりと、ひと口だけ飲んだ。
「夢のあることとは、どういうものなのでしょうか?」
 フリオニールが訊いた。四十歳の男の言う夢がどういうものなのか、知りたかった。
「小僧、フリオニールとか言ったな。いいだろう、話してやる。俺の夢は、科学を使って民を豊かにすることだ。たとえば、飛空船を使って海産物を運搬する。大陸には軌道を敷いて蒸気で動く車を走らせ、鉱物を運搬する。これらはいずれ、馬に変わる移動手段にもなるだろう。技術の革新で、生産や採掘の効率も上がる。そして、働き口を得ることによって、人々の暮らしももっと豊かになるはずだ。わかるか、フリオニール?」
「途方もない話だということは、わかります」
「そうだな。だが、俺は成し遂げたい。新たな兵器が開発され、戦が起こればさらに多くの民が行き場を失い、死んでいく。科学は、そんなもののためにあってはならんのだ。それに、今後は国のありようも変えていかなければならない、とも思っている。おまえならわかるだろう、ミンウ?」
「はい。私も考えていました。これからは、民の中からも優秀な人材を選び出し、国の要職につけていくべきです。民の投票による選挙制度や、学問を広めるための大学の設立を、私は実現したいと思います」
「民の権利拡大か。目指すところは、同じような気がするな。戦には疲れたが、これ以上、民が死んでいくのは我慢ならん。そして、俺たちの理想は、帝国を倒さないことにははじまらないからな。おまえのためにも、協力するぞ、ミンウ」
「ありがとうございます、シド殿」
「礼を言うには、まだ早すぎるぜ。しかし、大空はいいぞ、ミンウ。おまえの魔法でも、空を駈けることはできないだろう」
 眼を細めて、シドが酒杯に口をつけた。途方もない話ではあるが、夢を語っている時のシドの瞳は輝いていた。ミンウの言葉にも、力が入っていた。二人とも、帝国を倒したその先のことを考えている。その先がどうなるのかは、よくわからない。再び、レオンハルトたちと暮らしたい。いまの夢は、それだけだ。
「まずは、サラマンド一帯の掌握と、ミスリル鉱山の奪取。それができたら、また来ます」
「ああ、待ってるぜ。じゃあな、小僧ども」
 新たな煙草に火をつけ、吸いこんだ煙を吐き出しながら、シドが言った。
 店を出ると、深呼吸をした。煙の充満した酒場の中は、息苦しかった。
 あたりはすっかり暗くなっていた。アルテアに較べ、ポフトは陽が落ちるのが早い。少し肌寒くもある。もう、秋だ。
 宿にむかって歩いた。
「ジェイムズ殿のもとにも寄りたいのですが、急がなくてはなりません。今回は、諦めてください」
 ミンウの言う通り、いまはサラマンドにむかうのが先決だ。食料が少なくなれば、徴用された民から飢えていく。ヨーゼフという男と協力して、速やかにミスリルの鉱山を奪取しなければならない。
「また、会うこともあります。今度会った時は、野戦料理を食べさせてくれる、と言っていました」
「何年か前、ジェイムズ殿の調練を見に行った時に一度だけ、いただいたことがあります。野趣に溢れ、それでいて美味でした」
「また会う時が、愉しみです」
 言いながら、夜空を見あげた。夜空には、いくつもの星が輝いている。大きさや、光の強さの異なるさまざまな星があるが、星の名前は知らない。
「星が、綺麗ですね」
 ミンウの声は、静かだが夜空に響き渡るようだった。ミンウならきっと、いろいろな星の名前も知っているのだろう。
 再び、フリオニールは空を見あげた。
 飛空船で大空を駈けるというのは、どんな気分なのだろうか。いつか、シドの飛空船に乗って、大空を駈けてみたい。
 多分、男の心の中にも、いつまでも輝き続けるものはあるのだろう。
 考えているうちに、宿が見えてきた。     

   三


 大木と、むかい合っていた。
 立ち合いと言っていい。それほど、気を張りつめている。
 剃髪し赤銅色に焼けた頭に、うっすらと汗をかいていた。四十七歳。髭には白いものが目立ってきたが、体力はまだ衰えていない。
 おまえは、朽ちても立ち続けているのだな。すでに幹だけとなった大木に、ヨーゼフは心の中で語りかけた。
 視線を下に落とした。大木の根もとから、新たに芽が吹き出ている。生命とは、力強いものだ。
 再び視線を戻し、呼吸を整えた。たちまち気が充溢してくる。
 一瞬眼を閉じ、開くと同時に突きを放った。拳には、大木に対する親しみが籠められている。本気で突けば、大木は折れる。
 拳を受け、大木が揺れた。振動が、根もとから地面へ抜けていく。一千本目の突きだった。
 朝稽古を終え家に戻ると、ケイトから差し出された手拭いで、汗を拭った。
 ケイトは夫を帝国軍に殺され、家も焼かれていた。当初は悲しみに暮れていたが、ヨーゼフの家の離れに住み、家事を手伝うようになってからは、笑顔も戻ってきた。二十八歳と言っていたが、小柄なせいかもっと若く見える。
「朝食が、できております」
「いつもありがとう。いい匂いが、ここまで漂ってくるな」
 手拭いをケイトに渡し、食卓へむかった。
 卓上では、野菜を煮こんだ汁物が湯気を立てていた。娘のネリーが、自分の顔ほどもある大きな麺麭パンにかぶりついている。黒い麺麭だった。原料となる黒麦は、乾燥や寒冷な気候に強く、サラマンド周辺では広く栽培されている。
「おはようございます、お父様」
「おはよう、ネリー。よく噛んで食べるんだよ」
 ネリーは十歳になっていた。妻は、三年前に病で死んでいる。当時ネリーは七歳だったが、母親の死というものを理解し、ヨーゼフの前では涙を見せなかった。ただ、時たまこっそりと泣いていることはあった。そんな娘の姿を見るたびに、ヨーゼフは忸怩じくじたる思いを噛みしめていた。
 自分は、武術しか知らない。四十年以上、拳や蹴りを磨くことばかりを考えてきた。娘をどう育てたらいいか、悩んだ。息子なら、鍛えただろう。
 ヨーゼフの気持ちを察してか、ネリーは大抵のことはひとりでやっていた。いまは、ケイトがいる。面倒見がよく、ネリーもなついている。母のようであり、姉のようでもある。
 山羊の乳に、大豆を挽いて粉にしたものを溶き、一気に飲み干した。稽古のあとには、欠かさず飲んでいる。年とともに、食事には気を遣うようになった。肉も、脂身は極力食べない。
 ヨーゼフは、黒い麺麭をちぎって口に運んだ。汁物を啜り、一緒に飲み下す。
「うまいな」
 ヨーゼフが言うと、ケイトの顔が綻んだ。
 久しぶりに、穏やかな朝だった。帝国軍も打ち払い、民が監視されることもなくなった。
 夕方、庭の方から馬蹄の音が聞こえた。四騎ほどか。
 庭に出ると、まず眼に飛びこんできたのは白装束の男だった。ほかに、三人の若者。馬を繋ぎ終えるのを見計らって、歩み寄った。
「来たか、ミンウ。待っていたぞ」
「お久しぶりです、ヨーゼフ殿。ひとまず、サラマンドは奪回したようですね。北辺の勇者と謳われたあなたでも、今回は手こずったのでは?」
「女子供が人質だったからな。ひそかに義勇兵を組織し、ジェイムズが寄越した兵たちに呼応するかたちで、なんとかなった。監視のもと、いつ面が割れるか内心ひやひやしたな。ところで、今後の作戦は、この若者たちとともに遂行することになるのか?」
「はい。もとはフィンから逃げてきた民なのですが、見どころはあります」
「ミンウが言うのならば、間違いはないだろう。しかし、実力は試させてもらうぞ」
「彼らにとっても、いい機会でしょう。フリオニール、ガイ。さっそくですが、ヨーゼフ殿に稽古をつけていただきなさい」
「はい」
「着いた早々で悪いな。少し待ってくれ、木剣を取ってくる」
 数本の木剣を持って、ヨーゼフは家から戻ってきた。地面に並べた木剣を、二人の少年が一本ずつ握ったり振ったりして、感触を確かめていく。
 少しして、ひとりの若者が歩み出てきた。
「フリオニールです」
 銀髪で中肉中背の若者。木剣を、右の中段に構えている。いい眼をしている、とヨーゼフは思った。
「ヨーゼフだ。どこからでもかかってこい」
「あなたは、得物を持っていません」
 少しうろたえた表情で、フリオニールが言った。
「そうか、説明していなかったな。俺は、徒手の闘い、すなわち格闘を得意とする。肉体そのものが、俺の武器なのだ。決しておまえを侮っているわけではないぞ、フリオニール」
「ならば、全力で行きます」
「来い、フリオニール」
 ヨーゼフが構えると、フリオニールは真っ直ぐに駈けてきた。ヨーゼフも間合いを詰める。警戒したのか、フリオニールが跳び退った。ヨーゼフが止まると、すぐに間合いを詰め、薙いできた。ただの牽制だ。上体の動きだけで木剣をかわし、すぐさま左に回りこむ。慌ててフリオニールが跳び退る。ヨーゼフも跳び退き、二人の距離が離れた。
 緊張のせいか、フリオニールはすでに肩で呼吸をしていた。こちらから攻めてやろう、という気にヨーゼフはなった。追い詰めて、動きを見定める。
 飛びこんだ。どう出るか。フリオニールも詰めてきた。下から、木剣を振りあげてくる。滑るように右に回りこみ、軽く突きを放った。転がりながら、フリオニールがかわす。起きあがると同時に、突っこんできた。いい動きではあるが、単調だった。実戦の経験も、わずかだろう。
 木剣を、斜め上から振り降ろしてきた。ヨーゼフはかわさず、木剣の側面に拳を叩きこんだ。フリオニールが、弾かれたように声をあげる。木剣は、半分に折れていた。がら空きの鳩尾を拳で軽く突くと、フリオニールはその場に崩れ落ち、胃液を吐いた。
「悪くないが、単調すぎる。闇雲に突っこんでも、実戦では死ぬだけだ」
 四つんばいになったフリオニールを見下ろしながら、ヨーゼフは言った。「木剣を折られるとは、思ってもいませんでした」
 脂汗をかきながら、フリオニールが声を搾り出した。
「俺にとっては、造作もないことだ。俺の拳は、鉄の剣も折る」
「剣を折る。そんなことが」
 フリオニールが、拳で地面を叩いてくやしがった。肩がふるえている。
「泣きたいか、フリオニール?」
「泣きません。男は、泣きません」
「それでいい。負けることは、恥ずかしいことではない。負けることも、いい経験だ。負けて、立ちあがって、強くなれ」
「心に、刻みつけます」
 それ以上、ヨーゼフはフリオニールを見なかった。
「次は、ガイだな。来い」
 視線を正面に戻した。ヨーゼフも大柄ではあるが、ガイは、さらに頭半分ほど大きい。躰は厚い筋肉に覆われ、腕回りは女の腰ほどもありそうだった。
「行きます」
 木剣を右手に持ち、低い姿勢でガイが突進してきた。外見からは想像できないほど敏捷で、威圧感もある。
 右から左へ薙いできた。ヨーゼフは内心苦笑した。木剣とはいえ、これほどの勢いで打たれたら、ただでは済まないだろう。横から来る木剣に、手刀を合わせる。木剣が二つに折れた。そのまま一歩踏みこみ、厚い胸板に拳を叩きこんだ。ガイがよろけて、二、三歩後退したあとに尻餅をついた。
「組み打ちだ。来い」
 ヨーゼフが叫んだ。ガイが立ちあがり、猛然と突っこんでくる。正面からぶつかった。頭上で互いの両手を掴み、押し合う。若い男と、力比べをしてみたかった。額に血管が浮かび、両腕の筋肉が盛りあがる。
 徐々に、ガイが押してきた。膂力だけなら、わずかにガイの方が上だった。ただ、ガイはまだ、恵まれた体躯を持て余しているように思える。
 押してくる力を、横にそらした。一瞬体勢を崩したところに、前蹴りを放つ。蹴りは鳩尾に突き刺さり、ガイが前屈みになった。躰を入れ替え、両手でガイの右腕を掴む。腰を使って撥ねあげ、投げ飛ばした。巨体が宙に舞い、大きな音をたてて地面に叩きつけられた。
「躰の捌きが甘い。ひとつのことに心を奪われるな。たえず、相手の動きを予測して動け」
「わかりました」
 ガイは、自分が投げ飛ばされたことに驚いているようだった。組み打ちは、躰が大きいからといって勝てるものでもない。ただ、技を活かすためには、力も必要である。
「二人とも、まだまだだ。これから、時間があるときは俺が稽古をつけてやる。今日のところは、これまでだ」
「はい」
 同時に、二人が返事をした。二人とも、まだ若い。伸びしろも充分にある。
 フリオニールは顔をあげていた。いい眼をしている、とヨーゼフはまた思った。

 薪が、音をたてて燃えていた。
 暖炉には、火が入っている。夜になっていた。九月である。まだ寒くはないが、ヨーゼフは暖炉の火が好きだった。
 ミンウと二人で、居間にいた。卓を挟み、むかい合って座っている。フリオニールたちは、すでに別室で就寝している。
「情勢をどう見る、ミンウ?」
「厳しい、と言わざるを得ません。そもそも、寡兵が同時多方面に展開すること自体に、無理があります。しかし、常に攻める姿勢を見せておかねば、一気に押し潰されてしまいます」
 暖炉の火に照らされ、ミンウの導衣は赤みがかっていた。
「ある程度までは、巻き返せるだろうな。しかし、そのあとは帝国も慎重になる」
「そして、最後は物量で」
 ミンウの言葉は、そこで止まった。負ける、とは言えない。ミンウは、叛乱軍の参謀だ。
「パラメキアは、覇権主義だからな。十五歳から五十歳までの男はすべて兵。国費のほとんどは軍事につぎこまれ、魔物の軍団までいる」
 言いながら、ヨーゼフは何本かの薪を暖炉に抛りこんだ。ヨーゼフの眼の前で、火の粉が舞って、消えた。
「明日、軍議を開きます」
「まずはミスリル鉱山を奪取し、徴用されたサラマンドの民を解放しなければな。およそ二千人の民が、鉱山での労働を強いられている」
 ミンウが頷く。ヨーゼフは椅子に戻り、腰を降ろした。
「ところで、フリオニールたちはどうでしたか?」
「荒削りだが、若いし素質はある。ガイもだ。ただ、稽古をつける時間もあまりない。実戦で磨いていく。俺がついていれば、簡単には死なん」
「よろしくお願いします」
「ずいぶん、彼らに期待しているようだな。そういえば、マリアという女もいたな。弓を持っていたが」
「なかなか、遣うようです。しかし、私は彼女に、魔法の才を見出しています」
「魔法か。白の賢者と呼ばれるおまえが言うのだ、相当のものなのだろう
「はい、喜んで」
 ミンウがにこやかに答えた。翠色の瞳は、いつ見てもやさしげだ。
 立ちあがって、別の部屋から酒を持ち、ついでに地下の貯蔵庫から、魚の燻製を取ってきた。
「おまえは、肉よりも魚の方が好きだったな、ミンウ」
「お気遣い、ありがとうございます」
「なに、酒は苦手という男に、付き合わせようというのだ。この酒は、強いぞ」
「ほどほどで、勘弁してください」
 笑いながら、ヨーゼフは二つの杯に酒を注いだ。麦を蒸留したあとに、木炭で濾過をした、透明な酒だ。
「ヨーゼフ殿。最後まで、ともに闘いましょう」
「誓おう。野ばらの旗に」
 言葉とともに、杯を交わした。ヨーゼフは、すぐに酒を飲み干した。ミンウは、少しずつ口をつけている。強い酒だ。ヨーゼフは酒に強かったが、度を越したことはない。翌日の稽古に障らない程度に愉しむ。多くて三杯までだ。
 魚の燻製を、小刀で少しずつ削ぎながら食べた。魚の燻製は保存が難しい。冬になれば貯蔵庫の中は凍るので、長期間保存することも可能だ。地下の貯蔵庫には、塩漬けの肉や、腸詰めなども蓄えられている。
 薪の燃える音以外は、なにも聞こえない。サラマンドの夜は静かだ。
 ミンウの顔に、赤みが差してきた。暖炉の火に照らされてのものではない。やはり、ミンウにとって蒸留酒は強すぎたようだ。
 ヨーゼフは、眼を細めながら二杯目の酒を注いだ。

   四


 ヨーゼフの家で、軍議が開かれた。
 居間の長卓。六人が左右に分かれ、むかい合って椅子に座っている。入口から見て右側に、手前からマリア、ガイ、フリオニールという並びだ。
 マリアの対面に、アレキシという若い将校が座っていた。サラマンドに駐留する、兵五百の指揮官だ。透き通るような金髪を、背中までのばしている。顔は軍人らしくないが、躰つきはたくましかった。動作もきびきびしていて、眼つきも鋭い。
「それでは、はじめましょう」
 ミンウが立ちあがって、一同を見回した。卓には、セミテ周辺の地図が拡げられている。
 作戦の概要は、アレキシの率いる本隊が、山塞の正面から攻撃を仕掛けている隙に、別働隊が山塞内に潜入し、民を救出するというものだ。そののちに後方から撹乱し本隊を支援、そして総力をもって敵を撃破する。別働隊の指揮はヨーゼフ、補佐にミンウ。フリオニールたちもこれに加わる。
「しかし、厳しい」
 眉間に皺を寄せながら、アレキシが言った。アレキシの本隊が正面から当たる。敵兵力は千五百。五百で門を破り、山塞内に進入したのちに、その千五百を相手にしなければならない。進入までに、かなり犠牲も出るはずだ。野戦ならいざ知らず、敵の山塞内で闘って、千五百を撃破するのは、不可能に思える。
「民にも、協力してもらう」
 ヨーゼフが、低く落ち着いた声で発言した。
「徴用された民は、もともと炭鉱夫だった者が多い。サラマンドは炭鉱の町だからな。軍の経験を持つ者は少ないだろうが、体力はある。ひと塊になってぶつかれば、相手にとって脅威になるはずだ」
「しかし、そううまく動いてくれるかどうか」
 アレキシが口を挟んだが、すぐにミンウが制した。
「民からの人望の厚いヨーゼフ殿ならば、指揮することもできるはず。それに、代替案も考えてあります。敵の殲滅が不可能な場合、内側より門を突破して、外に脱出します。もちろん、最大の目標は鉱山の奪取ですが」
「北の男の、意地を見せてやる」
 髭を擦りながら、ヨーゼフがにやりと笑った。徴用された民は、およそ二千人。うまくぶつければ、威力を発揮するだろう。民の解放と、鉱山奪取。この両方を成功させるために、大胆な策が立てられた。
「山塞内部の、詳細な地図が欲しいところですが」
 はじめて、フリオニールが発言した。叛乱軍には、軍内の序列にこだわる者はいない。したがって、フリオニールたちも自由に発言することが許されていた。そして、すべての責任は自分の首で負う。
「地図なら、ここにあるぜ」
 入口の方から声がした。見ると、痩せた長身の男が壁に寄りかかっていた。アルテアで一度会った、ポールという男だ。以前会った時よりも頬が削げ、顔の半分は無精髭に覆われていた。飛び出た眼に宿した光が、密偵の任務の過酷さを窺わせる。
「大体の話は聞かせてもらった。俺の気配に気づいていたのは、ヨーゼフ殿だけだが」
 言いながら、ポールがこちらへ歩いてきた。確かに、声がするまでフリオニールはポールの存在に気づかなかった。そして、ポールは忍び足で歩いているわけでもないのに、まったく足音がしない。
「久しぶりだな、フリオニール。はじめて会った時より、いくらか男らしい顔つきになった」
 こちらを見て笑いながら、ポールが卓の上に地図を拡げた。山塞内の詳細な地図だ。東側に民の起居する幕舎があり、そのすぐ北に採掘場がある。西側は兵の幕舎や倉庫、その他の施設がある。南は船着場で、採掘されたミスリルはここから船で運び出される。山塞の門は、北側だ。
 つまり、本隊はサラマンドから南西に移動、攻撃地点である山塞の門を目指し、別働隊はサラマンドを真っ直ぐ南下、山を越えて山塞の東側から進入することになる。
「どうやって、ここまで細かい地図を?」
 アレキシが、ポールに訊ねた。
「俺と、蝙蝠こうもりで山塞内を調べた。蝙蝠というのは、諜報や工作活動を専門とする、特殊な部隊だ。ならず者が多いが、帝国をぶっ潰すためなら、命を惜しまぬ者たちばかりだ」
「蝙蝠。諜報や、工作を専門に扱う部隊か。俺は考えたこともなかったな」
 唸るように、ヨーゼフが言った。
「ミンウ殿の発案で、強靭な体力と精神力を持つ者を俺が選別、組織した。あらゆる条件下での行動を前提としているが、争闘にはむいていない。任務の特殊性から、軽装でいることが多いからだ。死ぬ時も、戦場ではなく、敵地で孤独に死んでいく。俺たちは、軍功と無縁なのだ。しかし、俺たちのような無法者でも、少しは人の役に立てる。それだけが誇りだな」
 言いながら、ポールが自嘲気味に笑った。
「今回の作戦だけでなく、今後の作戦の成否も、ポール殿と蝙蝠の活躍にかかっている、と言っていいでしょう」
「そう言ってくれるとありがたい、ミンウ殿。しかし、期待には応えるつもりだが、人手が足りない。いま蝙蝠は十名いるのだが、その十名に、それぞれ五名ずつの部下を付けたい。その部下たちが、各地の同志である連絡員を束ねる。そうやって情報網を拡げ、通信の速度も上げたいのだが」
「わかりました。こちらで人選をして、送りこみます」
「頼む。それじゃ、俺は先行してセミテにむかうぜ。山中には、罠も仕掛けられている。フリオニールたちも気をつけろよ」
 言い終えるとすぐに、ポールは去っていった。やはり足音はない。いったい、ポールはいつ休息するのだろうか。密偵の任務は孤独だ。孤独に耐えるため、ポールはあえて極限の状況に身を置いているのではないか、という気さえする。
 その後、作戦の細かいところまで話し合い、散会した。
 午後、フリオニールたちの別働隊は進発した。アレキシの本隊は翌日。さらに半日遅れて、輜重隊が進発する予定だ。
 移動しながら、本隊の陣容も見た。兵五百のうち、騎馬は五十。少ないながら、良馬が揃っていた。
 サラマンドからバフスクの北にかけては、広大な牧草地が拡がっている。馬を育てる牧もあり、良馬を産出しているが、そのほとんどは帝国に略奪されてしまった。ただ、山塞を攻めるのに騎馬は必要ない。騎馬の本領は、山塞内に進入してからだろう。
 馬で一日半進み、山へ入った。山中は徒で進む。睡眠は三時間。交代で見張りを立てるが、ヨーゼフとミンウはほとんど寝ずに話し合っていた。
 天幕の設営が終われば、食事の前に稽古もした。組み打ちが中心で、ヨーゼフの攻撃を避けることに主眼が置かれた。馴れてくれば、足の動きでおおよその攻撃は予測できる。それでも、フリオニールの拳はひたすら空を切り、最後にはヨーゼフの重い拳を叩きこまれ、投げ飛ばされた。躰は痣だらけになったが、ただ移動するよりはずっと愉しい。そして、稽古のあとの食事はうまかった。
 マリアがつらそうだった。わずかな睡眠で山中を進むだけでも、かなりの体力を消耗する。まして女だ。男にはない、月のものもある。女が戦に出て闘うというのは、精神的にも、肉体的にも男以上に厳しいものがあるだろう。それでも、マリアは弱音を吐かなかった。だから、下手な手助けもしない。ただ励ましの言葉をかけた。十年以上、家族として過ごしてきた。強さの裏にある、弱さもわかっているつもりだ。
 山中に入って二日目に、ポールが合流してきた。負傷したのか、左足を引き摺っている。
「罠の位置を確認していたんだが、情けないことに、俺が罠にかかっちまった」
「傷を見せてもらえますか?」
 ミンウがしゃがみ、傷の具合を見た。ふくらはぎに、杭のようなものが刺さった跡がある。出血がひどい。そこに手を翳し思念を集中すると、ミンウの手から光が溢れ、ポールの傷が塞がった。
「信じられん。もうなんともないぞ」
 膝を屈伸させながら、ポールが感嘆の声をあげた。
「これが、魔法ですか。奇跡としか思えません」
 言いながら、ガイとマリアの顔を見た。二人とも、眼を丸くして驚いている。
「回復の魔法です。これくらいの傷なら治せますが、以前も話したように、魔法は万能ではありません。瀕死の重傷や、病は治せないのです。そして、魔法を使うのにも、力を消耗します」
 少し呼吸を荒げながら、ミンウが言った。顔も少し汗ばんでいる。
「すまない。これから攻撃だというのに、余計な力を使わせてしまったな」
「ポール殿には、かなり無理をしてもらっています。そして、ポール殿のお力なくしては、今回の作戦も成功しません」
 息をつきながら、ミンウが微笑を浮かべた。
「おまえら、下手な闘いをしてミンウを困らせるなよ」
 ヨーゼフが、歯を見せて笑った。眼の下に隈が浮いているが、決して疲労の表情は見せない。みんなも、つられて笑った。緊張が、少しほどけたような気がした。
 山塞から、少し離れたところで埋伏した。本隊の攻撃があるまで待機。仮眠も許された。ポールの話では、すでに蝙蝠は山塞内に潜入しているという。ある者は民に紛れ、ある者は帝国の兵になりすましている、といった具合だ。
 滝が近かった。世界最大の瀑布。地を揺るがす轟音が、こちらの気配をかき消してくれる。フリオニールは、地面の窪みに躰を埋め、干し肉を齧った。
 空を見た。陽が落ちかけているようだ。夜になれば、本隊の攻撃がはじまる。疲労のせいか、気負いはない。
 眼を閉じて、滝の音に耳を傾けた。次第に、意識が滝に引きこまれていくような気がした。     

   五


 遠くで、喊声があがった。
 フリオニールは慌てて跳ね起きた。本隊の攻撃がはじまったのだ。あたりはすでに、夜の闇に包まれている。
「はじまったな。俺たちも行くぞ」
 ヨーゼフを先頭に駈け出した。木の根に足を取られながらも、低い姿勢で駈けていく。体力はだいぶ回復していた。
 山塞の外柵が見えた。伐り出した木材で組まれていて、かなり高さがある。茂みのかげから様子を窺った。柵の内側には物見櫓があり、二名の兵が、監視に当たっている。篝火が焚かれていて、兵の緊張している表情もわかった。
「わたしに任せてください」
 言いながら、マリアが背中の矢筒から二本の矢を取り出した。
 弓を引き絞り、放った。弦が鳴る。矢は、敵兵ののどに突き刺さった。もうひとりがなにかを叫ぼうとしたが、再び弦が鳴って、額に矢が命中して倒れた。
「女だと思って甘く見ていたが、大したものだな」
 口もとに笑みを浮かべながらヨーゼフは言ったが、すぐに真顔に戻り、顎で山塞の方を指し示した。全員で、外柵の真下まで駈けた。
「こいつで、柵を登るぞ」
 ポールが、背嚢から鉤爪の付いた縄を取り出した。振り回し、勢いをつけて投げる。鉤爪は、柵のむこう側にひっかかった。二、三度引っ張って、感触を確かめた。
「よし、行けるぞ」
 ヨーゼフから順番に登った。縄には一定の間隔で結び目があり、瘤になっている。その瘤に足をかけ、登っていった。
 最後にポールが縄を登り、全員が柵を越え、山塞内に進入した。
「まずは民の救出だ。行くぞ」
 ヨーゼフを先頭に、低い姿勢で駈けた。柵があった。外柵と同じくらいの高さで、上部には鉄条網が張りめぐらされている。民の幕舎を囲んでいるものだろう。柵に沿って進んでいく。
 再び物見櫓があった。マリアが見張りの兵を射倒す。さらに駈けた。喚声が聞こえる。民が脱出を図っているのか。合流して、民の協力を得なければならない。民をまとめるのは、ヨーゼフの仕事だ。柵の角が見えた。ポールの地図によると、あの角を曲がれば、門が見えてくるはずだった。
 角を曲がった。敵兵。百五十はいる。門を押さえ、民の脱出を阻止している。柵を乗り越えた者が斬り殺されたのだろう、いくつかの屍体もあった。民は手枷をはめられ、両足も鎖で繋がれている。そんな状態で逃げ出しても、徒らに命を落とすだけだ。
「叛乱軍だ」
 敵兵が、こちらに気づいた。方陣を組み、小さくまとまっていく。
「数が多すぎる」
「どうした、怖気づいたのか、フリオニール?」
「そんなことは」
「ならば、余計な口を叩くな。この程度の人数、蹴散らしてみせろ」
 ヨーゼフの言葉に、フリオニールは剣を抜き、気力を奮い立たせた。
 敵がむかってきた。二列の横隊で、およそ五十人。左右から、押し包もうとしてくる。ヨーゼフの命令を待った。こめかみを、ひと条の汗が伝っていく。
 すぐ眼の前に、敵兵が迫ってきた。肌に粟が立つ。ヨーゼフの命令はまだか。
「ミンウ」
 ヨーゼフの声と同時に、ミンウの手から、炎が放たれたように見えた。魔法か。四、五人の敵兵が、炎に包まれた。
「いまだ。俺は右を衝く。おまえらは正面を」
 ヨーゼフの声で、反射的に駈け出した。ガイが続く。正面から斬りこんだ。敵はミンウの魔法に算を乱している。勢いに任せ、斬りまくった。躰はよく動く。少々斬りつけられたぐらいでは、痛みも感じない。敵兵の返り血を頭から浴びながら、フリオニールは雄叫びをあげた。
 七、八人を斬り倒したところで、ヨーゼフの方を見た。ヨーゼフのいでたちは胸当てと篭手、臑当てだけという軽装だ。
 ヨーゼフが、敵兵の顔面に拳を叩きこんだ。打たれた敵兵の顔がへこみ、目玉が飛び出す。斬りかかられても最小限の動きでかわし、避けきれない剣は手刀で叩き折っていた。剣を折るというのは、ほんとうだった。ヨーゼフの強さは尋常ではない。
 五十人をほぼ殲滅した。敵は明らかに動揺しているが、まだ百人ほど残っていた。数を恃み、こちらにむかってくる。
 かたまっているところに、ミンウが魔法を撃った。十人ほどが炎に身を焼かれ、叫びながらのたうちまわる。敵が散ったところに突っこんだ。マリアの援護が効いていた。背後を気にせず、ひたすら敵を斬り倒していく。
 ポールも剣を抜いて闘っていた。短い剣を低く構え、隙を見て相手の急所を突くという闘い方だ。ガイは、縦横無尽に斧を振り回していた。ガイを中心に、血飛沫が舞っている。
 態勢を立て直すために、敵が小さくかたまった。そこを、再びミンウの魔法が襲う。そして、散ったところに斬りこむ。それのくり返しだった。気づいたら、百人を殲滅していた。
 開門し、柵の内側に入った。
 民からは喜びの声があがったが、思っていたよりも、衰弱している者が多かった。
 ヨーゼフの指示で、動けそうな民を整列させた。民の手枷や足の鎖を、黒装束の男たちが手早くはずしていった。ポールの言っていた、蝙蝠の者たちだろう。ポールは次の作戦行動に移るため、すでに姿を消していた。
「皆の者、聞いてくれ」
 ヨーゼフが、民を見渡して言った。
「現在、叛乱軍がこの山塞に攻撃を仕掛けている。寡兵だ。内側から門を破り、なんとか山塞内に引き入れ、勝利したい。すまんが、叛乱軍のために、しばし力を貸して欲しい」
「水臭いぜ、ヨーゼフ殿。帝国軍を倒したいという思いは、俺たちだって一緒だ」
「ヨーゼフ殿のもとで闘えるなんて、サラマンドの男として誇りに思うぜ」
 民の中から、次々に声があがった。ヨーゼフは、強さだけでなく、人を惹きつける魅力も持っているようだ。
「北辺に住む男たちの気概、確かに受け取った。ともに、闘おうぞ」
 拳を天に突きあげながらヨーゼフが言うと、民の中から喊声があがった。勝てる、という確信に近い思いが湧いてきた。
 蝙蝠たちが民の縛めを解いている間、フリオニールは、剣の手入れをした。刃こぼれしているが、まだ斬れる。それよりも、肘の傷が気になった。血は止まっていて、痛みもそれほどないが、曲げた時に違和感がある。
 ミンウの魔法で治療してもらおうとも思ったが、これ以上ミンウに負担をかけたくなかった。闘いが終わった直後のミンウは、全身が汗にまみれ、立っていられないほどだった。魔法を遣うというのは、想像以上に躰に負担のかかるものなのだろう。
「ちょっと見せて、フリオニール」
 マリアが近づいてきて、肘の傷を覗きこんだ。
「まさか、おまえ」
「やってみるわ。基礎的なことは、教わったの」
 マリアが肘の傷に手をかざし、気息を整えた。ミンウから教わったのだろう、独特の呼吸法による息遣いが伝わってくる。
 しばらくして、マリアの手から温かい光が溢れ、傷が塞がった。
「驚いたな。一度見ただけで」
 言いながら、肘を何度か曲げ伸ばしてみた。傷痕は残っているものの、元通りに動く。ミンウの言っていた、魔法の才。それが、開花したということか。
「ありがとう。これでまた、思う存分闘える」
「調子に乗りすぎると、治せなくなるわよ」
 言いながら、マリアがはにかんだ。魔法を遣ったことで体力を消耗したのだろう、マリアの額は汗ばんでいた。

 門を目指し、縦列で駈けた。
 フリオニールたちは、七百名の先頭を駈けていた。民の装備は、敵の屍体から剥ぎ取ったものだが、全員に行き渡ってはいない。棒や鎖、とにかく使えそうなものはなんでも持たせた。
 マリアとミンウは残って、衰弱して動けない民の介抱をすることになった。
 いまは水くらいしかないが、朝になれば、糧食を積んだ輜重隊が到着する。ただ、闘いに勝たないことには意味がない。これから先は、大きなぶつかり合いだ。貧弱な装備の七百名で、千数百の敵に突っこむことになる。賭けだが、負ける気はしなかった。
 門が見えた。敵は、楼台の上から弓矢や投石で本隊を攻撃している。こちらに気づいた。五百ほどがむかってくる。食うために屠ったのだろう、馬は一頭もいなかった。
「五百か。思ったより冷静だな。ぶつかって反転、何度かくり返すぞ。フリオニール、ガイ、おまえたちは先頭で斬りこみ、最後に離脱する。覚悟はいいな?」
「望むところです」
 肚の底から雄叫びをあげ、敵とぶつかった。勢いは互角だ。このまま、楔となる。正面に二人。二つ同時に首を飛ばした。左。斬りかかってきた敵兵ののどを突く。次は右。剣を横に薙ぐ。血が尾を曳いた。剣は、敵兵の首に食いこんだ。
 民はヨーゼフの号令で反転していくが、動きはあまりよくなかった。次々と斬られ、斃れていく。このまま乱戦になれば、装備の貧弱なこちらは不利だ。敵が最も密集しているところに、ガイと二人で斬りこんだ。
 槍が突き出されてきた。穂先が脇を掠める。けら首を掴んで、手前に引き寄せた。体勢を崩した敵兵の首に、剣を押し当て引く。勢いよく血が噴きあがった。
 敵は、次から次へと押し寄せてくる。もう何人を斬ったかわからない。次第に、息があがってきた。躰全体が重い。
 斬撃が来た。かろうじて受け止めたが、その場に倒れこんだ。上から、剣が振り降ろされてくる。転がってかわした。別のところから蹴りが来る。もろに喰らった。呼吸ができない。内臓が口から飛び出しそうだ。さらに攻撃が来る。ひたすら転がった。何度か斬りつけられたが、深傷は負っていない。転がりながら胃液を吐いた。そのうちに、呼吸ができるようになった。
 下から敵兵の股間を斬りあげた。倒れこむ敵兵を避けつつ、起きあがった。
 躰が軽くなっていた。レオンハルトとの稽古でも、何度か経験したことがある。限界を越えると、また躰が動くようになるものだ。
 剣の斬れ味が悪かった。血脂が巻いていて、もはや使い物にならない。斬りかかってきた敵兵に、剣を投げつけた。同時に腰の短剣を抜く。飛びこんで、短剣で首を裂いた。
 再び、ヨーゼフに率いられた民が突っこんできた。これは効いた。敵が崩れだす。追撃をかけた。ガイが先頭だ。斧を振り回しながら駈けるガイの全身は、敵の血で真っ赤に染まっていた。斃した敵兵の剣を拾い、フリオニールも駈け出した。
 敵は、門を覆うように陣を組んでいた。数も多い。何度かぶつかったが、そのたびに撥ね返された。こちらの兵力は、四百まで減っている。
「ヨーゼフ殿、考えがある。もう一度、敵に突っこんでくれ」
 駈けながら、ひとりの民が叫んだ。
「突っこんだら、俺たちは敵中で踏みとどまる。その間に、ヨーゼフ殿は一気に門を目指し突っ走ってくれ」
「しかし、そんなことをすれば壊滅の恐れもあるぞ」
「どうせ、このままでは埒が開かないんだ。俺たちは、ヨーゼフ殿に賭ける」
 周囲の視線は、ヨーゼフに注がれていた。ヨーゼフの言葉を、待っているのだ。
「わかった。行くぞ、北の男の意地を、見せてやれ」
 ときの声をあげながら、四百がひと塊になって突っこんだ。ヨーゼフが先頭だ。敵兵の顔面に拳を叩きこみながら、駈ける。打たれた敵兵の中には、頭蓋が砕けている者もいた。
 敵を斬りながら、門に辿り着いた。門にはかんぬきが二本かけられている。そのうちの一本を、ガイが斧で叩き折った。残りの一本に、ヨーゼフは拳を鉄槌のようにして振り降ろした。留めていた金具ごと、閂は吹き飛んだ。
 開門した。騎馬隊がなだれこんでくる。先頭の白い馬に乗っているのは、アレキシだ。金色の長い髪を振り乱しながら、敵中深く斬りこんでいく。歩兵が続いた。崩れかけていた民も、活気を取り戻し、徐々に帝国軍を押し返していく。
「勝利は眼の前だ。怯むことなく闘え」
 ヨーゼフの声に、全軍が鯨波げいはで応えた。数こそ少ないが、叛乱軍の勢いは、完全に帝国軍を呑みこんでいる。フリオニールとガイも、雄叫びをあげながら敵の中へ斬りこんだ。

 空が白みはじめていた。
 かなりの人数を掃討した。もはや、勝利は揺るぎないものになっている。
 二百ほどの敵兵が、船着場の方へ逃げていった。ヨーゼフは追撃をかけようとしたが、ポールがそれを制した。
「船に仕掛けをしておいた。追撃は無用だ」
 ポールがこちらに近づいてきて、不敵に笑った。全身が返り血に染まっている。争闘は蝙蝠の本分ではないと言っていたが、ポール自身はかなりの遣い手だ。
 船着場には、船が二隻あった。次々と敵兵が乗りこんでいく。むざむざ逃がすはずはない。ポールの言っていた仕掛けとは、なんなのだろうか。
 船が出た。
 次の瞬間、二隻の船が爆発、炎上した。
「どういうことだ、ポール?」
「採掘に使う発破を、仕掛けておいたのさ。そのために、あえて退路を残しておいた」
「なるほど。退路を断てば、敵は決死の覚悟でむかってくる。そうなると、こちらの犠牲も増えるからな」
「そういうことだ。火薬が少し勿体なかった気もするが」
「敵の士気も挫いたし、まあいいだろう。これで当分、敵もセミテに手を出せまい」
 言いながら、ヨーゼフが笑った。徒手で闘うヨーゼフは、ほとんど返り血を浴びていない。拳だけが、真っ赤に染まっていた。
 闘いは終熄した。
 四百ほどの敵兵が投降してきた。整列させ、武装を解除していく。
 ほどなく、輜重隊が到着した。民の幕舎の方へむかっていく。これから炊き出しだ。輜重を見ているガイの腹が鳴った。二人で顔を見合わせて笑った。二人とも、血まみれだった。
 剣を握る右手がかたまっていた。強張っていて、指が開かない。左手で右手の指を開き、剣を離した。傷もいくつか負っていたが、重傷というほどではない。
 アレキシが、兵に指示を出していた。二人の兵が楼台に駈け登り、白い旗を掲げた。野ばらの旗だ。旗を見ていると、勝利の実感が湧いてきた。
「二人とも、こっちへ来い。倉庫に行き、ミスリルを運び出す準備をするぞ。めしは、そのあとだ」
 ヨーゼフに怒鳴られ、ガイと二人で慌てて駈け出した。
 光が差してきた。
 立ち止まって、東の空を見た。山の稜線から、太陽が少しずつ浮かびあがってくる。これから、一日がはじまる。叛乱軍の反撃も、これからだ。
 暁光に眼を細めていると、再びヨーゼフの怒鳴り声が聞こえた。
 返事をして、フリオニールは駈け出した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?