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君は街金社長に蹴られながら麻雀を打ったことがあるか?

20代の半ば、数ヶ月だけだが雀荘メンバーをしていた時期がある。
アウトばかりで大して給料は貰えなかったが、自分が井の中の蛙だとわかったし、雀荘の仕事を学べたし、接客を通じて学んだことも多く、総合的にはいい経験をしたと思う。

お客さんは個性的な人が多かったな。結構有名な人もいた。
俺がガキの頃大人気だったグループサウンズのメンバーとか、ウマ娘にもなった競走馬の馬主とか。

街金を営むTさんという人がいた。
店長とは、十数年来の友人だという。
このTさんの外見が、怖かった。
ひと言でいうと、「バキ」のスペックに似ていた。

店長いわく、「本来なら100円200円の麻雀を打つような人ではない」と。
じゃあピンのワンスリーの雀荘に呼ぶなよ。
なんて思ったりもしたけど、話してみると外見ほど怖くないし、麻雀は強かった。

――ある日、Tさんが言った。

「事務所にヤクザが怒鳴り込んできたんだけど、俺の顔見たら帰っちゃったよ笑」

やっぱ怖いわ、と思った。
俺がそのヤクザでも逃げるわ。
だって、いざ乗り込んでみたら、スペックみたいなオヤジがいるんだぜ。

ちなみに街金と書いたけど、実態はわからない。

そんなTさんが、ひとりの客を気に入らないと言い出した。
親族で経営している会社の専務で、歳は50代くらい。バーコード頭ででっぷりと太っていた。
地位や金をひけらかすタイプで、確かにいけすかないが、麻雀は弱かったので、俺は専務と同卓するのはありがたいと感じていた。

その専務を、Tさんはやり込めてやろうと考えていた。

「知り合いの食肉業者の冷凍庫に吊るして、牛刀で脅かしてやるか」

繰り返しになるが、街金と書いたものの、実態はわからない。

やがて、専務は来なくなった。
なにがあったかはわからないし、訊けなかった。


そろそろタイトル回収しようか。
「カイジ」とか「闇金ウシジマくん」を彷彿させるようなタイトルをつけたが、別に俺はTさんから金を借りたわけではない。

ある日俺が本走で打っているところを、Tさんが後ろで見始めた。
そして、俺がミスするたびに怒鳴ったり椅子を蹴ったりしてきたのだ。
Tさんの指摘はわかる。仕掛けるべき時に仕掛けなかったり、ラス目なのにピンフのみをダマでアガッたり、いま思えばひどい麻雀を打ったと思う。

言い訳をさせてもらえば、後ろにスペック似のオヤジがいる状況で緊張していた俺は手汗びっしょりで口の中も乾き、「ポン」とか「リーチ」の声を出せなかったのだ。

マジで怖かったぜ。

その後Tさんはほとんど来なくなったが、レジ金を盗むメンバーが出たり(俺じゃないぞ)、ほかにもトラブルが多発し、メンバーが次々と辞めていった。
俺が卓に入る機会が増えるにしたがいアウトも増え、さすがにもう無理だと思い、別の仕事を見つけて辞めた。

それから十数年後、よしおという当時19歳のコゾーに数年間ヘタクソ、ゴミ、カス、ミジンコとか言われながらもめげずに少しは麻雀が上達したのは、Tさんの件があったからだという気もする。

実際よしおは麻雀が強く、言うことに理があるから俺も従ったわけだが、19歳下のコゾーに数年間罵られても耐え続けた俺を誰か褒めてくれ、なんてね。

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