見出し画像

ラストに異なる解釈がある映画

その後どうなったのかは想像に任せる、というような、人により解釈が異なる作品がある。
制作側が意図したかどうかわからないものもあるが、映画のネタバレサイトで調べたり、人と作品について話した時に解釈の違いがあったりして面白い。

いくつか例を挙げよう。

『シェーン』(1953年)

西部劇の名作。
流れ者のシェーンは世話になった開拓民家族のため、悪徳牧場主と戦う。
シェーンとジョーイ少年との交流が心温まるが、流れ者の悲哀も感じさせる。

「一度人を殺してしまったら——元へは戻れない。殺し屋の烙印は一生ついて回る。もう戻れない」

馬で去るシェーンにジョーイ少年が叫ぶ「シェーーン! カムバーーック!」というセリフは余韻が残るが、問題はそのあと。

シェーンは馬上でこと切れている、という説があるのだ。

最初に観た時はこうやってまた流れていくのか、としか思わなかったが、その説を知ったあとに観返すと、なるほど馬上のシェーンは片腕が垂れ下がって、姿勢も不自然だ。
撃たれた傷が痛むのか、別れた段階から片手で手綱を持っているが、斜面を登る時も片手のままなのは、やはり不自然に思う。
このシェーン死亡説はかなり有名で、昔から議論されているようだ。
1998年の映画『交渉人』でも登場人物がラストシーンについて議論するシーンがある。

個人的には生きていて欲しいが、どちらでもいいかな。
肝心なのは、流れ者のガンマンの時代は終わり、人は地に足をつけ生きるべきだ、ということ。
このテーマはクリント・イーストウッド監督主演作『許されざる者』でも描かれている。

決闘からラストシーンの動画をあげておく。

この『シェーン』、そして最後に触れた『許されざる者』はともにおすすめの作品なので、観てない方は観ていただきたい。


『タクシードライバー』(1976年)

売春組織を壊滅させたあと、主人公トラヴィスは新聞の記事で英雄扱いされ、タクシードライバーとして復職する。
以前トラヴィスをフッた女ベッツィーと街で再会、乗車してくる。
彼女の態度は変わり、気のあるような発言をするがトラヴィスは相手にせず、彼女を降ろしたあと、タクシーを出し夜の街へ消えていく——。

というラストなのだが、初めて観た時、俺はこの光景はトラヴィスが今際の際に見た幻というか願望なのかと思った。
髪型も元に戻ってるし。

ただ、敵を全滅させたあと、拳銃で自殺を図ろうとするだけの体力はあり(弾切れで未遂に終わり、その後警察官が来る)、重傷は負ったものの生き残り、それから時が経ち、という流れなのかな、と思い直した。
ただ、俺以外にも「最期に見た幻影説」を唱える人もいたので、そう考える人も一定数はいるのかな、とは思う。

ただ、生存エンドも二通りの見方があると思う。

まずは、承認欲求が満たされた、あるいは英雄扱いされることに醒めたのか、穏やかになり、女に対する執着もなくなったという説。

もうひとつは、英雄視されたことに味を占め、女よりも、次の標的を探したい、という説。
個人的にはこの説を執りたい。
そもそも精神を病んでいたトラヴィスにとって、最初の標的はベッツィーが勤務してた選挙事務所の代表の上院議員だ。
次期大統領候補でもあるこの議員の暗殺に失敗し、次は少女アイリスを食い物にしていた売春組織に矛先が向くのだけど、トラヴィスとしては大義名分があれば銃口を向ける先は誰でもよかったんじゃないかな。
違法な売春組織はその大義名分があるが、上院議員は劇中で悪として描かれてはいない。
トラヴィスの行動は完全にフラれた逆恨みで、政治家は腐ってるという思い込みなのだ。

表面上は穏やかになったトラヴィスだが、精神は治っておらず、内に狂気を秘めたまま、タクシーを流しながら次の獲物を求めているような気がする。

そんな狂気を秘めた危険人物が、日常生活に溶けこんでいる、ってことを表現したかったのでは、と個人的には思うな。
『タクシードライバー』は俺がこれまで観た中でも結構上位に位置するくらい好きだ。おすすめ。

次で最後。


『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)

サーフボードだけ残して姿を消した茂。
おそらく離岸流に巻き込まれたものと思うが、その後恋人の貴子は二人の写真をボードに貼りつけ、海に流す。
ボードが海に浮かぶシーンのあとに、エピローグとして思い出のシーンが流れる。

海にボードが浮かんでいるからか、貴子の後追い説があるんだけど、さすがにこれは無理があるかな。
まあ、同じ聾啞者で苦労を分かち合える恋人を失った悲しみは深く、これから彼女はなにを支えに生きていけばよいのか、とも思うけど。

まず、軽トラに乗せてくれたおじさんが助けるって。
それにタイトルの「あの夏」は、貴子の目線で見た過去を指してると思うし。
サーフボードを流して茂とお別れした時が「いちばん静かだった海」なんじゃないかな。


さて、エピローグでは、劇中ではいつも物憂げで幸せそうに見えなかった二人の楽しげなシーンが印象に残る。
あと会社の先輩のおじさん。
劇中では茂を怒鳴りつけたり時には引っぱたいたり、結構厳しいんだけど、茂がサーフィンの大会に出るため仕事を休むことを社長にかけ合ったり、ぶっきらぼうだけど実は結構気にかけてる。
居酒屋でおじさんがトロフィーを見ながらビールを飲み、その隣で茂がはにかんでるシーンが俺はいちばん刺さったし、唯一泣いたシーンだった。


と、まあ今回挙げた三作品は生存か死亡かみたいな感じだけど、まだまだ知らない、観てない映画がたくさんある。
一時期は毎日のように観てたのだけど、最近は月に一本くらいしか観てないな。

こういった、ラストにいろんな解釈ができる映画があったら教えてください。

それ以外でも、おすすめの映画があれば教えてくださいね。
(いつか観ようと思って観てないのも何本かあるけど……)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?