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RAW現像のススメ: citrus

「いつか書きたい」をずっと繰り返していたRAW現像ノウハウ記事、ついに書きました! 見出し画像は左下がオリジナル、右上が現像後です。全然違いますね。現像工程をいくつかに分解して説明していこうと思います。

その前にRAW現像について

RAW現像は、僕としては撮影と同じくらいの重みがあると思っています。ゆっくり時間をかけてPCの前で再撮影しているような感じです。おそらく「撮って出し」こそが正義という方もいらっしゃると思いますが「撮って出し」は言ってしまえばカメラに現像を任せているだけです! せっかく自分の作品なら細部まで自分でコントロールできた方が楽しくないでしょうか。

RAW現像は撮って出しに比べて(特に高感度で撮った写真では)画質的なアドバンテージもあります。RAWが撮れるカメラでRAW現像しないのはもったいないですよ!

0. これがオリジナルの画像、無調整です

これが題材の新宿御苑の温室で撮った小景です。被写体が何かと言われるとむずかしいですが、色の対比がきれいだったので思わずポケットからGRを出して撮りました。でもこのままでは色の感動は伝わりませんね。というわけでRAWからいじっていきます。

ちなみに撮影パラメタは ISO 100, 18.3mm, f/5.0, 1/1250 という感じです。本当は露出をプラス側に補正して撮ればよかったんでしょうね。でもRAW現像ならこのあたりも後からなんとかできます。衝動に任せて写真を撮るときに露出調整とかいろいろ面倒ですからね。(おまえ真面目に写真やる気あるのかという感じもしますが。)

1. 明るさを調整しつつ、フィルムライクなトーンを作る

RAW現像時に僕がいつも意識しているのはフィルムライクなトーンの再現です。これはただの流行といえばそれだけなのかもしれません。ただ、記憶色を再現するにはフィルムライクな色調がぴったりな気がするんですよね。じゃあフィルムライクなトーンでどんなトーンなのっていうことですが、大事なポイントとして明るい色は彩度が落ちているというところだと思います。

これをLightroomで再現するにはどうすればいいかというと、下のようなトーンカーブを用います。

彩度というのは雑に言ってしまえばRGB値のコントラストなわけです。だから明るいところで彩度を落としたかったら、ハイライトの領域ではRGBともに同じくらいの値になるように階調を圧縮してしまえばいいんですね。正直これがフィルムライクなトーンのほぼすべてみたいな感じです。

これをアプライするとこうなります。

どこかフィルムっぽい感じが出てきたんじゃないかと思います。

そして、すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、このトーンカーブを適用すると画像はかなり明るくなりますね。なので、もし適正な露出で撮影できていたら露光量をマイナス方向に調整します。だいたい -2.0 から -2.5 くらいでオリジナルと同じような明るさになっている気がします。今回は元が露出アンダーだったので露光量はいじらずにおいておきました。(つまり実質的にプラスに補正しています。)

しかしこの画像、ちょっと眠いですね。もうちょっとメリハリがあった方がいい。ということで
 コントラスト +25
 白レベル +30
 黒レベル -10
という感じでコントラストを高めてみます。それと、忘れてましたがフィルムライクなトーンの特徴としてもうひとつハイライトが粘るというところがありました。普通にデジタルで写真を撮るときは白飛びはあっても黒つぶれってしませんね。フィルムはどちらかというと逆で、黒つぶれはあってもなかなか白飛びしないという印象です。これを模倣するために
 ハイライト -50
と設定します。(黒レベル -10 も黒つぶれを意識してはいます。)ただ、写真によってはハイライトを下げすぎると悪い意味で(いわゆる)HDRっぽい雰囲気が出てしまったりするのでそのときどきで臨機応変に。これらを全部適用するとこんな感じです。

大まかなトーンはこんな感じで完成です。

2. 次は色です。記憶色に近づけましょう。

記憶色をご存知でしょうか。一応補っておくと、記憶色というのは現物に忠実な色ではなくて、記憶に残っている印象に忠実な色です。イラストレーションで用いられる色使いはこれに近いなと思います。晴れの空は鮮烈に青くて、草木も水々しい緑をたたえて…という感じ。でも写真で撮ってみると空ってそんなに青くはなりませんね。PLフィルタを使えば多少それっぽいかなみたいな。というわけで、今度は記憶色に強引に色を持っていきましょう。

ここで便利なツールがあって、それは「カメラキャリブレーション」です。色をいじりたいならカラー補正じゃないの?って思われる方多いと思うんですが、個人的にはカラー補正は「難しい」と思っています。カラー補正を使うと階調の連続性が崩れてしまって、いかにも作為的に色を変えました!という雰囲気が出やすいです。その点カメラキャリブレーションはトーンのつながりが破綻することなく比較的自然な雰囲気で色を変えられます。用いた設定はこんな感じです。

この補正に込められた気持ちをちょっと補っておこうと思います。

まずシャドウを緑色に振ったのは、これは影に寒色を入れたかったからです。絵を描くときって、影には青系の色を入れませんか。空は青いので影は青っぽい方がそれっぽいですよね。記憶色なので誇張して青くしましょう。

もうひとつのポイントは全体的には彩度を上げているということですね。ブルーは全体のまとまりを考えて少し彩度を落としてますが全体としては上げています。記憶色は概して鮮やかです。

そして最後のポイントは草木の緑ですね。デジタルカメラで写真を撮ると草木は記憶色と比べてどうしても黄色っぽく写ってしまう印象があります。なので、色相を青側に倒してみずみずしい草木の緑を作っていきます。(これはこの写真に限らず緑は青側に倒した方がそれっぽいです。)

これを適用するとこうなります。

だいぶそれっぽくなってきました。が、ここでちょっと気になるのはホワイトバランスですね。影は寒色っぽくしたいんだけど、さすがにこれは全体的に緑色が強すぎるような感じがしませんか。コンクリートの壁は白っぽくあってほしいのに、これだと緑っぽくなっちゃってますね。というわけで、シャドウを緑色に振ったときに巻き添えになってしまった中間調からハイライトの部分をニュートラルに戻すために、
 色かぶり補正 +5 → +30
そして影の青さを強調するために
 色温度を 5700 → 5300
としました。

これを反映させると、こうなります。

色をいじる前と比べてどうでしょうか。影に青みが与えられて、青葉はよりみずみずしくなったんじゃないかなと思います。これでだいたい完成形です。

3. 神は細部に宿る!

しかし、少し物足りないですね。もうちょっと絵にインパクトをもたせたいなと思うわけです。ちょっと地味じゃないですか。緑や黄色や赤や青の対比が鮮烈だったからカメラを向けたのに、その光景とはまだ若干乖離があるような。うーん……となりますが、すでに黄色はかなり黄色いし、緑もかなりいい感じなので物足りないのは多分赤なんですね。というわけでここでカラー補正を使います。こんな設定です。

赤い葉の彩度を上げています。でも特定の色だけをピンポイントでいじると階調が破綻しがちなので周辺の色もちょっといじってあります。つまり、レッドを上げたいからオレンジとマゼンタも彩度を上げておきました。彩度 +100 ってやりすぎじゃないのって思われる方もいるとは思うんですが、黄色や緑がすでにかなり強い色なので中途半端にならないようにガツンと上げてしまいましょう。

赤い葉が赤くなって、黄色や緑に負けないくらいのいいアクセントになりました。この光景を見たときの色の対比の感動がいい感じに再現されてます。

そして最後にやるのがシャープネスやノイズリダクションあたりの設定ですね。僕はノイズ除去をしてディテールが失われるくらいだったらノイズはノイズのまま残して起きたいタイプなのであまりノイズリダクションはかけません。そもそも今回はいくら明るくしたとはいえ ISO 100 で撮影しているのでそんな必要もないですしね。

それと、GRはほんとうに良いレンズが備わっているのであまり必要があるわけでもないんですが、今回はレンズ補正をかけました。プロファイル補正を使うと歪曲や周辺減光が補正できます。この写真は直線メインではないので「樽型に歪んでるから直す」とかそういう意図ではなくて、なんとなく画面の辺縁部分のうるささなんかを考慮してONにしておいたほうがよさげ、みたいなそういう感じです。

画面の左下の部分を前の画像と比べてほしいんですが、画面のエッジの部分にちょっとだけ中途半端に出ている影が消せました。

これで完成です。ぱちぱち。

オリジナルの画像をもう一度載せておきますね。見直してみると全然違う! これがRAW現像の楽しさです。

おわりに

今日は最近撮った写真 "citrus" を題材にRAW現像のフローを書いてみました。もしこの記事が好評だったり「他の写真のビフォーアフターも見たい」なんて声があればシリーズ化するかもしれませんが、とりあえず今回はここまでで。

最後までお付き合いありがとうございました。ぜひRAW現像しましょう!

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