統合失調症の私が伝えたい5つの事Vol44

57 生活保護

換金したお金は、一人暮らしのための諸費用を賄うのに、どうにか足りそうだった。隆道が、私名義の郵便局の口座の通帳が残っていたと送ってくれた。ありがたかった。

私はそれらの通帳を持って、らしくの杉本さんと面談した。そして、そのお金で一人暮らしができるかどうか、相談した。杉本さんは、
「大丈夫。まず、アパートを探しましょう。それから、一人暮らしに必要な物を揃えましょう」
と、言ってくれて、不動産屋さんに連絡してくれた。不動産屋さんはとても親切な人だった。そして、私のようなケースの対応に慣れていた。私は、
「職場に近くて、節子の家にも行きやすいところで探したい」
という希望を伝えた。不動産屋さんは、私の希望に合い、家賃の安いアパートを探してくれた。部屋も二部屋有って、台所も広く、場所も便利だった。職場には自転車で行けるし、節子の家にも、バス一本で行ける。少し古いが、なかなかこんなに条件の揃うところは無い気がした。私はその部屋を借りることに決めた。
 

次の日、電化製品や、生活に必要な、細々としたものを買いに行った。買い物には、由美子さんがついて来てくれた。彼女の息子さんが一人暮らしを始めた時の経験があるから、由美子さんはとてもいい助言をくれた。本当に助かった。

家具屋さんで、ベッドも一緒に緒に買おうと思ったのだが、節子が、
「由美子さんを頼らなくても、ベッドは、伯母ちゃんがついて行ってあげる!」
と言ってきかない。
(伯母ちゃんは、頼ってほしいんだなあ。淋しいんだなあ)
と、思った。10年も一緒に暮らした私が、離れていくのだ。淋しくないわけがない。私は節子の気持ちを理解し、ベッドは節子と一緒に買いに行った。
 

鍋や、キッチンまわりの物も買わなければならなかった。節子は、
「デパートで買わなければいけない」
と、言う。どんどん減っていく通帳の残高に、
(大丈夫かな?)
と、不安に思いながら、節子と一緒にデパートに行き、ドイツ製のお鍋と包丁を買った。まな板やボウルなども買った。結局鍋とフライパンに、私は7万円くらい支払った。

一通り必要な物の買い物が終わった次の週に、らしくの杉本さんと、男性の職員の方が、節子の家からアパートまでの引っ越しを手伝ってくださった。無料でだ。大きなバンに荷物を積み、節子の家からアパートまで、2往復してくれた。節子は、
「ほんまに、なんてありがたいねんやろう」
と、言って、杉本さん達に謝礼を渡そうとしたが、
「受け取れないことになっているんです」
と、杉本さん達は固辞した。

引っ越しをしてから3日後に、私は稲本と区役所に行った。生活保護の申請をするためだ。杉本さんは前もって、電話で予約を入れてくれていた。中年の男性の職員さんが応対してくれた。優しそうな人だった。

「ご家族は?」
と、職員さんは私に訊いた。私は、離婚していること、息子たちとは離れて暮らしていること。その息子たちも、長男は、博多でアルバイトをしながら、音楽活動をしていて、とても私の面倒など見られないこと。次男は、大学を卒業して、現在、海外遊学中であること。その旅行から帰ってきたら、元夫の寺を継ぐべく、修行道場に入門すること。次男は、いずれ、広島の寺に帰るので、頼れないことなどを話した。

ご両親とか、ご兄弟はいますか?」
と、職員さんは訊いた。
「父は他界しています。母は二人います。生母は石垣島で、生活保護をもらって生活しています。継母は、東京にいます。弟の焼き肉店を手伝っています。二人とも、遠くに住んでいるし、高齢だし、頼ることができないのです。弟は二人いますが、私が発病して以来、音信不通みたいな状態なので、頼ることができないのです。」
と、私は言った。

「今は、どうやって生活されているのですか?」
と、職員さんは更に訊いた。
「父の姉である伯母を頼って暮らしています。伯母の年金と、私の障害者年金と、ホテルのパートのお給料で暮らしています。ただ、伯母は85歳と高齢でもあり、いつまでも頼ることはできないのです。それに伯母の家は、借地に建っているので、伯母が亡くなったら、私は家を出ないといけないのです。それで、一人暮らしをすることになりました。」
と、話した。

杉本さんは、
「統合失調症のご病気もあるので、フルタイムで働いて自立されるのは、難しいかと思うのです」
と、補足してくれた。
「なるほど。そうですか。ご病気もあって、ご家族も頼れないのですね。大変ですね」
と職員さんは言った。

「わかりました。生活保護の申請について説明します。後日、必要な書類を持ってきて頂きます」
と、職員さんは言った。
・銀行・郵便局の最後まで記帳した通帳
・賃貸契約書、家賃支払いの領収書
・直近3か月の給与明細書
・年金振込通知書、年金手帳
・自立支援受給証明
・マイナンバーが記載されたもの(個人番号カード、個人番号通知カード)
・一人暮らしをするにあたっての数万円単位の消費の領収書
・印鑑
が、必要だった。

「書類を提出していただくと審査をします。息子さんや、ご兄弟に、扶養できないかどうかという封書が届きます。皆さんが、暮島さを扶養できないということで、審査が通った場合に、生活保護が決定したという通知が届きます。今日はお疲れ様でした。」
と、職員さんは言った。

「ふう」
職員さんとの面談を終えて、私は、ふうと息を吐いた。
「職員さんとの受け答えは、完璧でしたよ」
と、杉本さんは言ってくれた。横にいてくれて、心強かったし、本当にありがたかった。
「書類を揃えたら、まず僕に見せてください。書類を提出する時は、また区役所に一緒に行きますから」
と、言ってくれた。本当に心強かった。
 

引っ越しの荷ほどきをしながら、
(生活保護が下りなかったら、どうしよう?)
と、また不安になった。私の預金は、10万円を切っていた。体力的にも、精神的にも、週3日くらいで、一日5時間程度の今の仕事を続けるので精いっぱいだった。生活保護をもらわなければ、とてもやっていけない。
 書類を区役所に提出した後、私の不安を丸井先生や前川さんに聞いてもらった。
丸井先生は、
「心配しなくても、保護は下りると思うよ」
と、言った。前川さんも、
「多分、保護は下りると思います。もし、無理なら、またその時に考えましょう」
と、言ってくれた。
 

そして、二人の言うように、生活保護が下りるという通知が来た。私は、らしくに電話して、杉本さんに丁重にお礼を言った。

「まるいクリニック」と「らしく」。頼れるところがあるのは、本当にありがたいことだ。それは言い換えれば、サポートをしてもらえれば、一人暮らしに不安のある人でも、一人暮らしをすることができるということだ。統合失調症の患者を支える社会資源は、たくさんある。あきらめずに探して、利用してほしい。


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