車輪の再発明のために積み上げたひかりのかけらと言葉のレール
指で編むあなたのための栞紐 人はいるけど静かな駅で
抱擁を夢見るこどもははかなくて、はかないならば僕ではなくて
嘘をつく時によく耳を触りたい 君を騙したい 僕を騙したい
天然水 今日もあなたを憎まずにいられてよかったなんにもなかった
かまどに火 箱にしまえばそれまでの大事なものを使い続ける
かまどに火 たった一つの薪だから燃え尽きないよう祈りもくべた
ペンネンネンネンネンネネムのための子守唄 丸メガネ 星 くらくてまぶしい
しがみついた藁が存外丈夫だった から手放した 君の話だ
束の間の雨が全てを重くした ニューファンドランド駆け回ってた
夏の朝はすごく早いからじっと待つ カムパネルラと夜をダビング
ペラペラの枕が生み出す海の夢 青が青より青かった青
オーバーレイ 細く尖った爪の先からやわらかい字を書くけもの
おしぼりをいじくることをやめられない二人の会話に浮かんだらっこ
助手席でおじぎをしているプードルに追い抜かれた あ 砂漠の五月
爪違い 欠けた端から丸くなり途端にかわいい ひとに見せたい
やさしさがほつれたとこからまろびでる うさぎ あざらし ビーズの枕
ぐっとめをつぶる ゆれうごくすべてからにげる じっと まだ また とまるまで
てのひらを這わせてなぞるアスファルト タイヤはきみを削っていくから
春 季節と名乗る暴力に耐えるだけ 何もしなくてアイスが溶けた
ごめんねも拒絶の意味になるからと黙っていたら消えてしまった
どうしよう もない人間が立ちどまり再び歩くための韻律
夢で見たガソリンスタンドだけがある孤独の島につきまとわれる
こつぶっこを机にぶちまけるわざと 音にしかない気だるさをまとって
くたびれた手とトランプでババを抜く二人きりのコンクラーベ
君が季節と呼ぶものはすべて食べ物だね 好きだよ抹茶アイスクリーム
曖昧な会話の隙間に薄く張るねばこい氷を割りたい ぱんと
パンチェッタ 間違って塩漬けされても嬉しい気がする ふくらみ
あるいは立ち止まることを嘱望しひとつも進まずあなたは生きる
一度目の深淵に近い夢の底 ひかるよつばをあげたいきみに
助手席から確実に見た逃げ水を逃さなかった
(はかなさ保証)
サジェストを汚したくない人々が遠回りして使った「よくない」
ハエたたきと布団たたきの差について(弱く)考える11時まで
精巧な夢を見るため僕ら生まれてきたんだって せいこうなゆめ
追い詰めて出てくるものがほんとならくだものとして眠りにつきたい
色つきのサングラスからうけとった深緑だけを歩きたい六月
水紋のレンズが壁に写し出す光の映画をひらたくみていて
けだるく横になる日を繰り返しこれはきっと簒奪者の夢
オールデイオールナイトしけた川沿いの骸に群がる青の花びら
乳飲子の握りこぶしの大きさのみかんは爆弾 ポッケに爆弾
触れられて触れたら消えてしまった 残された者のワルツを踊る
その線を越えてみえなくなったもの みえたものを印して次へ
永遠はひとつの出会いにとりつかれ離れられない君のお話
四月末から五月の自選短歌です。
「車輪の再発明」という言葉は、すでにあるものの枠組みや仕組みを、労力をかけて自分で作り出すことのようです。一般には無駄な労力として、それは避けるべきことかもしれません。しかし、毎日の積み重ねはまさに車輪の再発明のような気がします。僕の毎日の生活は、たぶんもっと頭の良い人たちからすれば改善の余地がたくさんあるし、無駄なことも沢山あります。余剰もゆとりもたくさんある。できることはもっとあるし、しなくていいこともたくさんある。そんな中で、自分が自分自身の力で気付くことができた物事は非常に価値のあるものです。たとえそれが世にありふれていて、皆が気付いていることだったとしても、僕は新鮮にそれと向き合うことができる。それは本当に幸せなことです。少しでもそうした気付きを蓄えて、これからの自分の糧にできればと思っています。
六月も一歩ずつがんばります。
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