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読書感想文「デリバリールーム」

「デリバリールーム」2020年9月 西尾維新 講談社
読書時:4時間50分

「わたしは戦う。幸せで、安全な出産のために!!!」
招待状を受け取った5人の妊婦 彼女達が繰り広げるのは想像を絶する頭脳戦だった!

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感想
「妊婦デスゲーム」というキャッチーでキワモノのような顔をしているが、そんなことはない。本編の最後の方で語られているが、かなり優しい物語だった。

ヘビーで取り扱うことをタブーとされがちな「妊娠」というテーマをバトルロイヤルにすることでエンタメにしているが、だからといってテーマを軽率に扱わないようにしていると感じた。

だがエンタメにしている分、妊娠にまつわるモチーフをこれでもか!!!とふんだんに盛り付けてくる。日常生活においてあまりお目にかかれないワードがポンポンでてきたり、名付けに使われてくる。日常で言ったらちょっと引かれるかもしれない妊娠ジョークもさらっと飛ばされる。
だがここまで景気よく出てくると嫌悪感よりも一貫した軸を感じてくるので、気持ち悪さなどは感じなかった。
(これは読者の性別や性的な子への意識などで大きく変わってくるかもしれないが、そもそもこういったテーマが生理的に無理!!という人は避けていくタイトルだと思う。でもそういった人たちにこそ読んでほしい気持ちもある。)

登場人物たちが全員妊婦というのもかなりインパクトがある。
そしてさすが西尾維新というか、キャラクターの造形が印象に残りやすく、想像しやすく読みやすかった。ゆくゆくは漫画化!アニメ化!にするには向かないかもしれないが、想像の中でキャラクターが豊かに動き回るのは読みやすかった。

取り扱われる妊婦たちは、マイノリティではあるだろうが、この世界において近しい人は存在するだろうと思わせる境遇であり、女性としては感情移入がしやすかった。
創作においては悲劇の物語として扱われるであろう彼女たちだが、ここは妊婦があつまる出産のためのデリバリールーム。みな対等で等しく競い合うこととなる。
弱者として卑下することなく、自分の目的のために立ち向かう彼女たちは生き生きとしており、力強く、引き込まれるキャラクターたちだった。

「母性」がテーマにあるため、「デスゲーム」のような面構えをしているが、想像していたより優しい物語だった。
重くなりがちな「妊娠」を手に取りやすい形にしつつ、しかしその後このテーマについて触れるきっかけとなる本だったと思う。

出産というものや生みの苦しみについて、肉体的な子供だけではない存在にも触れられていて、それも創作者である作者の視点らしくていいな、と思った。

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