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よりみち和菓子日記 16

8月30日 苔清水

先月はタイミングを逃してしまい、久しぶりの寄りみち。

台風の雨が降る日で、お客さんは私ひとり。池がよく見える、窓際の席に座る。

今日のお菓子は、錦玉羹という、夏のお菓子だという。
待っていると、はっとするように涼しげな、氷のようなお菓子が運ばれてきた。
透きとおった淡い緑色は、自然なグラデーションになっていて、全体に小さな、ひらひらしたものが、ちりばめられている。
「こけしみず、といいます」去り際に、おばあちゃんが教えてくれた。
苔清水。その名を聞いた瞬間、夏の初めに見た、鮮やかな苔の緑や、苔の生えた岩場を、水が流れるようすなどが、ぱっとまぶたに浮かんだ。目の前のお菓子が、眠っていた記憶を呼び覚ますように、感受性を刺激して、心の紐をほどいてくれた。

自然の風景のなかにある、心をうつ美しさ。それに通ずる美しさを持っているというのが、ここのお菓子の芸術性の高さなのではないかと思う。

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