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【イベントレポート】先行事例に学ぶアフターコロナの物流DX

2020年7月29日(水)に「アフターコロナの物流DX」をテーマにオンラインセミナーを開催し、物流事業者を中心に約180名の方にご参加いただきました。事前に行なったアンケート調査では、DX推進における課題として「作業の標準化」や「企業間連携の難しさ」など、アナログな業務体質が引き起こす業界の課題も浮き彫りになりました。それらの課題をどう乗り越えていくべきか、そしてこれからの物流施設や輸配送の仕組みはどうなっていくのか。各登壇者の講演とパネルディスカッションの一部をお伝えします。
(ラクスルのプレスリリースでも概要を紹介しています。)

【第1部】 登壇者によるプレゼンテーション

講演①「コロナで露呈したアナログ業務のリスク」
株式会社日通総合研究所 井上浩志
リサーチ&コンサルティング ユニット4 ユニットリーダー

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井上氏は約85%の物流企業が新型コロナウイルスの影響を受け、物流効率の悪化を招いたというアンケート結果を発表しました。

この結果を踏まえ、今後は感染を広めないためにもアナログ業務のデジタル化を検討し、デジタル化へ踏み出せない慣習的状況を打破すべきと提言し、まずは「紙情報の電子化」「業務の標準化」「業務の可視化」から始め、少しずつ成果を出しつつ、デジタル化の取り組みに対する社内の風土を醸成していく事が重要だとしました。そのためには、初期は費用対効果に執着してはいけないと、参加者へのチャレンジを促しました。

講演②「ネットワーク型TMSによる協力会社のデジタル化支援」
ラクスル株式会社 鈴木裕之
ハコベル事業本部 ソリューション推進部 部長

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鈴木からのプレゼンテーションでは、井上氏の話を受け、ハコベルにおける輸配送DXへの取り組みと、そこから見えてきた課題を解説しました。

事前に行ったアンケートによると、DX推進にあたり特に難しい部分として挙げられたのは、システムの標準化と企業間連携でした。倉庫までは主体が絞られているが、輸配送以降は連携する企業数が多いことが、デジタル化のボトルネックになっており、デジタル化の効果は間違いなく出るので、相手が対応してくれないから難しいと諦めるのではなく、協力を求めながら相手にもメリットを提示しつつ推し進めていく必要があると考察。

「ハコベルでは荷主へのハコベルコネクト導入にあたり、すべての協力運送会社が利用できるようになるまで電話や訪問でサポートを行い、デジタル化を推進しています。導入顧客では、すでに自社業務の約50%、協力運送会社でも25~30%の工数の削減をしています。今後は顧客とパートナー運送会社のネットワークを通じ、業界全体のデジタル化に貢献していきたい。」と展望を語りました。

講演③「倉庫作業の自動化とこれからの物流施設」
株式会社ライノス・パブリケーションズ 藤原秀行
LOGI-BIZ online 編集長

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藤原氏は、現状のトラックドライバー不足を放置すると、2030年に需要量の35.9%が運べなくなるという予測を例にあげ「人口減や人手不足によって物流施設の完全自動化が加速する」と指摘しました。物流事業者や荷主企業がDXに取り組むだけでなく、物流施設を提供するディベロッパーがDXに取り組み始めている事例も紹介しました。賃貸物流施設では、不動産ディベロッパーがロボット導入を前提とした施設設計を進めることが、自動化の推進力となる可能性があると参加者に物流DXの新たな展開を示唆されました。

【第2部】 パネルセッション

「アフターコロナの物流業界-デジタル化へのロードマップ-」
日通総合研究所・井上氏 × ラクスル・鈴木 × LOGI-BIZ online藤原

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鈴木:「アフターコロナの物流業界―デジタル化へのロードマップ」というテーマで、パネルディスカッションの方をさせていただきたいと思います。まずコロナを皮切りにDXが進むというようなお話もございましたけれども、どうも緊急性が感じられないと、差し迫った問題として感じられないということが多かったのかなと思います。いまコロナを経て、企業のなかに課題の意識がどのくらい広がってきているのか、ということについてお二方からお話を伺わせてください。

藤原:物流施設で言えば、倉庫において、かなり危機意識は広がっています。人がこなくなり、これはまずいと実感されている方のお話を伺っておりますので、危機感は広がっていると思います。

鈴木:人からっていうところなんですかね。

藤原:そうですね。

井上:私もコロナ禍中にセンターを何個かまわったのですが、驚いたのが結構みなさん対策をきちんとしている。たとえば食堂ではアクリル版を置いていたり、きちんと消毒したか時間ごとにチェックしていたりと、みなさん結構意識高くやっていて。一方で投資を伴う大きな変化というところまではまだいけていないと感じているところです。

鈴木:コロナが第二波に突入する傾向が見えているのかなと思うのですが、そうは言っても、実際のデジタル化というところまでいかずに、目の前の対策で終わってしまうというようなこともあり得るのかなと思います。第一歩目の踏み出し方について、色々な方と接するなかでどのように感じていらっしゃいますか。

井上:コロナ禍と言う前からですけれども、やはり物流のオペレーションは、なかなかの重労働ですので、そこを改善しようと自動化にチャレンジしはじめているケースはあります。例えば、日通では昼間だけでなく夜間に自動化の仕組みを取り入れ、なるべく人を使わないでなんとかやっていく、そんなアプローチで進めています。

藤原:共通認識として、先ほどお話させていただいたように、基本的なデータが共有されていないことがそもそもの問題だと思うんです。

鈴木:変化をこのあと促していくっていうことなのかなと思うのですが、その変化を促していく主体というのは。経営からなのか、現場からやるのか、どちらからだと思いますか?

井上:本当は経営からトップダウンでやりたいんですが、実態は難しいと思います。やはりそれは両輪ですよ。トップが方向性を示したなかで現場が一体となってやっていかないと。やるのは現場なので。上からの押し付けで、「この仕組みを使え」「DXを推進しなさい」といった場面はよくあります。それってトップが変わったとしても、結局、現場が飲み込んで、現場の管理者レベルが、じゃあこれ使ってみたいとならないと意味がない。そういう意味では、やはり私はデジタル化の風土の醸成が必要だと思っています。まずはやってみようと取り組みを始めた会社さんが出てき始めています。

藤原:物流施設に入居している企業は、結構他のテナント企業の取り組みを気にされていたりして。身近なところをベンチマークにしているんですよね。そういうところで、物流施設という狭い空間のなかで上手く進んでいくのがひとつあるんじゃないかなと。

鈴木:我々も、輸配送のところのデジタル化を推し進めているのですが、井上さんのおっしゃった通りで、経営と現場の両輪が必要不可欠なんです。経営の方がしっかりとそこを見据えてやるんだと言って主導し、エンパワーメントというか、現場にモノを決めていく権利を渡して、とにかくやるという風におっしゃっていただくこと。かつ現場に強いリーダーシップがあり、改革の意識が強い方がいらっしゃること。この両輪が揃うと一気に進むのかなという印象も受けます。チームの組み方で進み方はだいぶ違うなと感じています。今日ちょっと話題が変わりまして、企業間連携っていう話がでてきたかなと思うんですけど、そこが一個ボトルネックだよねと思っております。我々も輸配送のところで言うと、まさに企業間連携の一番後の行程にあるので、そこは非常に難しいし、ただ我々としては、わりと人の力で。システムの力というよりは、やっぱり人の力で乗り越えていくっていうことをやっているのですが、具体的に企業間連携を効果的に乗り越えた事例はございますか?

井上:これは結構難しいですね。本当は連携してやりたいのですが、データが合わないとか、システムの連携自体が元々できるように作っていないとか。いま解決策のひとつとして、たとえばシステム間のデータ連携をCSVファイルを使い手作業でやっていたのを、RPAで半自動化するという形で取り組まれるケースが増え始めているんです。RPAが結構普及してきたこともあると思います。でも、あくまで疑似的な連携なので、将来的にはそこの連携は、何かしら作っていく必要があり、大きな課題と捉えています。

鈴木:庫内の自動化ということで言うと、あまり企業間連携ってしないのかなと思うんですけど、その点はいかがですか?

藤原:まだ実現というわけではないんですけど、ロボットを違うフロアの全然違うテナントさんが一緒に使うとか。それぞれが使ってどれくらい生産性が上がったかというデータをやり取りすることもできるし、まったく関係のなかった企業同士がそういうことをやるのが可能性としてはあるんじゃないかと。

鈴木:そういう課題感を背景にしてなんですが、日通総研さんはSIP、スマート物流についての取り組みに参加されていると思うんですが、どのようなスコープ・課題感での取り組みなのか、伺えますか?

井上:これ話し出すとすごく長くなっちゃう(笑)。一番驚いたことだけにしておくと、私どもは医薬品医療機器のカテゴリーでデータ基盤というプロトタイプを作ってですね、メーカー、ディーラー、病院、物流事業者間でデータを共有しましょう、ということをやっていまして、スコープとしては大きく2つです。ひとつはトレーサビリティで、もうひとつは共同物流。私どもは、共同物流は得意分野なんで、期待していたんです。でも、蓋を開けてみたら、残念なことに医療機器は物量の情報がありませんって。具体的には、容積や重量のこと。そういうものが大きな会社さんでは一部は揃えていますけれども、多くは持ち合わせていない。たとえば整形の手術で使う治具であるとかドリルであるとか、そういうものを器械と呼んでいるんですが、物量の情報がほとんどない。実は物量としては、製品よりもそっちの方が多かったんです。DXと言っても、データ連携するための手前にあるデータ整備が、ものすごい大変だなって思いました。

鈴木:これは本当にあって。我々も輸配送を最適化しようとすると、容積の話が出てくるんで、出荷データのなかに三辺データとか重量データが入っていると非常にやりやすいんですけど、そのデータは別のところにあるけどWMSには入ってないんだよねっていうことが多くて。そのまま生かせないので、データを綺麗にしていくっていうプロセスを必ずかませてから、そのプロジェクトの実際が始まるみたいなところがあってですね。

井上:そうですね、DXの取り組みとしてのベクトルを向けたときに、その足元にデータが揃っているのか、ここが大事な要素だなと改めて思いました。

鈴木:ありがとうございます。ちょっとお時間もそろそろっていうところで、テーマはロードマップということだったと思います。お二人のなかで今後どういうような時間軸でDXが進んでいくっていう風にお考えかを教えていただければと思います。

井上:ちょっと簡単にいたしますけれども。コロナ禍でデジタル化が強制的に2年ぐらい前倒しに進んだという話も聞いています。私が期待しているのは、ソリューションごとの連携ですね。先週のことですが、藤原さんのお話しにあったアッカさんで使っている運搬ロボットが、アパレル系のWMS、このWMSは結構中小さんも使っていて、そのWMSに標準プロセスとして運搬ロボットが使えるようになるという連携が発表されたって。おそらく今後もそういった、ひとつのソリューションでなく、各ソリューションが連携しながら大きなデジタルに姿を変えるという時代がくるのかなと。それがもしこのコロナの状況で強制的にグッと進めば、2年くらいでそういった状況がくると思うんですけど、それがまた元に戻ってやっぱり何とかなっちゃうじゃん、ってなったときには、もうちょっと時間がかかるかなと。

鈴木:逆にそこで中規模の会社さんまで含めて、そこにちゃんと手を付けて、2年という時間軸でやられた方が、足回りの物流でリーダーシップを取っていけるようになると。

井上:まずは、そういうリサーチをするというのが大切かと思います。

藤原:さっきお話させていただいた完全自動倉庫は5年でできると思います。記者としての願望も大きいんですが。環境を見たら進まざるを得ないというのは間違いないので、それくらいの意識を持って物流のみなさんも取り組んでいただけたらなと。

鈴木:情報収集っていうお話がありましたけど、最初に取り組んで欲しいのは、どういったところでしょうか?

井上:私はさっき申し上げた通り、とりあえず何でもいいからデジタル化をやってみること。そうするとやっぱり色んな気づきがあって、化学反応があって、仲間を巻き込んで推進できる。まずはやってみようよと。

藤原:同じセンター内にいる別の会社、別の会社じゃなくて同じ会社のなかにいる別のセクションの人とかでも良いんですけど、そういう身近な所からの刺激とか、きっかけがあれば大きく進む気がします。

鈴木:PDCAのPからじゃなくてDからスタートしようよと。ちょっとお時間もきましたので、短い間でしたけどもありがとうございました。


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