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何者かになってみたい

なぜそんな話になったのか覚えていないんだけど、ずいぶん昔、会社の先輩と【子どもの頃になりたかった職業】の話題になり、先輩は「オレは会社員になりたかったから夢が叶った」と話をしてくれた。
わたしの人生で「将来の夢は会社員です」という人に出会ったことがなかったので結構な衝撃だった。

話によると、先輩の育った家庭は貧しく、両親はずっと働き詰めだったらしい。
毎月決まった収入を得たい、両親を楽にしてあげたい、だから会社員になりたかった、と。
その話を聞いた時、物語の中でしか見たことがなかった人生があるのだと、大袈裟だけどそう思った。

幼かった頃、スーパーのお会計時にドロアーから華麗にお釣り弾き出す店員さんに憧れていた時があった
(その話をすると母親からは嫌な顔をされた)
次に憧れたのが白衣を着た人。薬剤師さんや研究者に憧れ、給食当番の白衣を着るのが密かに好きだった。
中学、高校、大学……と年齢が進むにつれ、わたしのスペックという現実を嫌でも認識するようになり、大学を卒業する頃は「何者でもない人になりたい」と思うようになっていた。

それってなんやねん?とオバサンになった今は思うけれど、当時は真剣にそう考えていて、結果まともな就活をせぬまま卒業し、書店でバイトをしながらボンヤリと過ごす事になり、結果的に今の会社・職種(書店に関係する仕事)につながっているミラクル。

『夢しか実現しない』という言葉を見かけたことがある。
夢ってなんだろうね。

今の会社で働き始めて15年ぐらいが経ち、まさこんなに長く働くとは思ってもみなかった。
何度も辞めたいと思っていたけれど、フリーランスで働く夫と小学生の子ども、そしてネコズとの生活の安寧のため、今は働かねばならぬのだ。
先輩と同じように、家族を守るために、定収入を得るために、働かねばならない状況の中、定年まで働けるだろうか……という不安に襲われながら働いている。

その一方で、わたしも何かにチャレンジをしてみたい、と悶々と考えることが増えた。
大した経験もやりたいこともないまま不惑を過ぎた今になって、本当に今更だけど、「何かを書く事」とか「写真を撮って誰かに喜んでもらう事」を仕事にしたい、と漠然と思うようになった。
文章のルールも起承転結もうまくできない、書きたいテーマすらフワッといる、写真だって専門的に学んだわけではない。
自分でも信じられないけれど、でも人生で初めて心の底から「表現する事」をやってみたいな」と考えている。

その場所に行き着けるのかどうかはわからないけれど、夢を実現させるには働かねばならぬ。自分のために定収入を得なければならないと強く思う。
定収入あっての、夢。
今になって、先輩との会話が響いてくる。

お金がなければ何者にもなれない。安定がなければ夢を持つことができない。安定した生活があるからこそ、夢を見ることができる。
だから仕事を辞めることはできない。でも、仕事以外の時間は少しでも自分のやりたい事をやってみたい。
何者でもない人になりたかったわたしは、会社員のまま何者かになりたくてもがいている。





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