五月十日、今日の一句
▼ 五月十日 苔清水
苔清水 天下の胸を 冷やしけり
明治四〇年(一九〇七)
苔清水とは、苔の間を流れる清水のこと。山道か里山の沢のようなところでしょうか、そこを冷たい清水が湧いています。天下の胸とは何でしょうか、読み手の想像に任されています。たとえば坂本龍馬のような志士が、京や江戸への急ぐ道すがら、理想に燃えたぎる体を冷やしている。その胸はまさに「天下の胸」と云ったところでしょう。
同じ季題で全く句趣を異にする、
楠の香や 村のはづれの 苔清水
というのもあります。
余談ですが、師はこの年、帝大英文科講師(註)を辞して東京朝日新聞社の嘱託となります。作家としての転機を迎えますが、京都帝大教授の学友・狩野亨吉らを尋ねますが、そのときの出来事をもとに『京に着ける夕』を執筆します。((註)誤記のお詫び:正しくは講師)
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