在野での学びとワイン
学びたがりだ、という自覚がある。
少しでも興味を持ったものは、ある程度かじらないと気が済まない。
とはいえ、在野だけ(研究機関外)で何かを学ぶことに抵抗感を感じていたのかもしれない。
なので、(至って個人的なレコンキスタとして)社会人学生として専門の学校に通ったりしていた。
しかしこの間、興味深い体験をしたので、今日はその話をしようと思う。
・・・・・
「ブショネ」というワイン用語がある。
細菌で汚染されたコルクが使われ、味が劣化してしまったワインのことを指す。
ワイン数ケースに一本あるかないか、という話だけは聞いていたけれど、実際に「ブショネのワイン」に出逢ったことはなかった(と思っていた)。
この前両親と3人で、地元で行きつけのレストランを訪問したときのこと。
いつも無口なシェフのおじさまが、2本のボトルといくつかのグラスを抱えて、私たちのテーブルにやってくる。
開口一番「ブショネのワインが出ました」と言った。
なんのこっちゃ、である。
初めて「噂に聞いてたワイン」に出逢ったことと同じくらい、味の良くないと分かっているものをシェフが自ら申告してくることに、戸惑っていた。
すると、彼は珍しくニカッと笑って、「良い勉強になるので、是非香りを嗅いでみてくださいよ」と、普通のワインとブショネのワイン、それぞれをグラスに注いでくれたのだ。
香りは、まったく違った。
普通のワインの方は、芳醇な甘みとキリリとしたタンニン、両方の香りがスッと鼻を抜ける。
一方ブショネのワインは、ワイン本来の香りを「古い本のような香り」が邪魔しているのだった。
面白いのは、ブショネの方も飲めなくはない、ということ。
普通にレストランで出されても「少し美味しくないかもな」で終わるレベルだった。
つまり、これまでブショネとわからずに飲んでいた可能性もあったということだ。
普通のワインと並べられて「片方がブショネです」と教えてもらう体験。
これを以てわたしたちは初めて「ブショネのワイン」を実体を以て知ったのだった。
東京郊外のとあるお店で交わされた、ささやかなやりとり。
でもそこには確かに、在野の学び場としての空間が成立していた。
無骨で、でも気さくなシェフが教えてくれた、ワインの味。
わたしはあれに勝るとも劣らぬ、豊かな学びを得つづけなくてはならないのだ。在野か否かなんてものは、もはや些末な問題だった。
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