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暮らしと感情

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東京と離島で二拠点生活中の人間が、暮らしとその中で生まれる感情について近眼気味に綴るマガジンです。週に3度は更新予定。役に立つことは書きません。
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#エッセイ

一旦、感じた通りにやってみた

小学校高学年の頃、プロフ帳が流行っていた。少し厚手の紙に自分の自己紹介を書いて互いに交換するやつだ。そのなかには必ずと言っていいほど「得意なこと」を記入する欄があったのだが、わたしはそこにいつも「ディベート」と書いていた。多分きっかけは、五年生の頃の授業だと思う。 ディベートは確か道徳か国語の授業の一環としてなされていた。三人ひと組のチームを二つ作って、賛成派と反対派に分かれて「給食のあとにお昼寝タイムがあった方がいいか」とか「小学校と中学校は一緒になった方がいいか」みたい

ドールのホルン

ホルン、という楽器をあなたは知っているだろうか。まるくてカタツムリみたいな形をしており、お腹のところで抱えてやわらかく吹くと「ほーん」という音が出る金管楽器だ。そしてわたしはホルンを見ると、たいてい腸を思い出す。そう、消化器官の腸。お腹の中で絡まりもせず見事に収まっているあのくだは、全部引き伸ばすと6メートルの長さにもなるらしい。ホルンもそれと同じようなもので、あんなにちんまりとまとまっているのに管の長さは全長4メートルなのだという。 中学生の頃、オーケストラ部の体験入部で

適温管理できないわたしと、寒い季節 in 2022

もうすぐ立冬。「すこしだけイラッとするとき」が増えてきた。 理由はここ数ヶ月でとりわけクレイジーなPMSだとか、オットとの意見の食い違いだとか、溜まっている連絡だとか。 身体が本調子でなくなって、コミュニケーションが上手いこと運ばなくなって……そのうち、心身のブランク・スペースが枯渇し、予想外のものを受け入れるような寛容な自分が足りなくなる。 PMSなんて誰も悪くない。オットとの意見の齟齬だって、まったく性格の違う個人がひとつ屋根の下に暮らしてるだけで奇跡みたいなものだ。

体調不良 feat.生姜あんかけうどん

コロナワクチンの4回目を接種したら、わかりやすく副反応が出た。発熱、関節痛、頭痛。37度台後半を示す体温計を、憮然として見つめる。 身体を横たえ、オットに連絡をする。「案の定副反応が出たので、今日はもう店じまいです。」 彼からの返事は「せやろせやろ」だった。 コンディションが宜しくないときの自分をあまり信用するな、とはよく言う話だが、役満みたいな体調不良のさなかで、私はめちゃくちゃに荒ぶり、ほんの一瞬だけそんな自分であっても正義なんだと信じて疑いもしなかったのだと思う。

むち打ちになりたくないので、今日も道路をぶった斬る

飛び出してきた自転車に、横殴りみたいにふっ飛ばされたことがある。どうやらむち打ちになったようで、首を固定するカラーをつけることになった。 視線を動かす、振り向くといったことをするのに、腰から上をまるごとグリンッとひねらなくてはならないのがあまりに億劫で、むち打ちというよりも「首を動かせないこと」に心底凝りた。小回りを失うと、大回りでカバーするぶんエネルギーを消耗する。 それでカラーが外れたあとも、身体をむきだしにして移動するときは、自転車だろうが徒歩だろうがすこぶる慎重に