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怖くて震えてた天神店オープンの時。

六覚燈物語
その三「ポチ袋」

オープンして3日目でした。

大阪から六覚燈のオヤジさんがご夫婦で八兵衛天神店に来てくれたのです!

おお!嬉しかとです!
とはならず。。。

とても恥ずかしくて恥ずかしくて顔もまともに見れませんでした。
あんだけ大口叩いたにもかかわらず
お店はヒマでヒマで
その時は親戚のおいちゃんとその友達しかお客さんがいなかったのです。

何より恥ずかしかったのは
まともなメニューすら出来ていなかったことです。

社員はおらず
私とバイトだけ
仕込みも一人
買い出しも一人
まかないも二回私がつくっていました。

焼とり以外にはメニューがなかったのです。
唐揚げとサラダくらいしか…
しょぼいお店でした。
あんだけ大口叩いたわりには。

そして、かんじんの焼とりでさえ自信がなかったのです。
言い訳ですが、その頃塩をあれやこれや変えてたのです。
焼塩にしたり
ブレンドしたり
吹きかける日本酒も燗冷ましつかったり
純米酒つかったりと
定まっていなかったのです。

味が毎日違ってて
ブレまくってたのです。

しかし、気合いと気持ちだけはありました。
いや、あったつもりだったのかな?

カウンターにご夫婦でニコニコされて座られてました。
私はまともに顔をあげられず
煙いふりしながら
下ばかり向いてました。

そして手が震え
喉がかわきました
こんな経験は初めてです。
そんな方に焼とりを焼くのは初めてだったからです。

ニコニコしながら
私の焼とりを食べられてました。
そのニコニコが怖かった…
いや怖く感じただけかも…
お客さんに料理を出すのにこんなに真剣になったことなかったのかもしれませんね。

適当にやってたわけではありませんが。。。
これが天神で商売するということなのか?
これが今まで私に欠けてたことの一つなのか?

「オヤジさん。。。
せ、先日はご迷惑をおかけしました!
改装せずにお掃除ピカピカにしてオープンしました!
(ホントは改装するお金などなかった)
オヤジさんのおかげです!
ありがとうございました!
そして今日はご来店ありがとうございました!
しかし、こんなんでスンマセン…

けど、どうしてこげな男のお店に来てくれたとですか?」

「うちのお母ちゃんと話してたんや、
あの人大丈夫やろか?って。笑
もう、あんな危なっかしいお兄ちゃん中々おらへんなぁ、いうてね。
そんで、熊本行くついでによったんや。
気が気がでなかったがな。
まあ、顔みて安心したわ。
綺麗にお掃除してオープンしはったんやね、よかったよかった。笑
それから、これとっといて
ラブレターや。
あとで読んどいてね。
ほなさいなら。笑」

そう言ってお店をあとにされました。
オヤジさんがくれたポチ袋。
中には料理のアドバイスと1万円が。。。



ものすごく嬉しくて嬉しくて
たまりませんでした。

このポチ袋はずっと大切にしています。

今でも八兵衛の砂ズリにはセロリとししとうが刺してあります。
梅肉ソースも塩分控えめにしています。

しかし、オープンしたはいいものの
どうすればいいのか迷う日々…

仕える身?
徹底?的に?
どけんすると?
わからん、わからん。
わからんなら
勉強せなやろうもん!
六覚燈へ
行かなこて!
と、月一ペースの日帰りでの
私の六覚燈さん通いが始まるのです。

そして、このばかちんの暴走はまだまだ続くのです。

つづく


六覚燈物語
その四「大阪通い」



それから、何度も何度も
新幹線日帰りで六覚燈さんに通うのです。ほぼ2年以上くらいは続けて通いました。
その後は機会があれば行っていました。

すべての八兵衛スタッフも何度も連れていきました。
言うてもわからんと思ったので連れていきました。
連れていくと、少しわかってくれて
また何度か連れていくうちにどんどん良くなってきて。

人は美味しいものを食べると元気が出ます。
悩みや疲れさえも吹き飛びます。

ああ、美味しい!
また頑張ろう!

そう思えるのです。
それを八兵衛スタッフに経験してほしくて。
みんな本当に幸せそうな顔をするし
考え方さえ変わったといいます。
目の色がちがってくるのでした。



私が伝えたかったこと
それは、
「俺たちはそげな素敵な仕事をしようとぜ。
お客さんを幸せにする仕事ばしようとぜ。
俺たちは楽しませ屋さん!ばい。」
という事です。

さもすれば田舎では
飲食店は下に見られがちです。
彼らは焼き鳥屋で働くことにプライドはおろかそれを恥ずかしいとさえ思っていたふしがあったのです。
それを職業にするなんてあり得ないみたいな。

しかも、
「笑顔?なしてですか?笑わんでもよかでしょうもん」
「お客さんに笑顔やらみせよったらナメられるばい」とか。

その当時そう言ってたバイトは
現「やきとり弥七」の店主宇佐美君と
現「やきとり六三四」の店主森キミヒデ君です。
あまりにも笑顔を拒んだので
セロテープで
目じりを下げ
口角を上げて
笑顔を作ってあげてました。

当時はそんな時代でした。
無理もないと思います。

「ばってん、そうじゃなかったい!
それじゃ、いかんとたい!」
と言いたかったのです。

行くと必ずオヤジさんから色んなお話を聞けました。
皆んなそれが楽しくて
勉強になったし
時には皆んなドキッとしたり
時には皆んな涙したり

でも、ただただ
六覚燈さんの串揚げが食べたかったのかも知れませんね。


ワインと串揚げ。
この世で一番の私のレストラン!
それは六覚燈さんなのです。

その中でも
えんどう豆の串揚げは衝撃的でした。
あの旨味
そしてあの色鮮やかな緑色

ある時
魔が差したのか
バカなのか
オヤジさんに
「作り方教えてくれませんか?」
と言ってしまったのです。

言った瞬間に
「あっ、しもうーた!なんば言いよーとかいな!」
と思いました。
オヤジさんの顔色が少し変わったのです。

「レシピねぇ。。。」
うわっ、また失言してもうた。。

次の瞬間
ニコっと笑われて
手のひらをもう片方のこぶしでポンっとたたかれて
「よし、こうしましょ。
あなたんとこ、弟さんがいはりましたよね?
うちに二週間ほどあずけなはれ。
うちの家に泊まればええし。」

「え?」

 

つづく

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