【短編小説】灯篭流し
灯篭(とうろう)とともに
私も逝(い)きたい
貴方のところへ…
貴方のもとへ…
あの日
雨の降る夜
口喧嘩(くちげんか) しなければ…
バイクを走らせ
私のもとに来ようとしなければ…
既読スルーなんてしなければ…
意地を張らなければ…
" なければ " ばかり
後悔ばかり
灯篭の灯火(ともしび)が
ゆらゆらっと揺れ
私の手から離れた
ゆっくり
ゆっくりと
流れていく
灯篭が…
貴方が…
「貴方ー!!貴方ー!!逝かないでー!!」
さぶさぶっと
勢いよく入っていた
「置いていかないでー!!連れてってーー!!」
ジーンズの裾(すそ)が
濡れることなど気にもせず
夢中で追いかけようとした…
… 怖さなどなかった…
とにかく夢中で…
とにかく必死で…
近くにいたオジサンが咄嗟(とっさ)に 私を止めた
抱き抱えるようにしながら……
川べりで ヘタリ込み
子供のように泣いた
ジーンズの裾が ずっしりと重い
私の心と頭も どんよりと重かった
片方だけになったサンダルも
涙を流していた…
もう片方のサンダルが
私の前に そっと置かれた
顔を上げると そこには
先ほどのオジサンがいた
涙目で 優しく微笑(ほほえ)んでいた
その顔が どこか貴方の笑顔に似ている気がした
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