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大学院入試対策に使った書籍一覧

大学院入試には、志望校に合わせた対策が必要です。
とはいえ、勉強のはじめはまず心理学全体を俯瞰する学習をし、だんだん志望校に絞られる過程を歩むでしょう。
ここでは、私が大学院入試対策に使った主要な書籍を、時期ごとに示します。
(2025年度入試)

1、〜院試1年前

まだ心理学を学んで数ヶ月。大学院説明会で院生さんたちに薦めていただいた本を中心に勉強をはじめました。

『よくわかる臨床心理学』(ミネルヴァ書房)

院試会場にも持参した、私にとっての院試対策のバイブルです。

最初の頃は、大学の試験対策も兼ねて以下の章を中心に勉強していました。
Ⅱ 臨床心理学とは何か(2)基本理論
Ⅲ 問題を理解する(アセスメント)(1)目的と方法
Ⅳ 問題を理解する(アセスメント)(2)データの収集技法
Ⅶ ライフサイクルと心理的問題
Ⅸ 問題に介入する(1)理論モデル

大学の試験が一通り終わったところで、他の章についても学びはじめました。勉強会グループで、ページやテーマをそれぞれ決めてまとめ、発表したりもしていました。

『よくわかる心理統計』(ミネルヴァ書房)

これも院試会場に持っていきました。バイブル2です。
記述統計、t検定、分散分析までがゼロから学べます。

読み口は軽いのですが、本質的な統計の考え方が随所に散りばめられています。非常に奥深く、私は今でも全部理解できてはいないです。
有意水準や検定力、パラメトリック・ノンパラメトリックの考え方、出版バイアス(有意バイアス)のような研究倫理の話まで、非常に奥深い量的研究の入り口を惜しみなく示してくださる本だと思います。

『心理学キーワード&キーパーソン事典』(ナツメ社)

心理単語の要点を掴む学習や、用語を100字〜200字程度でまとめる練習に向いている一冊。

大学の試験の時には本当にお世話になりました。初めて触れる心理学分野の単語についても、短くエッセンスをとらえた説明がされているため、要点が掴みやすかったです。
学部範囲の学習を進めるには救世主だと思います。大学編入後2ヶ月で手に入れましたが、もっと早く買っておけばよかった!

院試対策では、キーワード問題(例えば「学習障害を150字以内で説明せよ」など)に書くべき内容を吟味するのに役立ちました。

2、院試1年前〜半年前

通信制大学のレポート提出と科目終了試験が終わり、いよいよ院試に向けた勉強に本腰を入れはじめました。

『ヒルガードの心理学』

英語に苦手意識があり、なんとかしなきゃと始めたのがヒルガードを読み進めることでした。
振り返ってみると英語は、苦手というよりも楽しくないというのが正確な表現で、試験前は英語学習時間のつまらなさをどう解消するかに苦心しました…

これは私の勉強方法ですが、
説明を順に読んでいくこともしましたが、それよりも各章・各節のサマリーを和訳して概要を掴んだり、分野ごとに最先端の研究や両極端な意見を特集したページを読んで全訳したりしたのが自分には向いていたようです。院試前日までヒルガードの要約練習をしていました。

これ以外にも、
『心理英語』(ナツメ社)や河合塾KALSの心理英語編(講談社)もやっていました。外で勉強する時は『心理英語』、家で本腰を入れるときはヒルガード、という感じでした。
最後まで英語の苦手意識は消えませんでしたし、今でも楽しいという境地には到達していませんが、ときどきわーっと世界が広がる感覚があるのが嬉しい、という感じがします。

『臨床心理学をまなぶ1 これからの臨床心理学』(東京大学出版会)

『よくわかる臨床心理学』を読んでいて、まだ理解が足りないなと思ったタイミングでこの本を読みはじめました。
大雑把に紹介すると、『よくわかる臨床心理学』の質的研究・量的研究の部分がとっても詳しくなったような内容です。古い本(2010年)なので最新の臨床・研究とは離れた部分もありますが、それを念頭におき「こんな素地のもとに今の臨床心理学があるのだ」と納得するには十分すぎるほど厚い内容だと私は思います。
私は、この本の各章をレジュメにまとめて、ひと通り一人で講義していました。自己満足だな、と自分でも思ったのですが、脳内が整理できた点がよかったです。

『臨床心理学をまなぶ6 質的研究法』(東京大学出版会)

質的研究について、まったく初めてという人でもわかるように編成された本です。優しい語り口で、質的研究の背景にある哲学や実際の研究プロセス、研究計画書の書き方なども紹介されています。

質的研究は、人の生の声を理論としてより多くの人と共有できる研究方法だと私はとらえています。「質的研究ってなに?」から始まった初学者でしたが、この本と出会えてよかった、と今でも思い返します。研究計画書を作成する際にも熟読しました。
院試では「質的研究と量的研究の共通点・相違点を述べよ」という問題がよく見受けられます。そういう問題に対する理解の基盤にもなるかもしれません。

筆記試験本番の前日も読み直し、面接当日も好きな箇所を読み直しました。これからも何度も振り返って読み直すことになると思います。

『心理統計学の基礎』(有斐閣アルマ)

む……っずかしいです。
しかし、どの院生さんにお話を伺っても対策に有効だった図書としてこの本を挙げられるので、腹を括ってやりました。心理統計の表面的な知識・理論・計算にとどまらず、「なぜそのように考えることができるのか」を仔細に説明してくれている一冊です。

実際に、院試の統計に関する問題はこの冊子で扱うテーマが多く(というより全部、という感覚を持っています)出題されます。

『心理統計学ワークブック』(有斐閣)

『心理統計学の基礎』に対応した問題集です。用語説明、選択肢問題、計算問題等々、いろいろな角度から知識を確認することができます。
個人的には、解説の豊かさに助けられました。『心理統計学の基礎』では掴めなかった本質が、簡潔な解説によって「なるほどこういうことか!」と納得できました。図表にまとめて理解が深まる箇所もあったので、実践派・視覚的納得が得意な人はこちらからスタートしてもいいのかもしれません。

『心理統計学の基礎』も『心理統計学ワークブック』も、筆記試験前日まで勉強のレギュラーメンバーでした。ここで納得した知識を『よくわかる心理統計』に書き込んで随時まとめておいて、本番は『よくわかる心理統計』だけを持参しました。

3、院試半年前〜2ヶ月前

いよいよ志望校を絞って、過去問研究と論述対策に力を入れはじめました。

『現代の臨床心理学2 臨床心理アセスメント』(東京大学出版会)

生物-心理-社会モデルを基軸とした各領域のアセスメントについてまとめられた一冊です。
ここで学んだ視点を活かして、過去問によく出てくる発達障害のアセスメントや心理支援の方針のトピック、心理障害・精神疾患の見立てなどについて吟味を重ねました。具体的には、『よくわかる臨床心理学』に紹介されている心理的問題一つひとつをBPSモデルで捉えられるかどうか試したりしていました。

この時期は病院実習もあり、DSMー5に記載された疾患や心理検査を暗記することに力を入れていました。
他にもいろいろ本を読んだ気がしますが、どちらかというとキーワード暗記や診断基準暗記などに偏る勉強をしていました。

4、院試1ヶ月前〜前日

志望校を2校まで絞り、どちらの大学院にも出願し終わった時期です。第一志望の1校目は9月中ごろに院試、第二志望は10月の下旬に院試だったので、第一志望の対策だけすることにしました。

『心理学における質的研究の論文作法ーAPAスタイルの基準を満たすには』(新曜社)

2023年刊行。質的-JARSについて仔細に解説した本です。
質的研究の理解をアップデートしたいと思って読みました。
質的研究の論文がどのような構成なのか、どんな点に気をつけて執筆者は書き、査読者は評価をするのか、具体的に説明されています。

「質的研究」の特徴を表すキーワードは数多くありますが、この一冊を読むことでそれらがぎゅっとまとまった感じがありました。何よりも、「新しい発見に開かれているのが質的研究の執筆であり査読である」(私的な理解です)というのが印象深い一冊でした。

『ソーシャル・コンストラクショニズムと対人支援の心理学』(新曜社)

2022年刊行。社会構成主義についての考え方を整頓したくて読みました。
研究法の背景には認識論の違いがあります。質的研究の背景にあるものを理解するのに向いているのが、この一冊です。
それぞれの分野で研究を進められる第一線の方が、「ソーシャルコンストラクショニズム」を軸にして研究の醍醐味をまとめるオムニバス形式の本です。話題が多岐に渡るので、福祉や医療の分野との関連も想像することができるように思います。

私はガリガリ読み込むというよりも、寝る前のストレッチのかたわらで読んで、気になるところは次の日の朝に文章でまとめる、というスタイルで読んでいました。ホームレスの支援に関わる方の語り口が人間味あふれていて、研究への思いにより強い薪をくべていただいたような思いがしました。

5、まとめ

院試に直結したと思う本を、時期ごとに分けて示してみました。

思い返すと、ここにお示しした他にも本を借りて読んでいたように思います。
読んだ本の素敵なところ、新しい発見となった箇所は、付箋に記して『よくわかる臨床心理学』のページに貼り付けていました。結果的に私の『よくわかる臨床心理学』は従来の2倍くらいの重さになっていました。

私は読書量が多い方ではないです。
読む時には、書き手がどういう意味でこの単語を使ったか、どうしてこの言い回しを採用したか、に注目して読むように心がけ、書き手の意図をできるだけトレースできるように励みました。それが論述に使える「思考回路のバリエーション」になると思ったからです。

また、自分で説明できない単語を見つけたらそれを説明してくれる書籍や論文を「これで大丈夫」と納得できるまで探しました。暗記している言葉よりも、納得し説明可能な知識を増やすことも、論述に役立つと考えたからです。

過去問についても、解いて終わりにするのではなく、問いに的確な答えを示してくれる本または論文を見つけるまでけっこう粘りました。たいていの問題には答えの指針となる過去の出版物または論文があり、それを見つけるまでの過程で触れた思考や知識が結果的に自分の思考回路の幅を広げ、枝葉を伸ばしてくれたようにも思います。

院試の問題は多角的に考えられるようにできていると思います。
それがこの大学院の魅力の一端を示しているようにも私は思います。
筆記試験を終えたあと、「ああ書けばよかった!」の連続で、夢でも何度も書き直してよく眠れませんでした。筆記試験から時間の経った今でも、新しく本を借りてきて読んでは「こういう書き方もできたな」と振り返ることがあります。
きっとこの多角性は心理職の本質でもあるのでしょう。悩みながら、その悩みにいいヒントをいただきつつ、これからも勉強を進めていきたいものです。

(2024年9月)

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