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90歳セツの新聞ちぎり絵

富山のミニシネマの近くにある古本屋に入る。6畳ほどの狭い空間に、本がぎゅうぎゅうに詰まっている。古本屋の匂いがする。

その中でリトルプレスの新刊コーナーがあった。ちなみに「リトルプレス」とは、大手の出版社の逆で「小さな出版社」のことだ。個人や数人の団体が自分たちが面白いと思うものを少数部発行している。

リトルプレスは、クセがあって好き。例えるならご当地のクラフトビールを選ぶ感覚に近いだろうか。

本棚の中で「90歳セツの新聞ちぎり絵」という本が目に留まる。里山社という初めて聞いた出版社でいかにも名前からしてご当地っぽい。

裏表紙をみると黄色い帯にこのように書かれていた。

趣味はなんもなかった。食べるだけが趣味でした。もうずっと働いてました。よう働きました。おとうさんが亡くなる前に、私に、いくつになっても勉強せなあかんって言うたんです。その言葉が残ってるんやと思います。私もちぎり絵するから、おとうさんのことほんまに全然思わんようになりました。

90歳セツの新聞ちぎり絵/木村セツ

本をペラペラめくって立ち読みする。新聞紙のカラー印刷の部分を使って、ちぎり絵をつくっている。セツさんはちぎり絵をやり始めたら止まらない。娘さんに「お母さん、飲み物も冷たなってたで」って言われるほど、集中してしまう。

僕は今こうして日記を書いているが、セツさんのちぎり絵に重なる部分があった。でも一年前にちぎり絵をみたら、おばあちゃんの趣味にしか見えなかっただろう。

リトルプレス系の本は機会を逃すと買えなくなる。そもそも都内でも置いてる本屋は限られている。旅先に本は多少かさ張るが、自分に対するお土産だと思ってレジに運ぶ。

古本屋を出てベンチに座って続きを読んだ。最後のページに里山社の住所が載っていた。神奈川県川崎市だった。地元の出版社やん。なんだったら僕が住んでいる逗子の方がローカルやん。心の中で小さく突っ込んだ。

そしてAmazonでもしっかり売られていたので、興味があったら手に取ってみてほしい。

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