物語#6 唯一無二な遊び場

僕の住む街には小さな木立があった。
住宅街の中にあるぽつんとした木々は学校の校庭よりも小さかったが、僕たちだけの遊び場には十分な広さだった。
放課後、友達と共に訪れては色んな遊びをして楽しく過ごしていた。

僕たちから見た木立はとても広く、木は大きく、唯一無二で立派な遊び場だった。
だが大人達から見た木立はちっぽけで、住宅街の中にあるが故に邪魔な存在だったのであろう…

ある夏の日、僕たちは今日も木立に待ち合わせ、遊ぶ約束をした。
僕は早速、木立へと向かった。そこには既に友達の姿があった。

しかし木立には友達"以外"の姿もあった。
それは"重機"だ!
そこには騒音を鳴らし、荒々しく木々を薙ぎ倒していく重機の姿があった。
僕らは驚きのあまり、木が倒されていくのを…
遊び場が破壊されていくのを眺めている事しか出来なかった。

その後、僕らはどの位眺めていたのだろうか…
気がついたら、辺りは暗くなっていた。
僕らは頭の整理が付かないまま帰路についた。

後日、親から聞いた話によると
あの場所は…
あの木立は…
僕らの遊び場は…
自転車を停める場所になるらしい。

街の人々や親は便利な駐輪場が出来て喜んでいたが、僕らは少しも喜べなかった。
それは遊び場である木立を壊していく"重機"はまるで"悪魔"のように見えたからだ。

そうして僕らの夏は"大きな喪失感"と共に終わりを迎えた。
これは僕らが中学生になる数年前の話だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?