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農家ではなく”農家を応援する人”になると決めた。兼業してまで「遊撃農家」を続けたい理由。

はじめまして!平日は都内で会社員をしつつ、週末は全国の農園を飛び回る「遊撃農家」をしているハラと申します。(26歳社会人5年目です)

大学生のとき、全国に農家さんの友だちができたのをきっかけに、遠方からでも農園を応援するために遊撃農家をしています。

※遊撃農家は「ナリワイをつくる」の著者伊藤さんが提唱する生業の一つです。こちらをリスペクトしつつ、わたしなりに活動しています。

四季を問わず、全国の農園を飛び回っているので「なぜ、そこまで農家を応援するの?」という質問をよく受けるので、自己紹介がてら言葉にしてみようと思いたちました。

では、遊撃農家の定義をお伝えする前に、遊撃農家が生まれた背景を先に紹介させてください!

1.赤いトマトは出荷できないから、緑色のトマトを収穫してね。

 「赤いトマトは出荷できないから、緑色のトマトを収穫してね。」
 
トマトの収穫をお手伝いしていたときに、農家さんにかけられた言葉。そのトマトの出荷先は東京でした。

スーパーに並ぶ農産物の多くは、農園から市場に集められ、競りにかけられます。出荷先が決まると、市場からスーパー等に運ばれ、やっと店頭に並びます。

運搬の過程では、振動や寒暖の差がつきもの。完熟のトマトだと、様々な場所を経由するこの長旅に耐えきれないのです。

樹に実らせたまま完熟したトマトが一番おいしい。誰よりも、農家さんが一番分かっていることなのですが、流通構造の問題から、完熟を待たずに収穫せざるを得ない状況が生まれていました。

「私たちの消費タイミングに、農産物の収穫スケジュールを合わせる」ことで、食べたい時に、食べたいものをスーパーで買えているんですよね…。その一方で、消費者の都合よりも、農産物の品質を優先するような、購買ルートも増えてきています。

”産地直送”の食材のみを扱うオンラインマーケット「食べチョク」というサービスもその一例です。農家さんから直接買えるようになると、商品が複数の場所を経由する必要がなくなるため、鮮度の高い食べ頃の食材が手に入りやすくなります。


2.遊撃農家とは「畑をもたない農家」です。

旬を逃さず、一番美味しい状態で届けたい!と、産地直送の直接販売を願う農家さんは沢山います。しかしオンライン販売は、受発注対応や決済の案内など、想像よりも事務作業が多く発生します。

家族経営の農園も多いため、少ない人手でオンライン販売を追加するのは至難の業です。また、本来、農家さんが注力したい、より良い作物をつくる時間が減ってしまうのも避けたいところです。

そうした、人手が不足しがちな部分をスポットで支援しているのが「遊撃農家」です。わたしは、平日は都内で会社員をしているため、週末を使って農園をサポートしています。

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収穫作業や観光農園の運営、オンライン販売など、色んな切り口から援助をしています。人手が必要な部分だけピンポイントでお手伝いするため、私のように本職がある人でも続けられる関わり方です。

つまり遊撃農家とは、「畑をもたない農家」です。また、遊撃農家では、長期的に農作業に関わり続けることも大切にしています。

 先日、コロナの状況が心配で果樹農家さんに電話をしたら、梨の袋掛けを毎年手伝ってくれる人を、今年は呼べないので悩ましい…という話しになりました。
 どうやら、農作業の経験がない人に手伝ってもらうことは、不慣れが故に農作物を傷つけてしまうリスクがあるため、ハードルが高いそうなのです。

遊撃農家は毎年お手伝いをしているため、農作業のノウハウも自然と蓄積されていきます。継続的な関係性が生まれると、農家さんのレクチャーの手間も省けますし、手伝ってもらう際の心理的な不安も少なくなるようです。


3.農家ではなく”農家を応援する人”になると決めた。

四季を問わず、全国の農園を飛び回っているので、「なぜ、そこまで農家を応援するの?」という質問をよく受けます。

私にも分からん…、というのが正直なところで。自分の生活に、農というものが溶け込みすぎているので、なぜ農に惹かれるのか、言語化するのが難しくなってしまいました。

ただ、コロナの影響で農園に行ける頻度が減っている今、感じているのは「農が身近にある暮らしの方が、幸せを感じる瞬間が多い」ということです。

出勤時間も、友人に会える時間も減っている現在の暮らしは、すごくシンプルになっています。私の場合は、食べて、仕事して、少しの家事をして、寝る、を繰り返しています。

これらの、生きるために毎日しているコトは、小さな知恵と工夫で色んな楽しみ方がある、と教えてくれたのが農家さんでした。

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わたしが農業に初めて出会ったのは、大学1年生の時。大学の教授に連れられて、大学近くの畑に行きました。

そこで突然、農園担当に命名され、毎月学内の生徒を集めて農業のお手伝いをするように言われたのでした。

ひょんなことから始まった農園通いでしたが、気づけば農家さんに会える日が待ち遠しくなっていました。

農家さんは加藤さんと言いまして、年齢は80歳を超えていたと思います。

お手伝いの時間は2時間くらいでしたが、農作業時間と休憩時間は1時間ずつでした。ほぼ休憩ですね(笑) お茶をしながら談笑するなかで、色んなことを教わりました。

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加藤さんが口酸っぱく言っていたのが「農業はいかに”楽”するかだよ」でした。だから休憩時間が長かったのかもしれません。

この「楽」というのは、農作業の手間を減らしつつ、気楽に、楽しくやる、ということ。農作業をお手伝いする中で見つけた、わたしなりの解釈です。

浅めに植えると収穫が楽なんだよ、と言われながら植えたじゃがいも。いざ、収穫のときに掘ってみると、本当に簡単に収穫できました。

ロープの結び方ひとつとっても、少しの工夫で楽を追求していました。ぎゅっとすると解けないのに、引っぱるとマジックみたいに簡単にほどける結び方を教えてもらったりしました。

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加藤さんから教わった知恵を他の場所で真似すると、一目置かれるのが楽しくて。農家さんは日常の暮らしを楽しむ天才だ…!と気づいてから、全国の農園に足を運ぶのが私の日課になりました。

社会人になった今も、各地の農家さんから生きる知恵を教わっている最中です。


最後に「なぜ農家にならないのか?」について、少しだけ。予想していたよりも、うまくまとまらず焦っています…(笑)

農家さんは職人さんだと気づいてから、農業は自分には向いていないかも…という確信が強くなったと思います。

農家=職人と表現する所以は、日々小さな実験を重ねて技術力を磨かれている様子を見てきたからです。

農業は自然が相手なので、不確定要素がすごく多い。突然の雪、雨、原因不明の病気など…、明確な答えのない課題に手探りで対処しないといけないため、研究者のような側面もあります。

 さくらんぼ農家さんに行ったとき、白いシートが地面いっぱいに敷かれていました。水はけ用に黒いシートをひく農園は多いのでそれかと思ったら、さくらんぼの色づきをよくする反射シートとのことでした。科学的な根拠があるわけではなく、お隣さんがやっているから実験しているという話しでした。おもろい。

こうした地道な実験から知見を得ながら、農家さんは技術を磨かれています。私よりも研究という分野で力を発揮できる人はいるなと気づいてから、農家ではなく”農家を応援する人”になると決めました。

その一つのサポートの在り方として「遊撃農家」があると思っています。栽培技術の支援とはまた違う切り口から、私だからできることを続けています。

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4.今日は、シャコが届くから早めに帰ろう。

最後に、遊撃農家の活動を通じて、実現できたらいいなと思っている理想をお話して、自己紹介を終えたいと思います。すみません、長くなってしまって…。

いま、わたしができることとして、漁師さんのシャコをオンラインで販売するお手伝いを4月から始めました。

 全国に発令された緊急事態宣言により、飲食店や百貨店等の営業自粛が進んだ背景から、市場の価格が暴落しています。
 宮城の漁師さんもこの影響をもろに受けていまして、シャコの卸値の低さに悩まされていました。そのような理由から、6月までは宮城のシャコ販売をしています。

▼ご注文はこちらから受け付けています▼
【宮城県産の浜茹でシャコをお届けします!】

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オンライン販売では、食材の美味しさを多くの人に知ってほしいという願いがあります。ただ、届けたいのは食材だけじゃなくて、「食卓」という時間や体験だったりもするなぁと思っています。

前述した宮城の漁師さんの浜までは、東京から片道4時間以上かかります。グアムとか行けちゃう移動時間に匹敵します。ただ、これまで苦だと思ったことはないのです。

それは、農家さんとの晩酌だったり、一緒に農作業をする時間が、自分にとってすごく大切だからなのです。

農園を訪問したときに私が感じている幸福感や、疲れた心身が満たされていく感覚を友人にもお裾分けできたらいいのに…と長年思い続けてきました。

この幸福感の源を探るうちにたどり着いたのが、農家さんの「食卓」でした。

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年始に漁師さんを訪れたとき、地元で水揚げされた鯨が食卓に登場しました。また、漁師さんでも知らない魚が獲れることがあるらしく、どうやって食べるか一緒に悩みながら料理をすることも。これがまた楽しいのです。

農家さんは、食材を収穫する過程も含めて「食卓をつくる」時間を大切にしていました。

東京で一人暮らしをしていると、農家さんと囲んだ食卓が恋しくなります。だから使う食材だけでも、誰が、どこで、いつ、獲ってくれたかが見えるものを使いたいと思うようになりました。

農家さんから旬の農作物が届いた日は、食材を食べきるまで楽しく過ごせるのです。それは、食材の美味しさだけじゃなく、農家さんとの思い出も一緒に味わっているからだと思います。

「今日はシャコが届くから、早めに仕事を切り上げて帰ろう」
「いつもと違う銘柄のお酒を買って、一緒に食べてみよう」
「沢山届くから、友人と一緒に食べてもいいなぁ…」

こんな風に、旬の食材が届くことで、食卓をつくる過程が楽しくなったら素敵だなぁと思うのです。まさに、私が日々味わっていること、そのものでもあります。

「8月になったから、農家さんから梨が届くかも…」と、四季を通じて日常の中に小さな楽しみがあると、明日も頑張ろうと思えるもの。そういう小さな幸せをお裾分けする方法を考えながら、遊撃農家を続けていきたいと思います。

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長くなってしまったので、ここまでの話をまとめると、こんな感じです。

1.赤いトマトは出荷できないから、緑色のトマトを収穫してね。
→食べたい時に食べたいものをスーパーで買える流通構造は、食材の美味しさや鮮度を逃してしまうこともある。

2.遊撃農家とは「畑をもたない農家」です。
→季節に限定し持続的な関係性を大切にして農園と関われば、本業がある人でも農家になれる。

3.農家ではなく”農家を応援する人”になると決めた。
→好きなことと、できないことを認めたら、自分に合った農業との付き合い方が見つかった。

4.今日は、シャコが届くから早めに帰ろう。
→美味しい食材を堪能するだけじゃなく、「食卓」をつくる過程も楽しめる時間を届けたい。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。遊撃農家をはじめて、早いものでもう5年目です。

言語化に時間がかかってしまいましたが、少しでも農家さんに思いをはせていただけたら嬉しいです。


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