見出し画像

【ネタバレ】ドラマ「silent」~第5話までをつらつらと~

 久しぶりに目を離せない連続ドラマを見つけてしまった。ツイッターでは世界トレンド一位、TVerでの見逃し配信再生数が歴代最高と人気沸騰中の、フジテレビ系木曜10時「silent」である。

 雑にあらすじを語るとすれば「高校の頃付き合っていた元カレに8年後に運命の再会。ところが、再会した彼は耳が聞こえなくなっていて…?!私には、私のことを大事にしてくれる優しい彼氏もいるのに…?!一体この先どうなっちゃうの…?!」という王道のラブストーリーとなる。
 では、なぜ今更そんな王道ラブストーリーが人気を博しているのか?
 伏線回収でも考察でもなんでもないが、私が思うこのドラマの魅力をだらだらと書きたいと思う。長くなるしネタバレを含むので、「silent」をまだ見ていない方は、こんなnote見る暇があるなら、お願いだから、まずドラマを見てほしい。でもその際に1話でやめないでほしい。。欲を言えば、3話までは見てほしい。。


 まず、主演の川口春奈・目黒連は、美男美女カップルという設定というだけあってルックスが抜群に良い。
 目黒連演じる佐倉想は、顔が良く、さわやか、男子からも女子からも好かれるという、モテる要素しかないサッカー少年だ。ヒロインの青羽紬と、音楽を通じて恋に落ちる。しかし、高校卒業後、病気で耳が聞こえなくなり、大好きな恋人である紬にも、親友の湊斗にも何も言わずに、姿を消してしまった。誰に弱音を吐くこともなく、今まで通りに仲間たちと笑いあうことも諦めて、新しい人生を歩んでいた。
 想はよく泣く。泣きながら怒ったり、泣きながら切なく笑ったり。その細やかで繊細な演技を、声を使わずに表情と手話だけで見事に演じている。
 
 また、紬の今彼(元彼でもある)であり、想の親友である戸川湊斗を演じる鈴鹿央士にも注目である。彼は、紬が「湊斗には“怒”がないの」と評するほど優しい男だ。そう、ひたすらに優しいのだ。常に紬を優先して、自分は「なんでも良いよ」と優しく微笑み、「いっぱい食べていっぱい寝な」と労わったり、落ち込んだときには「動画、検索して。パンダ スペース 落ちる」と元気をくれる。
 優しさにもいろいろあると思うが、湊斗が紬やその弟に向ける愛情は、もはや母性のように感じる。そこを狙っているのか、青羽家の両親は登場しない(紬や弟が両親のことを語るシーンはあるのだが)。父親は亡くなっているようであるが、母親はどうして出てこないのか。エピソード0で弟と湊斗の絆までは描かれたが、紬や弟の生い立ちまで映像化してくれると良いな。
 先ほど書いたように、湊斗はあまり自分の気持ちを言葉や態度にせず、紬を優先する。そんな優しい湊斗なのだが、想が病気を知らせてくれなかったこと、そして自分の前から勝手にいなくなってしまったことを、耳の聞こえない想に、早口で自分の思いをぶつける。しかし、その言葉は想にはもちろん伝わらない。こんなの号泣しないでは見られない。
 そして第3話の終わりに湊斗は、自分が想と連絡を取っていたことに嫉妬していると思って誤解を解こうとする紬に、言うのだ。「想のこと悪く思ってる方が楽だったから。友達の病気受け入れるよりずっと楽だったから。名前呼んで振り向いてほしかっただけなのに」と泣いて怒るのだ。湊斗は想のことに関しては声を荒げて怒るのだ。

 個人的に大好きなシーンがある。
 湊斗が想に思いの丈を一方的にぶつけて部屋を飛び出すが、紬に諭されて、湊斗と想がまた二人で会話を広げるシーン。これまで言葉を発してこなかった想の第一声が「紬」ではなく「湊斗」だったことに、私は感服した。このドラマは単なるラブストーリーではないということを、視聴者に示した大事なシーンだったと思う。通常、ラブストーリーにおける友情は、そこまで緻密に描かれない。だって、本筋じゃないから。でも、このドラマは、恋愛感情も友情も同等に等しく、人の気持ちや関係性を丁寧に丁寧に描き上げるのだ。

 湊はただ優しいだけの人ではなく、紬が想に書いた手紙を勝手に捨ててしまったり、強い意志で別れを切り出したかと思えばその次の日に電話をしてしまうような弱さやずるさがちゃんとあるのも魅力だと思う。
 彼には、想の代替品としての自分という劣等感や不安がずっと付きまとっているのだ。でも、5話で真子からも紬からも、湊斗が決して想の代わりではなく、湊斗に対してしっかりと紬が愛情や信頼を持っていたことが伝えられる。一体、付き合っていた3年間は何してきたんだ?何も伝えてこなかったのか?と思わなくもないところではあるが、別れて初めて、湊斗は自分を受け入れ、自信を持つことができたのかもしれない。

 一方、ヒロインの川口春奈演じる青羽紬はどんな人物なのだろうか。私は、ずっとこの人をどんな言葉で表現すれば良いのかわからない。表面的な部分だけで言えば、明るく素直で可愛い等身大の女子なのかもしれない。Silentのプロデューサーである村瀬健氏は川口春奈のことを「あっけらかんとしたところが魅力」と語っている。たしかに、紬も「あっけらかん」という言葉に近いような気がする。
 想の病気を知り、彼と話したいという一心で紬は手話教室に通い始めるのだが、湊斗はそれを「すんなり受け入れて手話なんて習って」とも言う(湊斗が勧めたのだが)。確かに、湊斗や想が葛藤まみれなのに比べると、紬はそこらへんの葛藤をあまり言葉にしない。想の病気はすぐに受け入れて手話を習い、あまりためらわずに想に会いたいと言うし、想の気遣いや想の紬への思いや、想にずっと抱いていたほのかな恋愛感情に気付きながら「佐倉くんは高校の同級生」「私が好きなのは湊斗」と割り切る。

 真子が湊斗に、想と一緒のときの紬と、湊と一緒のときの紬を比較してプレゼンしていたように、相対的に見ないと紬という人が見えてこない。
 想と一緒の紬は、いわゆる恋に恋するような「キラキラ」な女子だ。どこか浮足だって、背伸びしている感じがする。たしかに、想と一緒にいるときの紬はとても可愛い。
 しかし、5話で、想が紬になにが食べたいか尋ねると、湊斗を彷彿とさせるかのように「なんでも良い」と言葉を返すのが印象的だ。これが紬と湊斗との間だったら、最初から食べたいもの、好きなものを言っていたのではないかと思う。想に対してはどこか「こんな自分で良いのだろうか」という、湊斗が紬に対して感じていたのと同じ類の遠慮や自信のなさをずっと抱えているのではないかと思う。
 一方、湊斗と一緒にいる紬は「ボケーっとしてたもん、私。ぽわぽわしてた」と語るように、無理なく自然体でいられたのだろう。なんでも受け入れてくれる湊斗がいたから、紬は自由に自分の意志を主張できていたのだと思う。湊斗といれば、ドキドキやキラキラとは程遠いのかもしれないが、想の隣にいたときには持てなかった自信を取り戻せたのではないか。
 繰り返しになるが、私は湊斗に母性を感じる。湊斗と紬(弟も含む)の間にあるものは、乳児と母との間で育まれる基本的信頼感に似た安心感なのだと思う。だから、紬は「弟みたい」と言った後に「家族みたい」と言い直す。想の家族はたくさん出てくるのに比して、青羽家は両親の影が見えにくいところからも、紬が本当に求めているのは母性なのではないかと、勝手に深読みしすぎてしまう。深読みしすぎた結果、結局紬がどんな人なのかはいまだによくわからない。

 ここまで読んでもらった人にはお分かりいただけると思うのだが、私はかなり湊斗に感情移入してこのドラマを見ている。ただ、第5話で紬との関係に終止符が打たれてしまったので、ここからは(今までもなのだが)きっと紬と想の関係の変化が中心となるのだろう。できれば、みんな誰かが誰かに片思いしているような状態で終わってくれたら嬉しいが、王道のラブストーリー路線を行くのか、これまた気になるところである。

 制作陣も語っているように、silentは確かにストーリー展開としては派手ではないが、とてもとても細やかなドラマである。このドラマは「言葉」というものが一つのキーを担っている。しかし、言葉が表すのは、伝えたいことの表面をさらったほんの一部分にすぎないということも、同時によく体現していると思う。言葉だけではなく表情、音楽、イヤフォンやヘアピンなどの細々したアイテムなど至るところに、それぞれのキャラクターの気持ちがちりばめられて、言葉のもっと奥の奥の深いところを表現している。

 今私が書いているこの文章も、私の伝えたいことの10分の1くらいしか表現できていないと思う。私の語彙の限界や表現の幅の狭さ、記憶力の弱さなどいろいろ問題はあるにせよ、そもそも言葉そのものには限界というものがあると思っている。だからこそ、伝えることを諦めがちなのだが、それでも、このドラマを見ていると「できるだけ言葉にしてみたい」という気持ちが湧いてくる。

 まだ5話が終わったところなのに、もう最終回みたいなノリで、脈絡なくだらだら書いてしまったが、一人でも多くの人がこのドラマを見てくれたら良いなと思う(回し者ではない)。

 ちなみに、主題歌を歌うofficial髭男dismの「subtitle」もめちゃくちゃ良い。久しぶりにずっと音楽を聴いている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?