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うるさいレシピ
俺は、スーパーの棚に並べられている。
正直、めちゃくちゃ寒い。なんだ、この温度。寒すぎるだろう。隣のヤツも、寒そうにしている。
あーあ、暇だ。あ、あいつ、買われてやがる。俺も早く買って欲しい。寒くて震えちまう。
俺が暇を持て余していると、買い物いっぱいに野菜やらお菓子やらを詰め込んだ、小太りのおばさんがこちらにやってくる。おばさんと、目があった。おばさんは俺を手に取る。
おばさん、お目が高いな。俺は美味いぞ。買って後悔させないぜ?
俺は、おばさんに熱視線を送った。しかし、おばさんは俺の視線など無視して、後ろのやつをカゴに入れた。
そいつは、確かに俺より脂があってジューシーだが、身体のことを考えるなら、やっぱり俺だったと後悔するだろう。俺はよく引き締まってて、マッチョにもダイエット中の女性にも人気だ。しかも、俺は安い。
今度は若い主婦が現れた。俺と、隣のヤツ両方を手に取る。
ここは、俺だろう。量が多いことに越したことはない。大は小を兼ねると言う。
主婦は、こちらを真剣な目付きでにらんでいる。俺も負けないくらい、あちらを真剣に見つめた。
そして、この勝負に俺は勝った。
スーパーの袋にぎちぎちに詰め込まれ、車に揺られ、俺はへろへろだった。乗り物には弱いのだ。大事に扱ってほしい。
台所についた。
「さてと!」
主婦は手際よく準備に取り掛かった。
家で留守番していた卵たちが、鍋でグツグツと茹でられた。
これまた留守番していた玉ねぎが、これでもかと言うくらい細かく切られている。痛そうだ。
そして、いよいよ今日の主役。俺の出番だ。
逃げも隠れもしない。好きに料理してくれ。
「うぅっ」
「うぉっ」
「ひゃぁあ」
俺は一口大に切られた。覚悟してはいたが、痛いものは痛い。傷口には塩コショウが塗りこまれる。傷がしみて痛てぇ。
それを手当てするように、小麦粉が薄くまぶされる。小麦粉はいつでも俺に優しい。
油が並々注がれた鍋が温められている。
油が温まる間に、出来上がったゆで卵が細かく切られ、マヨネーズと玉ねぎと合わさり、綺麗な淡い黄色のソースが出来上がった。
続いて、俺は溶き卵に滑り込み、すぐさま油の海に飛び込んだ。油からは、パチパチと拍手が送られた。
そこからは、この主婦にいいように転がされ、俺はこんがり日焼けした。
そして俺は、主婦が用意した、醤油、砂糖、酢の風呂へと潜り込む。
ああ〜。良い湯だな、あははん。
ゆっくりしたいところだったが、少しすると、千切りキャベツの布団の上に俺は寝かせられた。ふわふわで、寝心地は悪くない。ちょっと肌寒いなと思っていたら、あの綺麗な黄色のソースが掛けられた。おうおう、気が利くじゃねえか。あったけぇ。
はあ。長い1日だった。やっと、ゆっくり休める。
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