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空から垂れる糸

なんでも釣れると有名な釣竿があった。

魚はもちろんのこと、ネコや鳥も釣れた。大きなものだと、豚や牛だって釣れる。かなり力は必要だが、豚は穀物があれば釣れるし、牛は鼻輪に釣針を引っ掛ければ、後は思い切り竿を引くだけだ。

釣り人は、自分で釣った鳥や豚、牛、自家農園で育てた野菜を食べて暮らしていた。

彼の隣にはいつも、彼が釣り上げた猫がいた。猫と、その日生きるための食料。時々、小説を釣り上げて読む。それ以外、欲しいものは特になかった。

鳥や豚、牛を売って欲しいという人には、売ることもあった。食べ物と引き換えにお金をもらったが、彼がお金を払ってでも欲しいのは小説くらいだった。

お金を持て余した釣り人は、お金を餌にすることにした。ほんの遊び心だった。

100円を餌にして釣竿を垂らすと、ものの数十秒で、なにかを捕らえた。

なんだろう、かなり重い。豚か?でも豚は餌がかかるまでに、もっと時間がかかる。うさぎか?にしては重い。

そんなことを考えながら、一気に釣竿を引き上げる。

すると、まだあどけない少年が釣れた。釣り人を見て、少年は怯えている。

「おやおや?変なもん釣っちまったな。お前さん、どうしたんだ?」
釣り人は、おずおずと少年に尋ねる。

「100円が浮いてたから…手伸ばしたら…引っ張られて…ママとはぐれちゃった…ここどこ?ママは?うわあん」
厄介なことに、少年は泣き始めた。

こう泣かれては堪らない。
「そんなに泣くんじゃないよ。今、お前さんを釣り糸につけて、戻してやるから、家に着いたらその糸を外すんだ。分かったか?」

「うん…」
少年は泣きやんだ。大人しく釣り糸に巻かれ、自分の家に帰った。家に戻る途中で、お腹が空かないように、少しのお菓子を持たせてやった。

釣り糸に巻かれた少年が、家まで辿り着いたのを確認し、釣り人は釣竿を引き上げた。

すると、
「おじさん、ありがとう」
と少年の文字で書かれた手紙と、1万円の謝礼が、結び付けられていた。

またお金を貰ってしまった。
彼は、手元にあったお金9万と謝礼金の1万を合わせて、餌にしてみた。今度はもっと良いものが釣れるはずだ。

するとすぐに、少年のときとは比べものにならないほどの重みを感じた。かなり勢いがある。どうやら、何匹も群がってきているようだ。
しかし、待てど暮らせど、なかなか釣れない。こんなことは初めてだった。

「困ったな。また、変なもんを捕まえちまったのか?」
彼は重い腰を上げ、雲の隙間から、その垂れ下がる糸の先を見ることにした。

彼がよく目を凝らしたその先には、洋服を着た赤い顔をした大勢の猿が、我先に餌を取ろうと、餌そっちのけで大喧嘩していた。

「なんだ、猿か。猿はペットにも肉にもならん」
彼は、餌の付いた釣り糸を引き上げた。

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