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仙人になりたい

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~はじめに~

あの頃の自分に届けたい

僕は生きるということについて考えていた。

将来の夢はなかった。
やりたいことはなかった。

生きるってなんだろう?
なんで頑張らなくちゃいけないんだろう?と考えていた。
胸を張って頑張れているというものはなかった。
そういう自分がむなしかった。
熱中できるようなものはなかった。
心が熱くなるより前にめんどくさいと思ってしまう。

そうは言っても人生はおのずと進んでいく。
生きていくんだ。
何のために生きていくのか。
自分のために生きていくのか。
自分なりに人生に光を見つけて頑張ってみようと思った。
生きることにはきっと意味があるものだ。

そして、心の声を聴くままに自分なりの道を歩んできた。
そうする内に、すぅっと言葉が胸に浮かんできた。

仙人になりたい

生きることに悩んでいた。
そんな僕が報われる話をあの頃の自分に届けたい。


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~自衛隊編~

強くなりたい

強くなりたいと思った。
自分の不甲斐なさを払拭するように、そう思った。
役に立つ人間になりたいと思った。
それには強くなることなのだと思った。
一人で生き抜くことができる強さ。
そして、人を助けることができる強さ。
強い人間になるために、僕は自衛隊を志した。
弱い自分に劣等感があったのかもしれない。
人の役に立てれていないというという空虚感もあったのかもしれない。
自衛隊に入ることで何かが変わると期待していた。


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ようやく報われた気がしたんだ

「警察官になりたい!」
小さい頃の僕は言った。

「無理だよ。」
友達はそう言った。

僕は身体が小さいし、気も小さい。
前に出るのは苦手だし、スポーツができるわけでもない。

無理だよと言われても、言い返す言葉がない。
そんな自分に、かけてやる言葉もない。

浮かび上がった心の躍動は、申し訳なさそうにすぅっと消えていった。

中学生の頃、僕は自衛官に憧れた。
あの時の気持ちは、形を変えて、またやってきた。
消えたわけじゃなかった。ただ、隠れていただけだった。

僕は誰にも言わなかった。
自衛隊に入るんだと、ただ自分自身にだけ想いを打ち明けた。
そう、決めた。

きっと、僕は試したかったんだと思う。
僕にだって、出来るんだって。

強くなることに憧れた。弱い自分にないものだと憧れた。
頑張ることが苦手だった。
頑張ってると思われるのが恥ずかしかった。

ただこのままで生きていくよりも、人生で一度は頑張ってみたいと思っていた。
全力で走ってみたかったんだ。

なにも知らない無垢な僕は自衛官になった。
夢は叶った。あとは頑張るだけだった。
渡された迷彩服に袖を通すと、まだ見ぬ自分が、こっちを見ている気がした。

「髪が長い」と叱られて
「声が小さい」と怒鳴られて
そんなことがある度に、僕には向いてないと感じる日々。

慣れないことばかりだった。
厳しいことばかりだった。
でも、僕は頑張った。
ただ、目の前のことに精一杯向き合った。

そして、教育訓練修了の日。

「優秀賞授与」
僕の名前が呼ばれた。

驚きと緊張で返事の声が出なかったのを覚えている。
僕が精一杯向き合った訓練の成果は、表彰状として返ってきた。

あの日、申し訳なさそうに消えていった心の躍動が、この時、ようやく報われた気がしたんだ。
僕は頑張れた。
僕にだって、やれば出来たんだ。

嬉しかった。
やっぱり、無理だよってほんとは思っていたから。
自分にも出来るんだっていう自信をもらえた。
あの日、あの瞬間、僕は自分を認めることができたんだ。

あの時の自分がいるから、今がある。
そのおかげで、なんだってできるんだという気持ちで、今も前を向いていられる。


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僕が本当に求めているもの

自衛隊に入って一年経つと、後輩が入隊してきた。
僕は先輩になった。
直属の後輩に先輩風を吹かせながら、できるだけ親身になろうと努めて話しかけた。
訓練中どうしていいかわからずにいる後輩を見つけては、掴まえてやるべきことを教えた。
後輩が周りに褒められている時がいちばん嬉しかった。
後輩や部隊の仲間のために働くのが、僕のやりがいになっていたんだ。

自衛隊では頑張った。
本気で人生と向き合えたという体感を得られた。
その中にはもちろん挫折もあった。
ただ、自分の中で何かを乗り越えられた気がした。

だが、強くなろうとすることに何の意味があるんだろうか。
それが何を生むのだろうか。
確かに、自分の人生を生きることにも、人の役に立つことにも、強さを持つことは自信を持たせてくれた。
ただ、僕が本当に求めているものは強さなのだろうか。
人を救うのは強さなのだろうか。
どうしても腑に落ちない。

僕が本当に求めているものは、人の持つ優しさに触れることなのではないだろうかと考え始めた。


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優しくなりたい

僕は優しくなりたいと思うようになった。
誰かを助けることができるように、僕は優しい人間になりたいと思った。
人にありがとうと言ってもらえることがなによりも嬉しい、そういう瞬間を過ごしていたいと思っていた。自分のために頑張ることは相変わらず、不得意だったのだけど、誰かが喜んでくれるのなら、頑張ることも惜しくはなかった。
そこにある温かいものに優しさの本質を感じていた。

自衛隊に入ったことは僕を大きくしてくれた。
そして、また別の道もあるんじゃないかと思えるようになった。
自衛隊を辞めて、東京に行くことにした。
そして、シェアハウスに暮らし始めた。
東京での暮らしには自由な世界が溢れていた。
何をするにも自分次第。
自衛隊にいた頃には、家も食事も生活のすべてをまかなわれていたから、ここでの暮らしはすべてが新鮮だった。


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~整体師編~

人一倍に人見知り

僕は整体師になった。
整体の仕事も僕を大きく変えてくれた。

僕は昔から人一倍に人見知りだった。
自分から友達を作るということをしてこなかった。
自分から話しかけるということをしてこなかった。
思春期を過ぎる頃に自分は人見知りなんだなぁと感じ始めた。
人に話しかけるのが億劫で、遊びに誘ったりもしたことがなかった。
でも、それでよかった。
一人でいるのは好きだった。

大人になった僕は、さすがに人見知りを何とかした方がいいかもしれないと思った。
自分を変えたかった。
そのために人と話す仕事をしようと思っていた時、整体の仕事と出会った。
整体の施術をしている間は、来てくれたお客さんと一対一で向き合うことになる。
相手の話をよく聴いて、喜んでもらえるように精一杯尽くす。
そういうことを何百回何千回とさせてもらった。

やっぱり、大変ではあった。
身体のことはわからないことばかりで、施術の技術も学ばなければならないことばかりで。
そんな中でも、僕はカウンセリングの時間を大切にしていた。
多くの悩みを聴いて、できる限り応えられるように頑張った。
そうすると不思議なもので、話すことは苦ではなくなっていった。
むしろそれが自分の強みになっていった。
話をするのが好きな自分が、そこにいることを知ることができた。
整体師としての経験は今でもとても活きている気がする。
生きていく自信も持てるようになった気がする。

ただ、まだ迷いからは抜け出せないでいた。


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~カナダ編~

自分は何をしたいんだろう?

自分を見つめなおすために海外へ出ることにした。
昔からしたいと思っていたことを叶えてみようと思った。
それは海外で暮らすこと。
小さい頃、僕の家ではホームステイを受け入れていた。
たくさんの人が色んな国から来てくれるのを迎え入れていた。
言葉が伝わらなくても、一緒に過ごす楽しさがあった。
東京に出てきて、シェアハウスで暮らし始めて、そこでも色んな国からやってきた人たちと出会えた。
日本に留学しに来たり、仕事をしに来たり、生まれ育った国を出て、自分の道を作っている彼らがかっこいいと思った。
そんな彼らに倣うように、僕はカナダへ行ってみることにした。

世界でもっとも住みやすい街と言われていたバンクーバーでどんな暮らしができるのか、色んな暮らし方を試してみた。
日本からの手続きで、紹介先の家族のもとへホームステイを始めさせてもらい、そこからは自分で話をつけてホームステイの滞在に漕ぎつけたり、シェアハウスもいくつか巡り住んでみた。
バックパッカー宿にも滞在したし、ホテル暮らしも満喫した。
どれも刺激的な暮らしだった。
未知の世界に飛び込む勇気が人生に潤いを与えてくれていた。

バンフという山の中の街での暮らしが僕にはぴったりフィットした。
冬には-30℃を下回る、一面真っ白のカナダらしい白銀の世界。
見渡す限り山が広がっている。
そんな壮大な自然の中を毎日のようにさんぽしていた。
カバンに熱々のコーヒーとパンを詰め込んで雪山をざくざく登っていく。
特に夜の山が好きだった。
しんしんと冷えた夜の星空は迫ってくるように感じられた。
そんな日常に、何が起こるでもない日常に、豊かさを感じていた。
バンフではホテルで働いていた。
休暇を過ごしに来る人達はみんな笑顔で、気さくに話しかけてもくれて、そんな人たちを迎えることに楽しさを覚えた。
そこで、一緒に働く仲間たちに居心地の良さを感じていた。
バンフで過ごす時間は心地よかった。
その心地よさの中に自分の求めているものが見える気がした。


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〜ゲストハウス編〜

これが僕の天職なんだ

日本に帰ってきてから、果たして自分が落ち着ける仕事があるだろうかと思っていたが、ゲストハウスという道を見つけた。
ゲストハウスで働くことには、バンフでの心地よさがあった気がした。
ゲストを迎え入れている時、旅の思い出話を聴いている時、いってらっしゃいと送り出す時、そこには温かいものを感じられた。
その場所は優しさに包まれているように思えた。気持ちのいい感覚だった。
これが僕の天職なんだと思えた。

そうやって、ゲストハウスで過ごしながら考えていた。
居心地のいい場所を作るにはどうしたらいいだろうか。
自分らしくいられる場所を作れるだろうか。
そんな優しい世界を生きるにはどうしたらいいだろうか。

そんなことを考える内に、すぅっと言葉が胸に浮かんできた。

仙人になりたい


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~そしてこれから~

自分なりの道

ぼくはこれからも自分の心から生まれる声を聴いて、自分なりの道を歩いていく。
そうしている内にその生き様が、僕の世界を形作っていることだろう。

自分が何をするかは自分で選択するんだ。
そこにある意味を大切にするんだ。
その選択には価値観が表れる。
その意味が世界観になる。

そうやって歩んできた道のりにはしっかりと自分の生き様が刻まれるものだ。


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人のために生きる

人のために生きたい。

それは、だれかの期待を満たすために生きるんじゃなく、
自分が役に立てるだれかのそばにいたいということ。

だれかが求める形に自分をはめるんじゃなく、
今の自分がうまくはまる場所を求めているということ。


そういう居場所を作りたい。
そういう人に僕はなりたい。


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