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オレンジ


父にオレンジを食べられそうになった。涙が溢れそうだったけれど堪えた。どうしようもなく腹が立った。オレンジを気にかけていたけれど、なかなか食べなかった私も悪いかもしれない。

友達がくれたオレンジ。
数日前、何人かの友人と夜ご飯を食べに行った。
新しい仕事にもまだ慣れておらず、次の日も朝から仕事があるし、雪もすごく降って、正直早く帰りたかった。
しかも私は車で行っていた。解散が9時くらいになってしまって、ちょうどいい電車もなく、友達を送ることになった。雪道で滑るし、去年滑って事故にも遭っているし、怖くて友達を乗せるのは少し億劫だった。
家までみんなを送りたいけど、気が引けている自分にも少し嫌な気持ちだった。本当は快くしてあげたいけれど、いろんな事情が重なって、そのときは心に余裕が持てなかった。

結局家に着いたのは11時近くになってしまった。
友達が「本当にありがとう」と、お茶のパックをいろいろくれた。それと「すごく美味しいから!」とオレンジを二つくれた。

その気持ちが嬉しかった。見返りを求めてたわけではないけれど、疲れていた心に沁みたのかもしれない。送ってよかったと思った。

オレンジは3日後くらいに、母が皮を剥いてくれて一つ食べた。すごく甘くて美味しかった。
一つ残していた。皮を剥くのが面倒だなあと思いながら、なかなか食べなかった。

父に食べられそうになったオレンジ。なぜか、泣きそうになるくらい、嫌だった。

私が食べたかった。純粋に美味しいオレンジが食べられないのは嫌だし、いろんな気持ちが入り混じったオレンジだったから、邪魔されて感情がぐちゃぐちゃになって、どうしようもなく泣きそうだ。

ほとんど皮が剥かれたまぬけなオレンジ。母がラップに包んでくれたけれど、どう見たってまぬけだ。

母の優しさに包まれた、まぬけなオレンジが転がっている。

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