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ほんの少しオススメ映画「緑の夜」~北欧のノワールムードの底が割れる~

 ほとんどヨーロッパそれも寒い北国の空気感の中でフランス的フィルム・ノアールが展開される。一部昼間のシーンもありながら全体に暗い、タイトルそのままの、まとわりつくような緑の夜。中国の圧巻の美人スターであるファン・ビンビンが装飾を一切拒絶した絶望寸前の女を演ずる。対する緑髪の若き女を韓国のイ・ジュヨンが美しく存在感を見せつける。2人をコントロールするのが中国の女性監督(わざわざ女性なんて書きたくないのですがね)さん、でこれが香港映画ですって。

 中国独裁政権下にある香港映画にはまるで興味が湧きません。かつて優秀な映画産出国であった香港ノワールも遠い追憶の彼方。しかし全体としてみれば本作は凄まじい勢いのある韓国映画として観るのが妥当でしょう。おっと撮影監督がベルギーの方だとか、よけいにややこしいですが。

 端から2人の女は不幸を背負った風情で映画に登場する。これまでの労苦は一切省略しますよと映画は宣言する。その分濃厚な映像が感覚的に重ねられ、端から逃避行を匂わせ、端からレズビアン的指向を漂わせる。物語はあってないようなもの、それぞれのパートナーも含め、職場の上司さえも男たるもの女の上に立つと言う、女性差別のお話に集約される。

 きわめて粗削りな脚本をムードで乗り切ろうとの意図が見えだしたら、途端につまらない映画に見えてきた。緑のヘアに緑のマニキュア、思わせぶりの胸の谷間のタトゥー、正体不明なのにえらく馴れ馴れしい。薬物の運び屋だと早々に明かされるものの、化粧品に見せかけたとは言えカバンを開けたらすぐそこにブツが在るなんて、ちょっと白けます。運び屋ならばこそ検査官にちょっかい出す不自然。裸足で真冬のソウルを歩けるはずもなく、初対面なのに勝手に冷蔵庫を開ける神経は理解出来ず。いつのまにかスクーターでのヘルメットも付けず、なによりも男どもへの殺意にまるで説得力もなく、雰囲気醸造は素晴らしいけれど、中身のスカスカが次第に露呈。

 正に感覚だけを造り上げたまがい物と言って差し支えないでしょう。そうなるとファン・ビンビンがもはや整形だらけの顔に見えてしまった。ラブシーンに至っては下着を着用のまんま、の生ぬるさ。嗚呼、突っ込み処を書いてたらキリがありません。いつのまにか緑髪がファンのほうにまで伝染する演出に至っては、逆に女を舐めてるようにしか思えません。監督さんは中央戯劇学院で演劇・映画を学び博士号を取得とか、独裁政権を鼓舞する映画が似つかわしいのでは? と失礼顧みず性根の無さに呆れてしまいました。

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