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オススメ映画「サン・セバスチャンへ、ようこそ」~あと僅かなウディ作品をかみ締めよう~

 御年88歳、米国の映画史に確実に名を刻む巨匠監督。「何かいいことないか子猫チャン」1965年以降、ほぼ1年に1本の新作映画を世に出し続けるなんざ神の領域、その上でアカデミー賞に史上最多の24回ノミネートされ、監督賞を1回、脚本賞を3回受賞ですから巨匠中の巨匠。にもかかわらず養女への性的虐待の疑いで、ほぼ米国を追われEUに拠点を置かざるを得ない状況が功績に傷をつけている。にもかかわらずイギリスからフランスそしてスペインへとベースを変えつつもほぼ1年に1本の新作映画ですから驚嘆です。

 そもそもダイアン・キートンと付き合い、その後釜に据えたミア・ファローを見れば彼が若すぎる女の子好きなのは明々白々。養子に迎えた韓国系スン・イーと出来てしまい(現在は正式なウッディの妻)ミアの激怒を買ってしまい、幼児虐待のでっち上げを招いてしまった事が傷となっているわけで。でもミアの結婚歴をみればどっちが嘘つきかは火を見るより明らか。最初の結婚相手がフランク・シナトラですよ、彼を捨てて今度は世界的指揮者であるアンドレ・プレヴィン、そしてウディ・アレンへと。辟易してしまいます。

 言うまでもなく、ニューヨークでの都会的ライフスタイルの鏡と崇められた70~90年代、貧相な風貌でゴリゴリのユダヤ人を表に出し、にもかかわらず時代のアイコンに上り詰めたのも知性とスノビズムそしてクラリネットへの執着があってこそ。それはもう美人女優たちの憧れの映画監督で、彼の監督作でアカデミー賞に繋がった実績が明確だから。

 さて、本作、主演のウォーレス・ショーン扮する禿オヤジは当然にウッディ・アレンそのもので、流石に本人出演も遠慮した次第。ジーナ・ガーション(お久しぶりでも相変わらずの美貌でした)扮する妻に同行してサン・セバスチャンに来た設定で夫婦揃っての浮気ざんまいを描く。どおってことないお話で新味はゼロですが、彼の良さはその膨大かつ洒落と洒脱に満ちたセリフを堪能することであり、バルセロナとは異なった美しさの街そのものも活きる仕掛け。例によって主役たちはリッチピープルで、大学教授やら作家そして映画監督から医者とセレブ揃い、立ち寄る店も相当にゴージャスで。私ら凡人が気張って訪れても登場するレストランなんざ目を剥く高額でしょうね。

 ここに至り何を思ったのが、映画史に名を連ねる名作映画へのオマージュを連発するのが特徴ですね。オーソン・ウェルズ、フェデリコ・フェリーニ、フランソワ・トリュフォー、クロード・ルルーシュ、ジャン=リュック・ゴダール、イングマール・ベルイマン、ルイス・ブニュエルと錚々たる顔ぶれの名シーンを主人公の夢の中として白黒で描く。昔「アニー・ホール」1977年でアート系映画館で好んで鑑賞し小難しい論議でアルコール飲みの類の作品ばかり。「インテリア」1978年でベルイマン志向を隠しもせず吐露した彼らしい選択。主人公のスノッブぶりを巻き散らかし、夢に苛まれるってわけ。その披瀝に映像はないけれどセリフで日本映画の名作を淀みなく語り、聞かされる者たちにドン引きされるシーンまである。妻の浮気相手の偽善者ぶりに輪をかけた自らのスノビズムを揶揄しているわけで。

 開巻からタイトルはしっかりウッディ・アレン独特のフォントが健在で、30年代の緩いジャズが全編に流れ、男と女の相も変らぬドタバタに安心すらする次第。ウッディ・アレンの置かれたシチュエーションはこれまた巨匠のロマン・ポランスキーに似ていますが、コンスタントに制作ってのが凄いところ。彼自身が映画の中で喋ってましたが、脚本書いて制作を立ち上げるも撮影に入った途端のごたごたに制作そのものを後悔する、って。いつまでこの後悔が続くのでしょうかね。思い通りにいかないからこそ、嗚呼人生ってとこでしょうね。

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