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オススメ映画「ロスト・キング 500年越しの運命」~サリー・ホーキンスの名演~

 火葬の国の私達に理解し難いお話で、土葬ならではの実話。しかし土葬後最後に残った骨とても、仮に日本の酸性土壌でしかも高温多湿の場合は100年以内には全て土に還るわけで。本作のように500年もイギリスだとしても、形そのままに存在するのでしょうかね。いえ、実際に見つかったから本作が出来たのですけれど。

 ポイントは、一人の主婦の異様な執念により遺骨が発見されるまで、を描く。2人の少年を抱え離婚した主婦にとって、とんでもないハードルで、その仔細が映画の要。ですが、彼女フィリッパとリチャード三世の出会いが冒頭の演劇だけ? なによりシェイクスピアの国ですので、一般人でも十分な知識がありましょうが、戦国武将についての日本人の知識程度には。それにしても、職を放棄してまでのめり込む意欲が分からない。分からないけれど、主演をサリー・ホーキンスが演ずることによって、さしたる疑問にもならないのです。

 そう、サリー・ホーキンスのまあ驚くほどの細やかな演技は圧巻で、10年ほど前のイベントの再現ドラマにおいて観るべきは彼女の演技となりましょう。眉ひとつ、小皺ひとつ、瞬きひとつ、で演技する、驚くべき繊細さで、リチャード三世との出会いを観客に納得させる。ほとんど少年の風情で、本音の悲しみまでも観客に伝える演技がなされる。「ブルージャスミン」2013 や「シェイプ・オブ・ウォーター」2017 なのに「GODZILLA ゴジラ」2014 にもそれ以降のゴジラにも出る不思議。米国の名優フランシス・マクドーマンドに共通する隠された真の力強さ。ステレオタイプの美人女優とは対極で、いぶし銀のように輝く。

 既に名匠となったスティーブン・フリアーズの手練れの演出にそつはなく、無難過ぎ途中のテンポの悪さには画面も停滞気味でしたが、なんと言っても映画化に際し、そのまんまのリチャード三世を彼女にしか見えない幻覚として画面に登場させるアイデアは素晴らしい。後世の解釈による誤解を解かないと浮かばれないとばかり、フィリッパのここぞの時に現れる。ほとんど今はシングルの彼女にとっての彼氏そのものとして。

 それにしても、街全体が21世紀の今にも関わらず、そのまんまヨーク朝時代としてロケが可能なんですね。これが日本と根本的に異なる。家で夕食とってから観劇に出かけられる社会って凄いよね。「007 スカイフォール」が登場するのは実話の年度に合わせるため。ベネディクト・カンバーバッチが登場するのはDNAによりベネディクトがリチャード3世の血縁者だったから。映画の終盤には大学の権威主義が邪魔をし、ちょっと後味悪いですが、ラストのテロップで王室からフィリッパが顕彰されたとのことで、安心しました。

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