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【検証コロナ禍】改正特措法 権利制限事態に法律上の歯止めなし

 前回、改正特措法で新設される「まん延防止等重点措置」は緊急事態宣言と実質的に同じであり「ミニ緊急事態宣言」にほかならないことを明らかにした。
 
権利制限の内容は、政府が一方的に決められる政令に丸投げしている。しかもこの新たな「ミニ緊急事態宣言」はいつまでも続けることができ、発動・解除の基準もないため、法律上の歯止めがない。
 コロナ禍で怯える世論の下、憲法が想定していない「非常事態体制」を創出し、そ
の長期化、慢性化を許容する法律になっているのではないか。

(冒頭写真は、自民党と立憲民主党が特措法改正案の修正合意をしたことを報じた1月29日のNHKニュース。そのわずか5日後に改正法案は可決成立した)

ここで「非常事態体制」という言葉を使ったのは理由がある。
「緊急事態」とは、国民の生命・財産が脅かされるなど急迫した事態を指す。緊急事態だからと言って、従来の自由・権利を制限できるわけではない。そのためには別途、(特措法のような)法律が必要となる。
一方、「非常事態」とは、法律がなくても従来の自由・権利に制限をかけられる例外的状態を指す。非常事態条項は現行憲法にないため、改正論議に必ず出てくる論点である。
改正特措法は、その「非常事態」の創出を可能にした疑いがある。しかも、憲法の非常事態規定なら必要となるような歯止めが、この改正特措法には見当たらない。以下、それを検証することになる。

NHKのパネル図でも一目瞭然となった「ミニ緊急事態宣言」の導入

 まず、NHKが改正特措法の内容を詳しく報じた際の3つのパネル図を見比べてほしい。ほとんど違いがないことが一目瞭然である。
 つまり、まん延防止等重点措置が緊急事態宣言と実質的に同じ「ミニ緊急事態宣言」であることが、このパネル図からもわかる。

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改正特措法の施行でどうなるか

 2回目の緊急事態宣言(1月8日〜2月7日)は、一部を除き10都府県で1ヶ月間延期の方針が確定している。
 改正特措法が施行される2月13日からは、緊急事態宣言下の10都府県の知事に、休業・営業時間短縮などを強制できる権限(命令、違反すれば過料)が授権される。つまり、その日から今よりも強い権利制約を伴う「新・緊急事態宣言」に格上げとなる

 そして、いずれの日か緊急事態宣言が解除されても、「まん延防止等重点措置」に移行する可能性が高い。知事には引き続き、緊急事態宣言下とほぼ同様の、営業時間短縮などを強制できる権限が付与される。名称が変わるだけで、実質は何も変わらない。しかも、知事に授権される「命令」の範囲は、政府が決められる「政令」に委ねられている前回の検証記事参照)。
 さらに、緊急事態宣言が実施されなかった地域(北海道や他県)も、他の地域とのバランスから、「まん延防止等重点措置」という名の強制力を伴うミニ緊急事態宣言に格上げされる可能性がある。

<改正特措法の施行でこう変わる>

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「ミニ緊急事態宣言」の発動要件が曖昧

 しかも、緊急事態宣言と比べて、新設された「まん延防止等重点措置」の発動要件は極めて曖昧になっている。政府の主観的判断に委ねてしまっていると言っても過言ではない。
 緊急事態宣言は、発動の要件を次のように定めている(改正でも変わらない)。

新型インフルエンザ等(…)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(…)が発生したと認めるとき(第32条)

 他方、新たな「まん延防止等重点措置」については、次のように定めている。

新型インフルエンザ等(…)が国内で発生し、特定の区域において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある当該区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるとき(第31条の4第1項)

 非常にわかりにくい条文だが、いずれも最終的に、政府が一方的に定められる「政令」に委ねているとはいえ、ひとつ大きな違いがある。
 緊急事態宣言は「全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある」という客観的な要件があった。
 他方、まん延防止等重点措置は、「まん延を防止する」という目的のために「まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要がある」と判断できれば可能となっている。特定地域のまん延状態の発生といった客観的な要件が明記されていない。言い換えれば、特定地域にまん延する前から「まん延防止のための集中的対策が必要」と判断さえすれば、実施できるように読める条文である(今後定められる政令でどのような要件が入るか、現時点で不明)。

 裏を返せば、まん延防止等重点措置の解除は、政府が「まん延防止のための集中的対策が必要なくなった」と判断したときに行えばよいことになっており、解除基準は法律上、無きに等しい
 日本での「まん延防止のための対策が必要」とみられる状態が続く限り、論理的には「まん延の恐れ」が消滅する「ゼロコロナ」になるまで、権利制限の非常事態体制を継続することを許容する法律になっているのだ。

政府対策本部長は、第一項の規定による公示をした後、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施する必要がなくなったと認めるときは、速やかに、同項に規定する事態が終了した旨を公示するものとする。(第31条の4第4項)

長期化の歯止めがない

 もちろん、たとえ新型コロナの「まん延の恐れ」が残っていても、この強制的な権利制限を伴う非常事態体制を望まない世論が高まれば、政治的判断で解除することはあるかもしれない。
 逆に言えば、解除せずそのまま続けてくれという世論が支配的である限り、法律上、権利制限を伴う緊急事態法制を継続できる、ということでもある。解除するかどうかは、全ては世論次第、政府のさじ加減次第となる。

 しかも、強制力を伴う「ミニ緊急事態宣言」にもかかわらず、国会の承認決議は必要なく、従来の強制力を伴わない緊急事態宣言でさえ明文化されていた「国会の報告」も法律上明記されなかった。つまり、ミニ緊急事態宣言の発動に対する国会の歯止めは何もない
 さらに、従来の強制力を伴わない緊急事態宣言は最長2年、延長は最長1年であった。延長は1回だけできる。改正後の「新・緊急事態宣言」格上げ後も同じだ。
 同じく実質的にミニ緊急事態宣言である「まん延防止等重点措置」は最長6ヶ月だが、何度でも最長6ヶ月の延長を繰り返せる規定となった。つまり、期間の歯止めが事実上なくなった
 この改正特措法で、日本社会はあと何ヶ月後か何年後かは知らないが、「ゼロコロナ」になるまで、知事がいつでも強制的に営業制限命令できる、私たちが置かれているのとは次元の異なる非常事態体制を敷くことを、政府及び知事に授権したのである。

政府対策本部長は、新型インフルエンザ等の発生の状況を勘案して(…)期間を延長し、又は(…)区域を変更することが必要であると認めるときは、更に六月を超えない範囲内において当該期間を延長する旨又は当該区域を変更する旨の公示をするものとする。当該延長に係る期間が経過した後において、これを更に延長しようとするときも、同様とする。(第31条の4第3項)

 この改正特措法は、緊急事態時に例外的に権利制限を行うことを許容する自民党の憲法改正案でさえ明文化していた歯止めが、全く入っていない。

 新型インフルエンザ等対策特別措置法の政府改正案が閣議決定され、法案が国会に提出されたのは、1月22日
 自民党と立憲民主党が、過料を減額するだけでそれ以外に修正を加えない「密室合意」をしたのが、1月28日(冒頭写真)。
 29日に審議入りし、実質審議2日で、与野党提出の修正法案(議員立法)を衆議院で可決したのが、2月1日(自民・公明・維新・立憲が賛成。国民・社民・共産が反対)。
 修正された条文案が公開されたのは2月1日夜。
 参議院で可決、成立したのが、2月3日であった。

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