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アントン・クルピチカ〜パブリックイメージと実像のギャップ

「最近はどこで何をしているのだろう?」

この10年前後トレイルランニングにどっぷりハマっている人にとってアントン・クルピチカのことをそう思っている人は少なくないだろう。

通称トニー。彼にインタビューした記事の初稿が、PCの断捨離を行おうとした際、ドライブの奥深くで発見。これは、noteに残しておくものだ!と直感した。当時の記憶も頼りに加筆修正して再掲します。

(もちろん、情報は2014年当時のもので、近年の彼の動向とは違うものであることをあらかじめご承知おきください)


2012年『レッドビル100』に参戦し、優勝をかっさらう

実は、山を走っている、という感覚はないんだ。山と共にいる感覚、山と一体化しているというか、山と一緒になっている瞬間が一番充実している。

 キャンセルすることなく日本を訪れたトレイルランニング界のロックスター(当時)は、インタビュー冒頭から独特の世界観を語り始めた。

 オリジナリティあふれる風貌とミニマリズムの独自スタイル、そして実力も兼ね備えた彼のファンは多い。その存在自体が当時のウルトラトレイルの象徴的なアイコンでもあった。

 1983年生まれのトニーは、2010年ウエスタンステイツ100マイル総合2位、2007年、08年レッドヴィル100マイルを連覇。数々の実績をひっさげて2014年来日したトニーだが、怪我のためUTMF参戦は叶わなかったが

 初来日だと言うトニーは、プロのランナーと自身を称した。トレーニングは週7日。毎日欠かさず走っている。とはいえ、彼はトラックや街中を走るのと、山を走るのとは全く違うという。

初めて山を走った時、他の場所で走るのとは全然違うなと感じたよ。ネブラスカの農場育ちという自然環境の中で育ったこともあって、家族でキャンプに行ったりすることも多くてね。大自然と繋がるという意味では、身近なものではあったかな。

 コロラドの大学で陸上競技をしていたトニーは、そこで短距離も長距離も走っていたが、卒業後、より得意だった長距離を本格的に取り組むようになり、トレイルの世界へと足を踏み入れた。

 そして、2012年『レッドビル100』に参戦し、いきなり優勝をかっさらってしまう。

 肩まで伸びる長髪をなびかせ、上半身裸で走る姿は、多くの人に強烈なインパクトを与えた。長髪に裸というこの彼への形容は、あっという間に世界中に知れ渡ることとなる。


パブリックイメージと実像

 学生時代、友人の家に転がり込み、床やクローゼットで寝起きをしていた。夏になるとステーションワゴンを改造してベッドをこしらえ、山の麓で長期間過ごしては、山に走りに出掛ける日々を送ることも、レース前日、トイレで朝まで過ごすこともあった。

 伝え聞く全てがトレイルランニングに内包しているカウンタカルチャーの申し子のようだった。だから聞きたかった。まるでヒッピーを思わせる数々の逸話は"意図的"なのだろうか? 

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