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【2】〝オンライン診察〟名取はなぜ、低体温症でリタイアしたのか?

『トレイルラン2019_20 秋冬号』に特別コラムとして掲載した内容を加筆・修正して再掲する「〝オンライン診察〟名取はなぜ、低体温症でリタイアしたのか?」のその2。

その1はこちら
https://note.com/h_yamada/n/n333074a6d5fd

 2019年のウルトラトレイル・マウ ントフジ(UTMF)約56km地点で低体温症のためリタイアした名取将大選手と「情熱大陸」(TBSテレビ)でも取り上げられた山岳医の大城和恵先生の〝オンライン診察〟が続きます。

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低体温症のメカニズム〜名取の体に何が起きたのか?

 名取は自分の体に何が起きたのか知りたくなり、彼らしくストレートに大城先生に質問を投げかけた。

名取「先生、ズバリ、僕は低体温症だったのでしょうか?」

大城「はい。低体温症になりかけ、あるいはなっていたと思います。低体温症は臓器の温度が35度を切った状態ですけど、臓器温度が37度を切るとガタガタ震えてきます。これを「シバリング」と呼びます」

名取「ガタガタし始めたときは低体温症の前兆と考えていいんですか?」

大城「そう、自覚症状です。ただ、この震えは体を温めようとする筋肉運動 なので、それだけのエネルギーを持っているという意味でもあるんです。
名取「シバリングという前兆がないまま臓器の温度が35度を切って低体温症になることもあるんですか?

大城「もちろんです。ですので、震えがあるだけまだラッキーで、ここが
立て直すチャンスなんです」

名取「震えを感じていた僕の初期対応は正解だったんですか?」

大城「結果的にリタイアしているので、正解ではなかったといえます。おそらく、ちゃんと回復させないままレースを継続していたと思われます」

 稜線でダイレクトに浴びた冷たい風などにより低体温症に襲われた名取。ガタガタ震えるシバリングに気がつき、補給食などでエネルギー補給しながら、エイドにたどり着く。

 たどり着いたエイドでは富士宮焼きそばを食べ、、コーラを飲み、胃腸系から拒否反応もなかった。体の中から温めようと温かいスープも味噌汁も積極的に口にした。

 よし!行ける。と復活を確信してエイドを出るも、身体が思うように動かず、再び冷えに襲われる。そして、リタイア。


僕の復活は勘違いだった!?

「当時の内臓の温度を測っていないので断言はできませんが」としながら、大城先生は名取のリタイアの核心に迫った。

大城「低体温症のままエイドを出て、リタイアにつながったのかなと推測します」

名取「え!? ちゃんと食べられたし、温かいものを胃に入れていたのですけど、、復活していなかったんですか?」

大城「おそらく、低体温症によってマイナスになった体を一時的にプラマイゼロに戻したくらいだったか、もしくはまだマイナスのゾーン」

名取「ど、どうしてですか?」

大城「女子選手の走りについていけず、路面に対応しきれなかったと言ってたよね? 低体温症になると神経の伝達スピードが遅くなり、自分の意思と筋肉の動きにタイムラグが生じるんです」
名取「もちろん完全復活したとは思っていなかったですけど、30分も休んだのに、異変があったのは、そういうことだったんですね。」

大城「本来なら体温上昇のためにエネルギーを使わないといけないのに高強度の運動にエネルギーを使うことになってしまったのだと思います」

名取「なんてことのないところでつまずいたり、木の枝に頭をぶつけたり、注意力も散漫になっていました」

大城「判断力の低下も低体温症の特徴のひとつで、中度の低体温症だったかもしれませんね。それがさらに進むと、眠くなったり、一つひとつの動作が面倒になったり、命を守る行動がとれなくなるので、かなり危険な状態です」

名取「うわ! ヘッドライトを消して茂みで寝たのは危なかったんだ!」

大城「脳の温度も低下すると、リタイアの判断や救助要請もできなくなります。ギリギリのところでとどまったのだと思いますよ」

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名取選手の実体験をもとにした記事は、業界関係者からも反響があった。まさに"身近にある"危機として、低体温症のことを知っておきたい。


名取を襲った低体温症の原因と対策

 寒さを覚え、ガタガタとシバリングするのは初期症状。神経の伝達スピードが遅くなり、自分の意思と筋肉の動きにタイムラグが生れ、脳の温度も低下すると低体温症は重度の危険な状態になる。

 ギリギリで踏みとどまり、自らリタイアを申告したことで、"危険"は免れた名取だったが、話は低体温症の原因に及んだ。

名取「なぜ僕は、低体温症になったのでしょうか?」

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