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もみあげが気になってしかたない

近頃、もみあげがずっと気になっている。
7年ぐらい僕はツーブロックの髪型にしていたが、いささか飽きた。
今年からは少し違うスタイルに挑戦しようと思い、髪を伸ばし始めた。

しかし、髪を伸ばしていく過程で、以前は気にならなかったもみあげが気になるようになってきた。
白髪染めをしていても、もみあげの白髪は目立つ。
もみあげに白髪があるだけで、老けて見えるような気がする。
毛抜きで抜いてもすぐに生えてくるし、抜くと痛い。

テレビを見ていても、ありとあらゆるもみあげに目が行く。
カラーリングしていてももみあげに白髪が目立つ芸能人が多いこと。
アラフィフになると、だいたいそうなるのかもしれない。

もう考えるのが面倒になってきた。
原因を根絶。未来へダイブ。
一気に剃ってしまおうかホトトギス。

しかし、その前に私の信頼するヘアスタイリストであるSさんに相談しよう。
どんなことでも素人判断せずにまずプロの意見を聞くことが大切だ。

早速、サロンに予約を入れた。

「今日はどうしましょうか?」
「いつも通りでいいんだけど……。もみあげを取っちゃおうかなって」
「それだと古くさい印象になりますよ」

古くさいのか。そうか。
おしゃれかなと思っていたけれど、そうでもないのか。
わかりました。

Sさんのアドバイスに従って、短くすることにした。

Sさんの巧みなカットテクニックで逆三角形のスタイルのもみあげにしてもらった。
すっきりとした感じになった。これでいい。

家に帰って、再び鏡を見た。
左右のもみあげの長さが1センチほどズレていた。
さらによく見ると、右のもみあげがごそごそと動いている。

小さなおじさんが右のもみあげの中に隠れていた。

驚きと不思議な気持ちでもう一度鏡を見つめると、確かに小さなおじさんがもみあげの中に隠れていた。

心の中で「これはどういうことだ?」と戸惑いながらも、鏡越しに微笑んでいるおじさんにおそるおそる話しかけた。

「おじさん、あなたがもみあげの白髪の原因なの?」
おじさんは小さな手を振りながら、にっこりと笑った。
その笑顔になぜか安心感を覚え、僕はこの不思議を受け入れることにした。とりあえず害はなさそうだし。
「もしかして、おじさん、これから一緒に過ごすことになるの?」
おじさんは大きくうなずいた。

それから、おじさんはもみあげの中に住み着いた。
最初は戸惑いもあったけれど、次第におじさんとの共同生活が楽しくなってきた。
おじさんはたいてい寝ていることが多いのだけれど、僕と似たような行動をとる。
僕が読書をしていると、おじさんはもみあげの中でハンモックに揺られながら読書をする。
お風呂に入っているときはサウナに入ってととのっている。
散歩をしていると、ブランコに乗って口笛を吹いている。

時折、おじさんの声が聞こえるようになった。
彼は僕の人生や髪型に対してアドバイスを惜しまず、よき理解者として側にいるように感じた。
もみあげが気になっていたことが、僕に不思議な出会いをもたらしてくれた。

だけど、僕が左右のもみあげの長さを同じに整えてしまったら、おじさんはいなくなってしまった。

いまも誰かのもみあげの中にいるのだろうか。
そう思うと、道行く人のもみあげが気になってしかたない。