見出し画像

#003 札幌北斗高校演劇部…スパカツを食べに行こう②

 令和元年の話。次の舞台の台本のタイトルが決まった。『お母さんの彼』というタイトル。ちょっとスキャンダルな感じで、「え、どういう話?」と興味をひいてくれるタイトル。これ『お父さんの彼女』だと何だかなぁ、だが、「お母さん」と「彼」という言葉がどこかミスマッチでいいなぁと感じた。恋愛ものだということがタイトルからも伝わるだろう。ただラブコメディのつもりで書いていたので、もっと軽い印象を与えたくて『お母さんの彼』と書いて『ハハカレ』と読ませることにした。

 いつも台本を書くと、2稿あたりのものを、仲間内の顧問たちに見せ、反応というかアドバイスをもらいつつ、それを受け、手直ししたものを、夏休みに入ってすぐ行う校内合宿で生徒におろす、という流れだ。ただこの時はあえてちょっとだけこの流れを変えてみた。三年生の一部を集め、プロットを見せ、反応と意見を求めた。それを生徒たちと話しながら直していく。そうやって台本を作った。その途中で、キャスティングも三年生にさせ、演じる部員たちに寄せて台本を調整していった。

 平成が始まる時から、平成が終わる約30年間をイメージして話を書いてみる。初期のプロットではまだ「令和」という元号が発表されていなかったので、その部分は「○○」となっていた。平成元年に亡くなったお母さん(当時大学生)の昔の彼氏が、平成の終わりに突如、幽霊として現れる。ただ幽霊で出てくるんじゃなんなので、憑依させよう、さらにその憑依先が、娘の彼氏だとしたら面白いだろうと。お母さん、その憑依した相手が娘の彼氏とは知らずに、呼び出され会いに行く、その現場を娘が知ってしまう。ちょっとした修羅場になるだろう。しかも30年経って会いにきた元彼に対し、母はとても素っ気ない。何を今頃?迷惑なんだけど、ってな感じ。

 前半は母娘の誤解から生じた衝突と娘が巻き込まれるストーカー事件をコミカルに進め、後半は彼氏が幽霊だと言うことが判明し、母娘の和解があり、母の彼氏は何のために現れたのか?という話から、ちょっとシリアスになり、泣かせる展開になる。生徒たちだけでなく、顧問も楽しく稽古を進められた舞台だった。

 ただ早い段階では、大きな悩みもあった。高校演劇は他の演劇と違い、高校生があらゆる年代の人物を演じなくてはならないという問題。つまりお母さんと娘、そして娘の彼氏(大学生の設定)の間の年齢差が表現できないと成立しないということだ。そもそも全て高校生なのだが、お母さんと娘の彼氏が並ぶ時、同い年の子に見えたらアウトなのだ。

 そしてお母さん役は途中30年前の回想が入るため、一瞬にして50歳から20歳に戻るシーンがあるのだ。この部分をどう表現しようかという部分である。幸いというか、当時の部長が部内でも「お母さんキャラ」だったため、その点では何とかなるかとは思ったのだが、稽古で立ち姿、所作、衣装(ちょっとだけ恰幅良くなるような細工をしたり)を研究することとなった。

お母さんと娘のシーンの稽古風景

 もう一つ、憑依の表現。今回娘の彼氏役の男子部員とお母さんの元彼(幽霊)役の男子部員の身長、体型がほぼ同じだった。髪型を揃えれば、遠目には双子と言っても通用するくらいだった。だったら憑依の瞬間、舞台上に両者並べて演じさせたら面白いじゃないかとも考えた。二人の仕草だけではなく、セリフも常に二人同時に発する。言うのは簡単なのだが、かなりのセリフ量がある中で、常に二人同時に喋るわけなので、どちらかがセリフを間違えたり、テンポが狂うと何言ってるのかわからなくなる。それでもそこをクリアするといろいろアイデアが生まれてきた。

 芝居の小ネタや音響の楽曲も、90年代のテイストのものを散りばめる。当然高校生の彼らはリアルタイムではないのでよくわからない物もあっただろうが、観にきてくれた部員の保護者に「あ、懐かしい」と思ってもらえたら、という感じである。稽古が進む中で、放課後、廊下のどこかで私たち部以外の生徒が「いつもいっしょに居たかった〜」と口ずさむ唄声が聴こえた時は、ちょっとだけニヤリとした。

エンディングにはオリジナルではなく、英語歌詞のカバーバージョンを使用。ラストに降る桜の花びらとよく合った。

お母さんの元彼はスーツアクターだった設定のためアクションシーンもある

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?