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「首長のふるさと納税へのかかわり方」について(後編)

※画像は、朝日新聞さんの記事から拝借いたしました。

今更ですが、昨今のさまざまなふるさと納税の報道を見ていて、あらためてこれが大事だと思ったので、8か月の沈黙を破って久々に投稿します。笑

改めまして、「首長のふるさと納税へのかかわり方」についての後編です。
前編では、私が実際に全国の首長さんのふるさと納税へのかかわり方を見て学んだことを中心に持論を展開させていただきました。
今回、後編では、昨年の11月、愛知県の町村の首長さん15人にお伝えした、「首長の皆様へ、9つのご提案」を中心に、その考え方をお伝えしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、なぜ私が「首長の皆様へ、9つのご提案」を作ろうと考えたのかについて改めてお伝えしておきたいと思います。
私は、ふるさと納税をしっかり取組むために最も重要なのは、「環境」だと思っています。担当者が一生懸命取り組める環境が用意されているか、そして、これの熟度というか練度というか、その度合いがふるさと納税の寄附額に大きく関係すると考えています。
その環境作りを職員がするととても大変で、時間がかかってしまったり、残念ながら途中で断念せざるを得ないという場合もあります。実際、私も苦労した経験もありますし、同様に苦労されている自治体を沢山見てきました。
そのように職員がやるとなかなか困難なんですが、私は、これを最短で整えることができるのは首長さんだと考えていて、だからこそ、首長さんには、環境づくりに専念いただきたいと考えています。
その環境づくりについて、具体的に列挙したものが、(僭越ではございますが)以下のご提案になります。

もちろん、生意気な事を書いていることは自覚しているつもりですが、私たち、泉佐野市が掲げるミッション、「ふるさと納税の市場を拡大させる」、「ふるさと納税を取り組む上での公平な環境を作る」、これら目標を達成するためにも、多くの首長様から嫌われたとしても、あえてお伝えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

1.組織について

1つめの環境づくりは、「組織」です。
① 専任の担当者を置いてください
②(できれば)専門部署を置いてください
③ 部署のトップは、決裁権のある管理職をお願いします

ふるさと納税を取組むには、当たり前の話ですが、人が必要です。
一生懸命取り組むのであれば、やはり組織や人員を強化せねばいけないと考えています。
ふるさと納税は、トレンドを的確に捉えたり、それを基に戦略を練ったり、しっかりと商品を供給してもらえるよう事業者との関係性を構築していくことなどが大切で、重要なのは、これらの密度ですので、やはり専任の担当を置くというのは必須だと考えています。

また、部署についても、例えば財政課だと繁忙期が重なってしまいますし、観光や産業振興の部署であれば、春や秋にイベントが多いと思います。
ふるさと納税の担当は、年末だけが忙しい印象があると思います。もちろん年末は寄附が多く集まるので事業者との連携が密になったり、寄附者からの問い合わせが多くなるので、外から見ると年末だけが忙しく見えるんですが、ほんとのところは、年中忙しくしているんです。
年末に向けての準備は、実は、1月から始まっていて、3月までには大体の戦略は立てて、4月から8月頃には準備を終えます。そして、9月から戦略を実行していき、12月のピークを準備万端迎えられるよう、11月までトライアル・アンド・エラーを繰り返します。
ですので、暇な時期というのは無くて、年中やらねばいけないことがあるので、財政課、観光課、産業振興課など、特定の時期に業務が集中する部署での兼務は避ける方が賢明です。あと、税務課でやっているところもありますが、ここも住民税や固定資産税の決定時期、評価替えなどの時期は、他の業務など出来ないでしょうから、難しいと思います。
そんなことを言ってしまうと、どこの部署でも季節的に忙しいことはあるので、やはり専任である方がしっかりと取り組めますので、専門部署も必要と思っています。
ただ、規模の小さい町や村の首長さんに専門部署を置いてと言うと、「ウチは人口が小さく職員も少ないので、専門部署は置けない」と言う方もいらっしゃいますが、ふるさと納税を集めるのにやらなければいけないことは、町の大小は関係が無いので、そういう発想だと寄附を集めることが難しくなります。小さな町ほどふるさと納税の効果は大きいでしょうから、小さな町だからこそ積極的に専門部署を置いて欲しいものです。

あと、ふるさと納税の取組みはスピードが大切です。
特に決済スピードは、速ければ速い方が良いと思います。ですので、方針や予算執行、戦略や戦術についての決裁権の有る方が責任者であることは、重要だと思います。
それと、管理職は議会対応をされると思います。ふるさと納税の取組みは、議会にしっかりご理解をいただき、ご協力いただくことも重要ですので、議会対応の上手な管理職であれば、なお良しだと思います。
逆に議会への説明が困難だからといって、新たな予算取りや、新たな取り組みを嫌がったりするような管理職は、絶対ふるさと納税には向いていないのでアサインしないようお願いします。

2.庁内

二つ目の環境づくりは、「庁内」です。
④ 庁内の調整は、首長が直接行ってください
⑤ 議会とは仲良くしてください (根回しもしっかりお願いします)

庁内の調整についてですが、役所は縦割りですので、他の部署との調整に想像以上に時間がかかります。
ふるさと納税担当と関係のある部署というと、自治体によって呼び名は違いますが、例えば、財政課、契約検査課、会計課など、お金に関係する部署、他に、企画課、観光課、商工課、農林水産課など、政策や企画、産業に関わる部署など、ふるさと納税を取り組んでいく中でこれらの部署と調整が必要になる場合があります。
調整というと聞こえが良いですが、実態は、「仕事の振り合い(押し付け合い)」です。

そんなことに時間をかけている場合じゃないんです!時間がもったいない!

首長さんが「ふるさと納税を頑張れ!」と方針を決めたのであれば、関係する部署、末端の職員まで、ふるさと納税の取組みに協力するよう指示を行き渡らせてください。場合によっては、関係部署を呼び出し、直接首長さんから指示をされることも必要かと思います。
これによって、数か月かかった調整が数週間、数日に短縮でき、仕事を効率的に進めることが可能になります。

私は、非効率なことが大嫌いで、実務においても効率化は徹底的にやってもらっています。具体的に挙げると問題になると嫌なので詳細は控えますが(笑)、役所で通常行われるような事が行われていなかったりしています。これは、ふるさと納税の担当者になってから身に着いたというか、刷り込まれてクセのようになっています。
ふるさと納税業務、とりわけ寄附を沢山いただこうとする業務は無限に存在します。担当を増やせば良いのかというと、人が増えたら増えたでやれることも増えるので、この状況は、たぶん、専任の担当が5人いても10人いても変わらないと思っています。
なので、必要なのは、業務は徹底的に効率化をし、非効率なやり方を止めること、できるだけ寄附を集めることに関係の無いことはしないこと(首長さんは、やらせないこと)が必要で、ふるさと納税の担当者(部署)には、寄附集めに集中させることが重要です。
ですので、庁内調整のような仕事は、(恐縮ですが)首長さんが担ってくださいということです。
ちなみに、ウチの千代松市長は、この辺りは率先してやってくれています。ほんと有難いです。

次に「議会」についてです。
取り組みに対する議会のご理解、ご協力は重要ですので、まずは首長さんが議会との関係を優良に保っていただくことが肝要です。
また、専決予算もそうですが、新たな取り組みなどについても、議会のご理解とご協力が無ければ予算化できませんし、前へ進めることができません。
本市の場合、議会は、ふるさと納税の推進には全会一致で賛成してくださる場合が多いので、ほんと有難いと思っています。
ここについては、職員の頑張りも重要ですが、首長さんの努力無くしては成立しないと思っています。
本市の場合、市長が凄く頑張ってくれています。
議会前には、必ず議員さんに対し、上程される議案や予算について丁寧に説明をしてくれています。また、ご賛同いただいた会派には、市長が議会の休憩時間に1つ1つ控室を回って、深々と頭を下げてくれています。
他の首長さんがどのようにされているかは知りませんが、こういう市長の姿を見ると我々職員も頑張らねばという気持ちになります。
もちろん議員さんとなると、お願いしたらお願いされることも出てきますが、やはり議会の協力は不可欠なので、ここの対応は必須だと思っています。

3.外部

三つ目は、「外部」の環境づくりです。
⑥ 事業者には、(首長が)トップセールスをしてください
⑦ 首長自ら市民に対してふるさと納税の取組みに理解を求めるよう努めてください

ふるさと納税の取組みには、事業者の協力が重要で、彼らの高いモチベーションが必要です。
ふるさと納税を沢山集めるには、競争力のある返礼品が必要ですが、自治体がいくら頑張っても、返礼品を作れる訳では無いので、事業者さんの頑張りがなによりも大切です。
そういった場面においても、首長さんの役割はかなり重要になります。

例えば、大手メーカーは、返礼品を提供して欲しいと依頼しても、卸や小売りに気を使ってなのか、そもそも面倒なのかは分かりませんが、ふるさと納税への参入には消極的な会社が多い印象です。
そのような場合、職員がお願いしてもなかなか動かないですが、首長さんがが熱い想いをぶつけていただくと、重い扉をこじ開けられる可能性があると思います。
ですので、ここぞというときには、首長によるトップセールスが必要であると考えています。

また、ふるさと納税において重要な要素の一つとして、返礼品の供給量の問題があります。いくら優れた商品でも、少量の供給では多くの寄附を集めることができないので、いかに沢山の商品を供給してもらえるかも重要です。
優れた商品は、ふるさと納税で人気になりますが、一般販売においても人気になるはずです。それで、商品をどこにどれだけ供給するかは、当然ながら事業者さんの裁量になるので、ふるさと納税にどれだけ供給してもらえるのかは、自治体と事業者の関係性にかかっています。
担当職員は、こういった関係性を何年もかけて構築していく訳ですが、一瞬で関係性を作ってしまうのが首長さんです。これを利用しない手はないので、やはり、ここぞという時には、首長さんのトップセールスは必要だと考える次第です。
本市の場合、何も言わなくても市長がトップセールスをしてくれて、しかも敏腕セールスマンなので、嬉しい悲鳴ですが、事務方が後の対応に追われます。笑

それと、取組みに直接関係しないですが、市民の皆様のご理解も必要です。
取組みの細かいところまでは必要無いと思いますが、
「なぜ、ふるさと納税を一生懸命取り組んでいるのか」
「ふるさと納税による寄附がどのような施策に活用されているのか」
など、知っていただき、市民の皆様に愛される取り組みにそだて、応援いただくことも大切だと思います。

また、(普通は無いとは思いますが、)国と裁判になるなど、ああいう時は、市民の皆様の応援が何よりも心強いです。
余談ですが、本市が総務省と裁判している際、報道機関がよく市民にインタビューを取りに来ていたのですが、ニュートラルに報道するために、賛成、反対、両方のコメントを取りたかったようですが、市民から市を批判するような反対意見がなかなか取れないという話を聞いたことがあります。
ほとんどの方は、「総務省が悪い!」とコメントしてくれていたそうで、その話を聞いたときは涙が出そうなくらい嬉しかったです。
ですので、いつの時も、市民の方々への感謝の気持ちを忘れてはいけないと思っています。

4.その他

最後に「その他」ということですが、が一番言いたいことなので、最後まで読んでいただければと思います。
⑧予算はしっかりつけてください
できれば専決予算ができる議会環境をつくってください
⑨首長は、誠に恐縮ですが、実務には口を出さず、環境づくりだけに徹していただけますと幸いです

その他、1つ目は、お金の話です。
何をするにもお金はかかります。ふるさと納税も例外ではありません。
ふるさと納税の予算は、寄附が増えるほど増加しますので、経費ばかりかかっているようなイメージがありますが、よく考えていただくと、ふるさと納税は、寄附で全ての経費を賄えるスキームですし、寄附が入らないと支出も発生しないので、ほぼほぼリスクが無いと言えます。だから、ケチケチせず、予算はしっかりつけてください。
あと、首長さんが予算をつけるつもりでも、邪魔をするものがいますのでご注意願います。お気づきだと思いますが、財政担当です。財政担当は真面目で一生懸命なのは理解できるんですが、ゼロシーリングとか、スクラップ&ビルドとか、費用部門の予算と同じ考え方で対応しようとするので困ります。
繰り返しになりますが、ふるさと納税の経費は、入ってきた寄附金の範囲内で全て賄いますし、かつ、寄附が入ってこないと発生しませんので、費用部門と一緒に考えず、しっかり予算は付けてもらわないと、集まるものも集まりません。
あと、ふるさと納税担当の管理職も、しばしば邪魔をします。
新たな予算を立てたり、予算を大幅に増額すると議会での対応が必要になりますので、これを嫌がる管理職は少なくありません。
首長が担当に予算要求するよう指示をして、財政課にも予算をつけるよう支持をしたとしても、管理職が止めてしまうと予算は計上されません。
ここら辺りも、首長さんにしっかり押さえていただきたいところです。どうぞよろしくお願いいたします。

また、昔のふるさと納税は、ポータルサイトに返礼品を掲載すれば寄附が集まりましたので、返礼品ラインナップを充実させ、多くのポータルサイトに返礼品を掲載するというのがスタンダードでした。
しかし、最近のふるさと納税は、それらだけでは集まらなくなりました。
多くの自治体がふるさと納税を積極的に取り組むようになったこと、R元年には、返礼品の還元率が3割など規制ができたので、返礼品が横並びになったので、様々な手法でプロモーションを実施する必要があります。

5.最後に

誠に僭越ではございますが、全国の首長様に申し上げたいのは、以上のとおりです。なんで放りっぱなしにしていたこのnoteを改めて書こうかと思ったかというと、以下のようなことが理由です。

最近、いくつかの自治体が問題が起こしています。その代表例が洲本市で、ここは自治体が主導でやっていたようですが、最近は、諫早市のように地場産品ルールについて返礼品事業者が認識不足で違反してしまったり、他にも中間事業者が主導してグレーな返礼品を出したりなど、こういった問題が後を絶ちません。
都城市の産地偽装のように犯罪に近いものについては、個人的には自治体は被害者で、自治体には若干の管理責任はあるとはいえ、ほぼほぼ事業者が悪いと思いますが、それ以外の自治体に関しては、たぶん担当者は、返礼品事業者や中間事業者のせいにしていますが、薄々気づいていただろうし、まったく気づいてないのであれば丸投げし過ぎなので、どちらにしても自治体の責任、担当者の責任が重いと思うんです。
そこで、こういったことに原因、経緯みたいなものを考えてみました。

本市もそうなんですが、ふるさと納税の担当者には、やはりふるさと納税を沢山集めなくてはいけないという使命感のようなもの、悪く言えばプレッシャーのようなものは確かにあって、他の自治体の担当者さんも同様の環境、重圧の中でふるさと納税を取り組まれていると思います。
やはりそういった環境の中で仕事をしていると、寄附を沢山集めるということだけが目的になってしまうので、何か問題が生じたとしても、気づかないふりしたり、臭いものにフタをしてしまったりってことが起こりうると思います。それが昨今起こってしまっている問題の根源になっているような気がします。

そこには首長さんの役割が往々にして関係してくると思っていて、(もちろんブレーキばっかり踏むようなことはダメなんですが、)是非、首長さんには、環境も作っていただいて、担当者を助けていただいて、頑張れ頑張れとアクセルを踏んでいただくのも必要なんですが、ちょいちょいブレーキもかけて欲しいと思います。つまり、「法令順守」です。これだけは、絶対だと思っています。
本市の千代松市長は、環境を作ってくれ、頑張れ頑張れと応援しならがも、常々「法令順守」については、きつく言われます。なので、本市の場合、新たな返礼品を造成しようとしたり、新たな取組みをする場合は、同様の取組みをされている自治体に規制をクリアしているのか問い合わせしたり、過去に事例が無いなどの場合は、大阪府さんを通じて総務省にご相談することもあり、疑義がクリアにならないと返礼品は出しません。

「他の自治体がやっているから」は理由になりませんし、「これくらいなら許されるでしょ」、「怒られたら止めたらいい」みたいな考え方は、絶対にやめてもらいたいと思います。
アクセルとブレーキのバランスを整えられるのも首長さんだと思いますので、是非、その辺りもよろしくお願いしたいと思います。

色々と申し上げましたが、以上が私が全国の首長様に今だからお伝えしたいと思った理由です。
長々とした文書を最後までお読みくださり有難うございました。

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