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「24時間マラソン」より、この企画をやりませんか?

さあ、今年も始まりますね。毎年恒例のアレが。

「さくら〜、ふぶ〜きの〜っ♫」

って、もう何年もこの番組を観ていないので、いまだにクライマックスでこの曲を熱唱するシステムなのかさえもわかりませんが、やはりこの番組の知らせが聞こえてくると、「ああ、今年の夏も終わりを告げようとしてるんだなあ」と感慨深い気持ちになったり、ならなかったりします。いや、やっぱりならないかな。

この番組に対する風当たりは、年々強まっているような気がしています。それは「偽善だろ」とか「出演者のギャラが」とかいろいろあるのでしょうけれど、そうは言っても番組が「障害者福祉」を錦の御旗に掲げている以上、表立って批判するのもなんだか気が引けるので、障害当事者である乙武さんがガツーンと批判してくれたら、それに乗っかって「そうだ、そうだ」と言えるのにな……的な空気を、特にこの数年はひしひしと感じております。

で、私の『24時間テレビ』への思いは、ここに書いた通りです。

いまから4年前に書いた記事ですが、いま読み返してみても特に書き直したくなるほど私の考えが変化した部分はないし、自分で書いておきながら「そうそう、まさに」と思わず膝を打ちたくなってしまうほどです。すみません、打つ膝がありませんでした。

4年前に書いた記事が“最終履歴”なら、なぜまた今年も『24時間テレビ』について記事を書こうと思ったのか。それは、番組のなかで「どうしてもやってほしい」「いや、絶対にやるべきだ」「いや、やれ!」と思うほどの企画を思いついたからなんです。

この企画をやってくれたら、そしてこれを引き受けてくれるタレントさんがいたら、間違いなく好感度は爆上がりだと思うのですが……。

『24時間テレビ』の名物企画のひとつに、24時間マラソンというものがあります。そう、24時間かけて武道館を目指すというアレです。毎年、誰がランナーに選ばれたかがニュースになったり、最近では(今年もかな)番組当日にランナーを発表したりと、それなりに話題になるあの企画です。

冒頭でも書いたように、この番組にはどうしても「偽善的だ」という評価がついて回るのですが、まさしくこの24時間マラソンこそ、そうした声を凝縮したような企画だと思うのです。

もちろん、感動する方も多くいらっしゃるのでしょうし、時間までに武道館に到着できるのか、ハラハラしながら見守っている方もいらっしゃるのでしょう。一方、「何の意味があるのか」「どうせ途中は車移動しているんだろう」といった冷めた見方をしている人々が少なからずいることも事実です。

それでも長年、この企画が続いていることを考えれば、やはり需要がある企画だと言えるのでしょう。ですが、この番組が本当に「障害者のために」という思いを抱いてくれているのであれば、私はこの企画を以下のものに差し替えてほしいのです。

「24時間 車椅子チャレンジ」

そう、汗だくになりながら、足がつりそうになりながら、意味もなく炎天下を走ったりなどしなくていいので、ただ24時間、車椅子に乗って生活してみてほしいのです。

たとえば——。

朝、ベッドの上で目覚める。そこから車椅子をぐいと引き寄せて、自力で乗り移る。カーテンを開けることも、洗面所に行って歯を磨くことも、朝食を準備することも、すべて車椅子に乗ったまま。

さあ、出勤です。普段ならマネージャーさんが迎えに来てくれるのかもしれませんが、せっかくなら公共交通機関に乗っていただきましょう。電車でもいいです。バスでもいいです。ぜひ車椅子のまま利用してみてください。

車椅子だと一人だけ背が低いので、電車やバスのなかで健常者に囲まれるとかなりの圧迫感を覚えますが、仕方ありません。ぐっと我慢です。しかし、こちらは我慢しているはずなのに、「おまえ、車椅子でスペース取ってるんじゃねよ」的な視線を向けられてしまいます。悲しいですね。

さあ、最寄り駅に着いたものの、かなり広く道を開けてもらわないと降りることができません。しかし、なかなか動線が確保されません。このままではドアが閉まってしまいます。ここはひとつ、勇気を振り絞って、「すみませーん、車椅子降ります」と声を出してみてください。

仕事場に着きました。仕事が始まる前にトイレに行っておきたいですよね。だけど、いつものトイレは車椅子では使えません。多目的トイレを探してみましょうか。あれ、その階にはないですか。では、別の階まで移動しないといけませんね。

エレベーター、意外と混んでいます。いつもならちょっとしたスペースがあればスッと乗れてしまうけれど、車椅子だとそうもいきません。でも、誰も降りてくれる気配がない。見送る。1台、2台……。

やっと乗れました。8階に移動。多目的トイレ、ありました。でも、誰かが入っています。そろそろ膀胱やばいのにね。3分ほど待つと、ようやく出てきました。健常者……なのかな。もちろん内部障害の方である可能性も否定できないので何とも言えませんが、なんだかモヤモヤします。

最初の仕事は、スタジオ収録。スタジオの中は意外とバリアフリーなので、思ったよりも快適です。ですが、気心知れたはずのスタッフさんたちが、今日はやたらと気を遣ってくれます。「あれは大丈夫か、これは大丈夫か」と質問攻め。いや、もちろんありがたいのですけどね。他の出演者との目線を合わせたいので、カメラテストのためいつもより早めにスタジオに入ってほしいと言われ、あわててスタジオへ。

次の仕事は、商店街の食べ歩きロケ。ショッピングモールに入っているようなチェーン店の安心感もあるけれど、個性豊かな個人商店って、やっぱり魅力的ですよね。だけど、車椅子のまま入れるお店、どれくらいありますか。いつものようにショッピング楽しめそうですか。

さあ、仕事が終わって、ご友人との夕飯タイム。いきつけのお店……は車椅子で行けそうですか。入口の段差はどうしますか。手伝ってもらって入店したとしても、ビール2杯飲んだあたりでトイレに行きたくなった、、、となった場合、どうしますか。絶対に立ち上がってはいけないルールです。店内に多目的トイレなんてありません。そんな“大惨事”となる危険性を考えると、結局、複合ビルに入っているお店を選んでおいたほうが無難そうです。

楽しい時間はあっという間。友人との語らいが楽しく、ついついお酒が進んでしまうのは、健常者も障害者も変わりありません。ただ、どんなに酔っ払っても、車椅子のまま帰るしかありません。駅までの道のりを頑張って漕いで、酔っ払い客でそこそこ混んでいる電車に乗ってください。ホームで前から歩きスマホの人が来ても、咄嗟には避けられないんですよね。車椅子って真横には動けないですから。

家に帰っても、まだ終わりではありません。いつもなら一日の疲れを癒すはずのバスタイムも、車椅子だとひと苦労。入浴用の車椅子に乗り換えるか、もしくは車椅子から降りて躄(いざ)るようにして浴室に入るかのいずれかですが、どちらにしてもある程度の体力を要します。

洗濯、掃除、皿洗いは……さすがに免除としましょうか。一日車椅子体験、お疲れ様でした。。。

という企画です。

どうでしょうか。意味もなく炎天下を24時間走らされ続ける名物企画より、よほど意味があると思うのです。車椅子で生活をするということのリアリティを視聴者に届けることができると思うのです。ヤラセなし、タレントさんの素のリアクションで、「車椅子で生きるということ」の生々しさを伝えることができると思うのです。

翌年は「視覚障害者編」をやってみてもいいかもしれません。24時間、アイマスクをつけて白杖をついて生活してもらうのです。もちろん、その翌年は「聴覚障害者編」です。ここまでやってくれたら、『24時間テレビ』をいまのような文脈で叩く人はずいぶん減ると思いますし、私のような障害当事者の多くと「ここまでやるか……」と唸らされるのではないでしょうか。

もちろん、そんな過酷な体験を受け入れてくださるタレントさん、なかなか見つからないかもしれません。でも、もしもそうした方がいらっしゃれば、それが本当に「過酷な体験」であることを伝えられると思うんです。そして、「そんな過酷な毎日を送らなければいけない車椅子ユーザーの生活を、何とか変えていかなきゃ」という気運が生まれるかもしれないと思うのです。

少なくとも「24時間マラソン」に比べれば、障害者のリアルを伝え、障害者の生活に変化をもたらすきっかけとなる企画になるように思います。みなさんはどのようにお考えでしょうか。

ちなみに、今年の番組テーマは、「明日のために、今日つながろう。」とのこと。このマガジンを通じて、みなさんとつながれていることに心から感謝しています。

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