選挙を通じて出会ったヤナギのこと。
参院選が終わって1ヵ月以上が経ったので、あらためて振り返りの文章などを書いてみようと思う。
5月19日に出馬表明をしてから党開票日までの2ヶ月弱を振り返ったとき、真っ先に思い出されるのは素晴らしい仲間たちとの出会いだ。今回の選挙では、Facebookのボランティアグループに登録をしてくださった方が1600人以上、毎日現場に来て、演説会の設営・撤収やビラ配りなどを手伝ってくれる帯同グループには130人以上もの方がLINE登録してくださった。
なかには旧知の友人も含まれていたが、そのほとんどが面識のない「はじめまして」の方々。それでも、2カ月間の活動を共にするなかで、彼らとは強い絆で結ばれ、これからも長い付き合いになっていくだろうことを予感させるような素晴らしい出会いばかりとなった。
一人ひとりを紹介していくと、それだけで1冊の本になってしまいそうなので、今日はその中から1人だけ紹介させてもらおうと思う。
あれは選挙中盤の木曜日のことだった。その日は夕方6時から丸の内で街頭演説をすることになっていた。時間になると、仕事帰りのワイシャツ姿の人が少しずつ集まってくる。そんな中、Tシャツにハーフパンツといういでたちの若者がいて、ひときわ目立っていた。それがヤナギだった。
演説が終わると、私は選挙カーから降りて、聴衆のみなさんとの記念撮影に応じていた。その列にヤナギも混ざっていた。順番が来ると、彼はまっすぐに私の目を見つめて、こう言った。
「僕は鳥取から来ている者なのですが、いま関西や東京を回って、いろいろな人の演説を聴いているんです。じつは、自分もいずれは政治の世界を目指そうかと迷っていたのですが、今日の乙武さんの演説を聴いて、いつか挑戦しようと決心がつきました」
いきなり面と向かってそんなことを言われたら、こちらだって目頭が熱くなってしまう。いつか彼がマイクを握りしめて熱い演説をぶちかましている姿を思い浮かべながら、たがいの健闘を誓い合い、その日は別れた。
ところが、翌朝の集合場所である荻窪駅に行くと、ヤナギが立っているではないか!
乙武「あれ、どうしたの? 鳥取に帰るんじゃなかったの!?」
ヤナギ「はい、そのつもりだったんですけど、なんか少しでもお手伝いしたい気持ちになったんで」
その日、都内は気温38℃を記録する猛暑日だったが、ヤナギはとにかく元気に声を出し、ビラを配り、なんと最後の活動場所である八王子にまで来てくれた。夜8時にすべての活動が終了。あらためて一日付き合ってくれたヤナギに礼を述べると、彼は照れ臭そうにこう言った。
「今日、じつは誕生日なんですよね」
えええーーーーーーっ!?
なんと、彼は自分の誕生日だったというのに、前夜に出会ったばかりの候補者に帯同し、炎天下のなか、一日中ボランティアとして活動してくれたのだった。彼の思わぬ告白に、ボランティアチーム一同盛り上がり、みんなで「ハッピーバースデー」を歌い、彼の誕生日を祝った。
翌日、またヤナギは集合場所に現れた。その翌日もまた現れた。そのうちにずいぶん気心が知れてきたので、「ヤナギ、いつ鳥取に帰るんだよ笑」「“帰る帰る詐欺”だな」などと、みんなでからかっていたが、ヤナギは「また今日も延泊しちゃいました!」「気が向いたら帰ります」と笑顔で返していた。
それから一週間、ヤナギは毎日、現場に姿を見せてくれた。猛暑のなか、大きな声を出してビラを配り続けてくれた。Tシャツにハーフパンツ姿のヤナギは、すっかり「チーム乙武」の主力メンバーになっていた。
ところが。
結局、一週間以上も延泊し続け、選挙最終日まで活動を手伝ってくれていたヤナギが、7月10日の投開票日に、姿を見せなかった。
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