【義足プロジェクト #21】 限界を超える。10メートルを超える。
《前回のあらすじ》クラウドファンディングのサポーターを対象にした義足練習参加会。それがすべて終了して、スタッフたちと記念撮影した直後、私は前のめりに転倒して、腹部と右肩を痛打してしまった。
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北村と二人きりの車中は、沈黙に包まれていた。
一刻も早く家に帰って横になりたい。
しかし、と運転席に目を向ける。
口に出さなくても、北村が誰よりも責任を感じているのは明白だった。私の転倒を防ぐのは、彼の役目だった。
もしこのまま何も告げずにいたら、おそらく彼は自分のことを責め続けるのではないか。家に到着する間際、私は口を開いた。
「いつか起こることだろう、とは思っていたんだよね」
運転席の北村が「はい」と耳を傾ける。
「義足の練習を続ける以上、避けられないことだと思っていたし、むしろこれくらいで済んでよかったとも思ってる。誰のせいでもないよ。強いて言うなら、ちょっとはしゃぎすぎた俺のせい。北村君が責任を感じる必要はないからね」
北村は少しの沈黙の後、静かに「そうですか」と頷いた。
夜になると、メンバーから続々と私の容態を心配するメッセージが届いた。
腹部の痛みはほとんど感じなくなっていた。痛みがあるのは肩だけだ。頭を強く打ちつけていたら、最悪の事態になっていても不思議ではなかった。どうやら咄嗟の判断で、頭部をかばって右肩を出したようだ。顔には傷ひとつなかったし、メガネも壊れていなかった。
「こちらこそ、みなさんに心配をおかけしてしまい申し訳ありません。いまのところだいじょうぶそうですが、今夜いっぱい慎重に様子を見てみます」
そうメッセージを送ると、不安な気持ちを押しやって眠りについた。
翌朝、目を覚ますと、おそるおそる起き上がってみた。頭や首には痛みもなく、吐き気も感じない。右肩の打撲だけで済んだようだった。
だが、ウッチーとも相談をした結果、一週間後の見学会までは静養を最優先に過ごし、歩行練習やストレッチは行わないことになった。
転倒のアクシデントから一週間、あっという間に二回目の義足練習見学会がやってきた。
昼過ぎにスタジアムに到着し、義足と一週間ぶりの再会を果たす。転倒したときに外装などが大きく破損してしまったため、修理のため遠藤氏に預けていたのだ。
あれ以来、身体の痛みはとくにない。
意を決して、参加者のみなさんと対面する。前回同様、義足プロジェクトの進行状況を報告し、プロジェクトメンバーとのトークに花を咲かせた。
そしていよいよ、義足歩行のお披露目となった。スニーカーは履くことにした。いくらアクシデントの直後とはいえ、最初から裸足でみなさんの前に登場するのは、私も北村も抵抗を覚えたからだ。
義足を装着し、立ち上がる。
だが、どうしても身体がこわばる。
だいじょうぶか。
三十人の参加者の視線がいっせいに注がれる。
だいじょうぶか。
「俺は逆境に強い」と自分に言い聞かせる。
丁寧に、慎重に、足を振り出す。
左足から。
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「乙武洋匡の七転び八起き」
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