【義足プロジェクト #20】 義足練習会で起こったこと。
順調だった。ストレッチと歩行練習を繰り返すことで、少しずつ股関節の可動域が広狩り、Lの字だった身体もわずかながらIの字に近づいてきた。
片足立ちの筋トレは、苦手な左足でも六十秒を超えられるようになった。おかげで直立の姿勢がよくなり、左足に体重を乗せる感覚が前よりもつかめてきた。
倒れることもなくなってきた。これまでは重心が前に傾き、身体のバランスを崩すことが多くあったが、ウッチーの指導によってそれもなくなってきた。現状の課題は、太腿に疲労が蓄積し、体力的に続けられなくなって歩けなくなってしまうということだった。
三月に入ると、練習メニューに上半身のストレッチが加えられた。ウッチーによると「静的歩行」から「動的歩行」へとステップアップするためだそうだ。
それまでの私の歩き方は、「右足を前に出す→右足を接地させる→右足に荷重する→左足を前に出す→……」という具合に、ひとつひとつの動作を確かめながらスローテンポで行われていた。これを「静的歩行」と言うのだが、動作のたびに筋肉に負担がかかり体力を消耗しやすい。
望ましいのは、「右足を前に出して接地させる→と同時に身体全体の重心を前に移動させる→と同時に左足を前に出す→と同時に……」というふうにアップテンポのリズムで行われる「動的歩行」だ。動的歩行なら筋力をあまり使わずに歩けるので、長い距離を歩くためには絶対にマスターしなくてはならない。
もちろん健常者なら誰もが無意識のうちに行っている歩き方だが、私にそれができない原因は、体幹の可動域の狭さにあった。そのため体重をうまく左足に乗せることができず、左足の振り出しのあとに右足に続かない。
そこで、股関節だけでなく上半身のストレッチを行なうことになった。床に座った私の背後にウッチーがまわり、苦手な左足に体重を乗せやすくなるように、体幹に刺激が与えられる。頭を左側に、上半身を右側に、身体が弓なりになるようにぐっとねじる。右肩と左肩をくねくねと交互に動かす。
「左の骨盤に重心が乗っているのがわかりますか」
ウッチーの言葉に従いながら、はじめての感覚を脳に覚え込ませようとした。
歩行練習中も、上半身のくねくねとした動きを思い出しながら、全身を使って歩くことに気を遣う。すると、ごくたまにではあるが、右足がしっかりと前に出てなめらかなに歩けるときがあった。
股関節や体幹を柔軟にし、両足の動きの左右差を減らしつつ歩行の感覚を養う。地道だが、その練習メニューを繰り返すしか、私がスムーズな歩行を習得する道はなかった。
三月二十四日と三十一日の日曜日は、四ヵ月ぶりに新豊洲Brilliaランニングスタジアムを訪ねた。クラウドファンディングに支援してくださったサポーターのみなさんの前で、義足練習見学会を開催したのだ。両日とも、十三時からと十五時半からの二回、それぞれ三十人の方に集まってもらった。
よく考えてみたら、プロジェクトメンバー以外の人たちの前で歩く姿を見せるのは、二十四日のこの日がはじめてのことだった。なかには北海道や九州から参加してくださる方もいる。口にこそ出さなかったが、できれば七メートル三十センチの記録を塗り替えたいと考えていた。
控え室で、北村が両足の断端にシリコンライナーを装着する。その格好で電動車椅子に乗り込み、参加者のみなさんが集まっているトラックに向かった。
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