【現地リポート】台湾のバリアフリー事情をお届けします。
先週は、台湾総統選に関する記事を投稿しました。台湾を訪れたのは、およそ6年ぶり。その間にコロナ禍があったとは言え、ずいぶん間が空いてしまいました。
せっかく台湾を訪問したので(と言っても、首都の台北だけですが)、今回は写真つきで「台湾のバリアフリー事情」についてご紹介していきたいと思います。
まず大前提としてお伝えしなければならないのは、障害者と言っても千差万別ですし、車椅子ユーザーと言っても私が使用している電動タイプと自走式でもまったく事情が異なってくるので、今回の記事で書くことは、あくまで「私の目線から見た」感想であることはご了承いただければと思います。
そんな私の“個人的感想”ですが、「台湾のバリアフリーは非常に進んでいる」と感じています。たとえば海外に行く際、真っ先に気になるのは空港から市街地までのアクセスなのですが、台北にある松山空港、桃園空港いずれも市街地に向けて車椅子でも何なく乗車できる公共交通機関が整備されていて、何も心配する必要がありません。改札口もご覧のように車椅子でも十分に通ることができる横幅が確保されているので、問題なく通過することができます!
次に市街地における移動ですが、こちらは台北MRTという交通システムが発達しています。一部は高架線ですが、ほぼ地下鉄。ほぼ全駅にエレベーターが設置されているばかりか、視覚障害者の転落防止に欠かせないと言われているホームドアも、2018年9月時点で全117駅に設置が完了しています。
東京の地下鉄にもほぼ全駅にエレベーターが設置されているのですが、都内の地下鉄では一部路線を除いて、ホームと電車の間の隙間や段差が大きく、車椅子が乗り込む上での障壁となってしまっています。これは地下鉄に限らず、JRでも私鉄でも同じようなことが言えます。
こうした事情から、都内で電車に乗車しようと思えば駅係員に依頼して簡易スロープを設置してもらうことになるのですが、事前連絡が必要だったり、降車予定駅と連絡が取れるまで、乗れるはずの電車を何本も見送らなければならなかったりと、精神的な負担も含めてひと苦労なのです。
ところが台北MRTではご覧の通り、ホームと電車の間にほとんど隙間も段差もありません。ですから、私は駅係員を呼ぶ必要もなく、また同行する友人の助けを借りる必要もなく乗車することができるのです。
どれだけ理解していただけることかわかりませんが、「人の助けを借りて乗れる」と「誰の助けも借りず乗れる」では大違いなんです。「乗車できる」という結果は同じなのですが、やはり精神的な負担が格段に違ってくるんですよね。ましてや、移動のように毎日のこととなるとなおさらです。
さて、ここまで書くと、「日本のほうが経済発展しているはずなのに、なぜ台湾のほうがバリアフリーが進んでいるのか」と疑問に思う方も多くいらっしゃるかもしれません。これは逆説的に聞こえるかもしれませんが、日本はむしろ「経済発展していたからバリアフリー化が遅れた」と言えるのではないかと思っています。
日本が敗戦からの復興を遂げ、都心部におけるインフラが整備されはじめたのは、東京五輪に向けて急速な都市開発が行われた1960年代が中心。当時はまだバリアフリーという概念はおろか、障害者が町で暮らすという発想すら持たれていなかった時代です。
ですから、こうした公共交通機関を整備することになっても、残念ながら車椅子ユーザーが乗車することなど想定されておらず、すべては“後付け”になってしまったので、いろいろと使い勝手の悪いものになってしまっているのです。
ところが台湾の経済発展は日本よりも遅れたため、台北の都市開発が行われるタイミングではすでに障害者との共生社会が意識される時代になっていたのです。たとえば先ほどご紹介した台北MRTも、開業したのは1996年。まだ30年も経っていないのです。
一度つくったものに変更を加えるのは建築的にもなかなか難しいことですが、まっさらの状態から建設するならバリアフリー仕様にしやすいのも現実です。そうした意味で、台湾のインフラは台北MRTをはじめ、「交通弱者を生まない」仕組みになっているのだと思います。
また、台北市にはあちこちにインクルーシブ公園があるのも特徴的です。インクルーシブ公園とは、以前にVoicyでもご紹介しましたが、障害のある子もない子も遊べるように工夫された遊具などが配置されている「誰もが楽しめる」公園のこと。
【前編】「インクルーシブ公園」って、普通の公園とはどこが違うの?
https://voicy.jp/channel/3804/639911
【後編】全国から視察が殺到! キーマンが語る「インクルーシブ公園の鍵」とは?
https://voicy.jp/channel/3804/639912
日本では、2020年に世田谷区にある都立砧公園に初めてインクルーシブ公園が誕生したばかりですが、台北市では同じ時期にすでに34ものインクルーシブ公園があり、現在では60近くにまで増加しているようです。ちなみに台湾では「共融遊戯場」と表記するのだとか。
あまり近づいて撮れなかったので写真ではわかりづらいかもしれませんが、体幹の弱い子でも寝そべって乗ることができるブランコや、座る場所がボックス型になっているシーソー、さらにはゆるやかなスロープです上まで登れるすべり台など、様々な工夫がなされた遊具が並んでいました。
また、車椅子ユーザーにとって死活問題となるのがトイレの存在。写真は撮りそびれてしまったのですが、台湾ではかなりの頻度で多目的トイレに出会うことが多く、「うわ、尿意を催したのにトイレが見つからない……」という思いをしたことは一度もありませんでした。
また、一つ一つの多目的トイレも十分な広さが確保されていて、使い勝手も◎。まあ、これこそ冒頭で書いたようにあくまで私の実感であり、他の車椅子ユーザーの方も同様に感じるかはわかりませんが……。
さて、最後にご紹介したいのが、こちらの写真。
台北市内では、こうして車椅子に乗った販売員の姿をよく見かけます。これ、何を販売しているのかと言うと——。
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