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「戻っていけない人々」のことを忘れずにいたい。

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先日、長野県上田市を訪れた。上田青年会議所が「乙武洋匡講演会」を開催してくださったのだ。

コロナ禍になるまでは、週末になると日本全国を飛び回り、講演活動を行なっていた。土日が休みになることはほとんどなく、一時はキタムラと「羽田に住みたいくらいだね」などと軽口を叩いていたものだ。

そんな生活が、コロナで一変した。

「密を避けてください」

講演会など、できなくなった。企業向けにビジネスに役立つ講演会を中心としてきた友人などはオンラインに切り替えるだけでよかった、地方自治体や青年会議所に呼んでいただく講演会では、聴衆が「地域の方々」。高齢者が多くを占め、オンラインでの開催は難しそうだった。

この1年半、「ダイバーシティとは?」といった内容でオンライン講演会に登壇させていただくことはあったが、現地まで赴き、会場にお客様を入れた状態での講演会に登壇させていただいたのはいつぶりだっただろうか。もしかしたらコロナ禍に入って、初めてのことだったかもしれない。

あまりにうれしくて、新幹線に乗るところなんかを投稿してしまった。

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あまりにうれしくて、新幹線の車窓の景色なんかも撮ってしまった。

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あまりにうれしくて、楽屋のお弁当まで載せてしまった。

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講演会が無事に終わって、東京駅に戻ってきた。

いつもは感情をあまり表に出すタイプではないマネージャーのキタムラが、駅の構内で感慨深げにつぶやいた。

「いやあ、やっぱりいいもんですね。これまでは当たり前だと思ってたことだけど」

となりで車椅子を操作しながら、私もまったく同じことを考えていた。ありがたいことに、今週末は岡山県、翌々週には群馬県と、少しずつ講演会への登壇機会が増えつつある。そういえば、会食の誘いもこれまた少しずつだが増えてきた。日常が、戻りつつある。

だからこそ、心に留めておきたいことがある。

昨年4月に書いたnoteだ。

この記事では、コロナ禍によって多くの人が困難に直面していること、しかしマイノリティはコロナ前からそうした困難を抱えていたこと、いくら声をあげても変わらなかったことがマジョリティが同じ困難に直面したら一気に物事が進んだことなどを、私なりの悔しさとともに綴った。

そうして、最後にこう結んだ。

スクリーンショット 2021-09-24 午後1.51.59


私自身の“日常”が戻ってきたことで、つい浮き足立ってしまった。一年半前に自分自身が書いたことを、つい忘れそうになってしまった。こんなときこそ、原点に帰りたい。

9月いっぱいで緊急事態宣言が解除されるところが多く、日常が戻ってくる人も増えてくるだろう。ワクチンの接種率もずいぶん高まってきたし、治療薬についても明るい見通しを伝えるニュースが増えてきた。もちろん、今後の第6波に向けての備えも必要になってくるだろうが、これまでよりはトンネルの先に光がさしてきたような兆しを感じる。


だからこそ、忘れたくない。

多くの人が日常へと戻っていくとき、そこには戻流ことができない人々がいることを。多くの人が戻ろうとしているコロナ前のシステムとは、“マジョリティ”が生きていくことが前提とされ、“マイノリティ”にとっては居場所が見つけられないものであることを。

このコロナ禍において必要だとされ、急ごしらえで用意されたシステムは、コロナが収束しても必要としている人々がいる。そのことを、ぜひ忘れずにいてほしいと思う。

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